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派遣勇者-極天龍の雛守-(4)

 料理を持った初老の村人が階段を上ってくる。その表情には鬼気迫るものがあり、まるで死刑を言い渡される前の罪人の様だ

「モモ様。こちらが私からのお供え物になります花蜜飴です。」

 差し出されたサイコロ大の飴を僕が掴み、右肩に座るモモに差し出すとぱくりと口に含んだ。

「も~も~❤」

 美味しいらしく、口をもごもごさせながら頷いている。

「美味しいらしいです。」

 そう伝えると初老の村人は涙目になりながら、

「ありがとうございます。これからも美味しい花蜜飴を献上できますよう、一生懸命頑張ります。」

 朝ご飯を食べに村を訪れると、村人から一斉にお目通りと貢物を受けることになった。ゴワゴワした毛皮のカーペットの上に座らせられ、村人から献上された貢物をモモに渡すという流れになっている。

 ジェロの姉が作った朝食を食べた後にも拘らず、モモの食欲は全く衰えない。最初は宝石が献上されたがモモは喜ばず、次に献上された川魚の塩焼きを大喜びで丸呑みしたことで、それ以降の献上品はすべて食べ物になった。

「やっとこれで全員終わったよ~。モモ様、お腹大丈夫なの?」

「もんもん」

 ジェロの質問に大丈夫だと頷くモモ。貢物は一口づつしか食べさせていないが、それでも体積を遥かに超える量を食べたはず。どうやら体内に入った食べ物はすぐに消化されているようだ。

「今夜モモ様生誕の宴を行います。ジェロ、それまでお二人に村の案内をしなさい。」

 崇拝している極天龍の子供が生まれたとあれば祝宴をしない訳にはいかないらしく、村は宴会場設営の突貫工事に入っていた。作業の邪魔にならないよう、ジェロに村の周りを案内してもらう。

「この川は洗濯や飲み水に使われるウェラカ川。下流に他の川が合流した大きなミシッピ川があって、そこで狩りや漁をしているよ。」

 川をよく見ると魚のような生き物が泳いでいる。川を覗いていると水に興味を持ったのか、モモが右足で水面を触った。

「も!も!」

 初めての感触への驚きを僕に見せてくる。

「これは、水。みーずー。」

「もーもー。」

 発音を真似をして話そうとするあたり、地球人の1~2歳児程度の知能があるのだろう。

 母親である極天龍がいない今、どう教育すべきなのかと考える。いや。他人である僕が教育していいのか?

「も”~」

 とりあえず難しいことは教えず、赤ん坊に接するのと同じようにしよう。水に濡れたモモの手をハンカチで拭くとモモはくすぐったそうにしている。

 次に案内された広場には地面が蔓のような植物で丸く区切られた場所があり、周囲には松明を設置するであろう器具がいくつも設置されている。

挿絵(By みてみん)

「ここは何か競技、力比べでもする場所なのかい?」

「そうだよ。ここで年に一度、村の男たちがオムスを競うんだ。」

 一見すると相撲の土俵だ。誰かに管理されているのか、掃除が行き届いている。

「どうやるんだい?」

「1対1で相手を先に土俵の外に出すか、足以外を地面に着けさせたら勝ちだよ。」

 相撲とほぼ同じルールなのかなと思っていると、

「何やってんだジェロ。ここはお前みたいな弱虫が来るところじゃないぜ~。」

 ジェロよりも一回り大きな獣人たちが4人、にやにやしながらやって来た。誰なのかジェロに聞こうとしたが、ジェロのしっぽが下に丸まっているのが見えた。

「こんな頭にしか毛のないひょろひょろ野郎が本当に勇者なのか?」

 どうやらこの獣人がジェロの言っていたブラクらしい。ガキ大将の名に相応しく、他の3人よりも腕と足、尻尾が太い。体を覆うゴワゴワとした茶色の体毛はタヌキを連想させる。

