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派遣勇者-極天龍の雛守-(5)

「うわっ!!」

 ジェロが地面に勢いよく転がる。このブラク達が作ったお手製の土俵は本物と同じ広さではあるが、転ぶと砂まみれになってしまう。

「なんどやっても同じだ!弱虫ジェロ!!」

 地面を這いつくばるジェロにブラクは吐き捨てるように言う。ブラクにオムスでの勝負を挑んだジェロだったが、為す術も無く地面に転がされたのはこれで4度目である。

「くそっ!」

 悔しさから地面に拳を叩きつけるジェロ。父親を侮辱されたこと、立ち向かったのに何もできない己の無力さに悔しさがこみ上げる。

「ほらほらどうした!」

 ブラクはジェロの脚を掴むとぐるぐると回転を始める。

「うわぁーーーっ!」

 遠心力に振り回され叫び声をあげるジェロ。地面に激しく叩きつけられることを予感し、ジェロは体を丸めて頭を抱える。頭の中はいつ放り投げられるのかという恐怖で一杯になる。

 しかし、突如回転が収まってゆき、それに伴い遠心力も失われると地面に放り出された。恐る恐る目を開いたジェロの瞳に映ったのは、ピンク色の生物。

「もーも」

「え!?」

 何か起きたのかとジェロが周囲を見渡すと、そこにいたのは勇助だった。これまで来ていた服とは違い、スーホーの毛皮で作られた服を上下に纏い、それを一本の帯で結び固定している。

「僕が相手をする。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「臆病者の勇者様じゃないか、お前が勝負だと?」

「ああ。この通り服も用意した。」

 勇助は村長に裁縫が一番得意な村人を紹介してもらい、柔道着をモチーフにこの服を作成してもらった。スーホ―の毛皮を使ったので色は黒色だが、形状は学校で着る柔道着とほとんど同じで、これなら爪が肌に刺さることも無い。

「いいぜ、やってやろうじゃないか。」

 そう言うとブラクは仕切り線の位置に立った。仕切り線の位置は相撲よりも離れており、助走をつければ凄まじい威力でのぶちかましが可能だ。

「位置について」

 ブラクの子分の一人が審判のために中央に入ると合図を掛ける。

「シャッ!!」

 気合の掛け声と共に地面に手を着き前傾姿勢で構えるブラクに対し、勇助も同様の構えを取る。

「こいつっ!!」

 構えを見たブラクは舐められていると思い、歯をぎりっと噛みしめると足にありったけの力をこめる。

(正面からブラクとぶつかるつもり!?)

 身長では勇助が勝るものの、体重ではブラクが有利。まともにかち合えば吹き飛ばされるのは勇助の方だと周りにいた者は考えた。

「よーい!」

 腰を上げ前傾姿勢になる両者。だが獣人であるがゆえに可能なのか、ブラクは頭を地面すれすれに尻を突き上げている。

 それを見た勇助は猫背ぎみで手刀を突き出す姿勢を取った。

「ドンっ!!」

 ダッ!!

 合図と共にブラクが前傾姿勢のまま勇助の両足目掛けて突撃を仕掛けた。ブラクは腕力にも敏捷力にも自信があった。正面から組み付けばそのまま場外へ突き飛ばし、右に逃げても左に逃げても方向を変えて足を掴んで投げ飛ばせる自信があった。

 両者の距離が一瞬で縮まってゆくが勇助はその場から微動だにしない。

(ぶっ飛ばしてやる)

 あと一歩で激突すると思った瞬間、ブラクの視界から勇助が消えた。

「うわぁぁあぁっ!」

 叫び声と共に地面を転がったのはブラクだった。地面をヘッドスライディングするような形でダイブしたため、激しい砂ぼこりが巻き起こる。

「組み合うんじゃなかったのか?」

「勇者の戦い方じゃない・・・。」

 予想外の結果に周囲の子分たちはどよめき、ジェロは絶句していた。

 勇助は低姿勢で突っ込んでくるブラクの上を大股開きで跳躍すると背中をはたいて飛び越えたのだった。上から押し出されたブラクは地面すれすれの低姿勢であったために、思い切り叩きつけられる形となってしまった。

「てめぇ、卑怯だぞ!」

 右肩を抑え息を荒くしながら不満を言うブラク。

「違反じゃないだろ?」

 胴着を作ってもらう間に勇助は村長からオムスのルールを確認していた。

「くっそぉっ!」

 怒りの声をあげブラクが勇助に懐から組み付き、腰の帯を掴み力任せに投げようとした。

「うああっ!?」

 しかし、ブラクに投げられる前に勇助は自分の右足をブラクの左足の内側に掛けてその足を引き、重心を失わせ仰向けにする、相撲で言う内掛けで倒した。

「すげえ!あのブラクを!!」

 先程とは打って変わって歓声を上げる子分達。

「ほう。さすがは勇者様。」

 ジェロはハッと後ろを振り向き、いつの間にかいた村長を見る。

「お前の父、サムを思い出すの~。」

「父さんを?」

 モモを肩にとまらせた村長が昔のことを思い出すかのように目を細め語り始めた。

「ああ。技と機転を利かせ、小さいながらも大きな相手をバッタバッタと投げ倒し、見る者を沸かせるいいオムス取りじゃった。」

 ジェロが土俵に視線を戻すと、再び勇助に組み付いたブラクが足を払われ地面に倒れていた。

「そろそろ助けてやるかの。」

 村長がそう言うと土俵へ入り、ブラクの元へと歩み寄ると口を開いた。

「ブラクよ。これで勇者様の力が分かったじゃろ。」

「ぜえぜえ。」

 息も絶え絶えのブラクに、村長は諭すように語りかけた。

「お前もジェロと遊びたいのなら、素直に誘えばよかろう。」

「えっ!!」

 驚きの声をあげるジェロに対し、勇助は特に驚いた表情を見せない。ジェロとブラクとの取り組みを観察していた勇助は、ブラクが手加減をしていたこと、ジャイアントスイングを中止した時も回転が遅くなってから手を放していたことに気付いていた。

「ジェロ、お前もじゃ。勇者の息子などと言われても気にするな。お前はお前でもっと恐れず進んで他人と触れ合うのじゃ。」

 こくりと頷くジェロに村長は笑みを浮かべると、

「よーし、それじゃお前たち。宴が始まる前に一度家に帰って身支度を整えてこい。」

 村長の号令の下、解散する子供たちを見送る勇助と村長。村長は肩にいたモモを勇助に渡すとにやりと笑みを浮かべた。

「さすがは勇者様。技の切れは言わずもがな、あのような服を用意させるとは。勝負が始まる前に技を掛けるとは恐れ致しました。」

「ははは・・・。」

 村長に見破られたことで笑う勇助。

 勇助が最初の突進を躱したのも、掛けた技もテレビで見ていた相撲や学校の柔道の授業を参考に実践しただけ。村長が言った「勝負が始まる前に~」は勇助が用意させた胴着の事を指していた。ブラクに胴着をわざと掴ませることで柔道と同じ体勢になるよう仕向けたのだ。

 勇助にとっては慣れた体勢だがブラクにとっては初めての体勢。初めから勇助にとって十分勝算のある戦いだったのだ。

「もぉーもぉー」

 当然だと言わんばかりに相槌を打ったモモに勇助と村長は笑い合った。

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