「極天龍に呼ばれた勇者の勇助だ、よろしく。」

「うぅっ」

 極天龍の名を出したからなのか4人は声を詰まらせた。

「調子に乗るなよ!丁度いい、オムスで勝負だ。勇者なら逃げないよな。」

「いや、やめておこう。」

 そう答えると、ブラクはポカンとした顔をしながら批判してくる。

「おい、勇者が逃げるのかよ!」

「まあまあ。僕の世界にも似た競技があるけど、君達とやると肌がズタズタになる。」

 獣人たちの爪は鋭い。相撲と同じように組み合えば、毛皮の無い地球人の肌は簡単に引き裂かれてしまう。

「服を着たままやればいいだろ!」

「服をボロボロにしたくない。」

 地球に戻れば服も元に戻るはずだが、母が残してくれた金で買った大事な制服をボロボロにしたくはない。

「モ”モ”モ”モ”ー!」

「はいはい落ち着いて落ち着いて」

 戦えと言っているのか濁音交じりの声で抗議してくるモモをなだめていると、

「へっ、腰抜け野郎が。」

 やる気が失せたのか、そう言ってブラク達は去っていった。

「どうして、どうして勝負をしなかったの?」

 確かにブラクはジェロと比較して体は大きく、単純な力は僕よりも強そうではある。しかし、それでも負ける気はしなかった。勝負を受けなかったのは、する意義を見いだせなかったからに他ならない。

「する必要が無い。」

「そんな・・・」

 落胆した声と共に、ジェロの首と尻尾がうなだれた。

「勇者なら、あんな奴ら簡単にやっつけてよ!!」

 涙声でそう言うとジェロは村の方へ走って帰っていった。

「もん もーんっ!」

「いたたた、モモちゃん止めて!」

 「泣かせたお前が悪い」と言わんばかりに髪の毛をついばむモモを手で追い払おうとするが、動体視力もいいのか全て躱される。

「どうかしましたかな、勇者様。」

「あっ、村長。」

 いつの間にか背後にいた村長に声を掛けられ焦る。崇拝する極天龍の子に乱暴していると思われてやしないだろうか。

「ジェロが泣きながら走り去っていましたが。」

「それは・・・。」

 心配した様子の村長にブラク達との一悶着を伝えると、村長は「ハァ」と溜息をついた。

「あの子らにはジェロにちょっかいを出すなと普段から言いきかせていたのですが。あの子の父親と同じ“勇者”であるユスケ様の世話を極天龍様から命ぜられたことが、気に喰わなかったのでしょう。」

「ジェロの父親はどんな人だったんですか。」

 ジェロが“勇者”に拘る理由が父親によるものだと考え質問する。

 昔の記憶を思い起こしているのか、村長は目を細め、顎の体毛を撫でながら語り始めた。

「あれは8年ほど前、村で謎の病が流行しました。大人には影響がなく、子供にだけ高熱の症状が出る奇妙な病でした。薬も効かず見守ることしかできない状況の中、ジェロの父であるサム・ニモは極天龍様に治療方法を伺いました。」

 いつの間にか肩の上に座っていたモモちゃんと共に村長の話を聞く。

「“青冷草”。極天龍様からご教示されたのは、北にあるトスレベエ山の頂上付近に群生する希少植物でした。トスレベエ山はこの星でも最も高い山。その頂上は極寒地帯でとても人が立ち入れる場所ではありません。」

 「ゴクリ」とモモちゃんが息をのむ音が聞こえた。村長が語る物語の顛末がまだ、この子には予想できないようだ。

「サムは帰ってきました。たくさんの青冷草を入れた蔓籠を携え、スーホーに乗ったまま。喜び勇んで我々が彼の元へ駆け付けるも、彼は全く動じません。不思議に思った者が彼に触れると青ざめた表情で言いました。『死んでいる』と。」

 子を思う親の心が奇跡を起こしたのだろう。

「青冷草のおかげで村の子らは快復しました。子供たちを救ったサムを我々は“勇者”として扱い、丁重に葬儀を執り行いました。」

「も~」

 甲高い声をあげるモモちゃん。だんだんと鳴き声でこの子の喜怒哀楽が分かるようになってきた。

「サムは力が勝る相手にも類稀な技術と判断力で打ち負かす村一番のオムス取りでした。ですので、」

 土俵から少し離れたところに置かれた石碑を村長は指さした。

「これからも村人たちのオムスを見守ってもらおうと、この石碑の下に埋葬したのです。」

「っ!!」

 僕はジェロの父親が眠るこの場所で“勇者”の名に泥を塗る真似をしてしまったのか。同じ勇者である僕が勝負から逃げたとあれば、落胆するのも無理ない。

「・・・。」

 諍い事は控えようと思っていたが、彼の父親への思いに応えるため、彼を悲しませてしまった己の短慮を償うために戦うことを決意する。

「村長、急いで用意して欲しい物があるのですが。」

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