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派遣勇者-極天龍の雛守-(3)

「中に誰もいない・・・。」

 卵の中に入り、中をくまなく探してみるがやはり何もない。やなりあのピンクの生き物がそうなのか?

「勝手に食べたらダメだって!」

「モーっ!!」

 卵の中から出ると、パイナップルの缶詰を持つジェロの手にピンク色の生物がまとわりついているところだった。背中には2枚の薄い羽根が生えているが、それを全く羽ばたかせず空を自由に飛翔している。

「ユスケーっ!!こいつ滅茶苦茶食い意地が張ってる!これつ!!」

 耐え切れなくなったジェロがこちらに缶を放り投げてきた。

「!!モモモッ。」

 それを受け取るとすかさずこちらに向かって一目散に飛んでくる生物に向け、片手を上げ制止する。

「こらっ!今日はもうだめっ!!」

「も~も?」

 こちらの言っていることを理解したのか、生物は空中で静止すると物惜し気に缶詰を見つめる。

(かわいい・・・。)

 残ったパイナップルの缶詰を差し出したくなる衝動をぐっと堪える。生まれたばかりの赤ん坊に食べさせ過ぎるのも不味いだろう。そもそも地球の果物を食べさせて良いのだろうか。

「今日はもう遅い。食べるのは明日。」

 説得が通じたのか幼い龍は右肩に降り立つと一声鳴いた。

「も~。」

「よしよし。」

 赤ん坊をあやすように右手で頭を撫でてやる。

 姿を表現するならば、顔が可愛くなったウーパールーパーと言ったところか。肌は卵の殻とは違ってぷにぷにと弾力があり、保湿がいいのかしっとりとしている。

「も~も~。」

 気持ちがいいのか首を伸ばしてこちらの目を覗いてきた。瞳はキラキラと虹色に光る宝石のようで、僕の姿が反射して写っている。

「すごいよ、ユスケは。」

 口をポカンと開いたジェロがポツリと漏らした。

「何がだい?」

 何のことを言っているのわからずに聞くと、ジェロは被りを振りながら答えた。

「極天龍の御子様をそんな風に躾けるなんて、恐れ多くてできないよ。」

 そう言われてハッとする。あの極天龍の子供ならば、何かとんでもない力を持っている可能性は十分ある。

「えーと、君は、何か、すごい力があるの?」

「モモ?」

 首を傾げる姿に心が揺らぐ。どうやら言葉は何となくしか理解できていないようだ。

「もあ~。」

 幼龍が大きく欠伸をし、口をもごもごさせる。殻を破るのに疲れたのだろう。

「この子も疲れたみたいだし、もう寝よう。ジェロも村に帰るには暗いから、ここで一緒に寝よう。」

 それから手卵の破片をベッド代わりしてから仰向けに寝転がる。

「も~、も~」

 胸の上で熟睡する幼龍の声を聞きながら瞳を閉じる。なぜだろう。不思議と心が落ち着き、すぐに眠りにつくことができた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 トクン、トクン、トクン。

 不思議な音。生きている音。命の音。

 規則的に、リズムを奏でるかのように鳴り響く。

 儚く、脆く、簡単に消えてしまいそうな音。

 ずっと、ずっとこの音を聞いていたい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ギャオーーーーンッ」

 卵の破片をまき散らしながら、中から巨大な怪獣が現れた。

「うわぁーーーっ!!」

 悲鳴を上げながら必死に逃げるも恐竜との距離はぐんぐんと縮まり、とうとう巨大な足が頭上から降ろされると意識が真っ暗な闇の中に落ちしまった。

「うーん、く、くるしい。」

 地面と足に挟まれ、息がし辛くなってゆく。

「ブハッ!!」

 ゼーゼーと口で息をしながら目を覚ますと、目の前にはピンク色の物体が。

「もも?」

 どうやら胸元にいた幼龍が鼻の穴を塞いでいたようだ。悪びれた様子も無く幼龍は元気に鳴き喚く。

「もーも!もーも!」

 おはようと言っているのか、腹が減ったと言っているのか。少なくとも謝罪では無さそうだ。幼龍はふわりと浮くと洞窟内をあちこち飛び回り始める。

「ジェロ、起きてくれ」

 隣の殻の上で寝ていたジェロを揺さぶり起こす。

「ふわー、おはようユスケ。」

「ジェロ、朝ご飯を用意しよう。あの子にも何か食べさせないと。」

 欠伸をして頷くジェロと共に外へ出かけようしたところ、

「勇者様!勇者様はおられますか!」

 しわがれた声が響いたかと思うと、外へつながる通路から年老いた獣人が現れた。

「村長どうしたの。」

「ジェロか。いやなに、昨晩の地響きで勇者様が洞窟の下敷きにでもなってやしてないかと心配で見に来たんじゃ。この方が勇者様かえ?」

「勇助です。よろしくお願いします。」

 自己紹介をすると村長は目をクワッと目を見開いた。

「これはこれはご丁寧に。麓の村の村長ゴートと申します。」

 視線が手足に及んだのを感じた。やはり地球人のような姿は珍しいのだろう。

「もももーっ!!」

 幼龍が右肩にとまり鳴いた。自分も自己紹介をしたいのかな?と思っていると、

「あ、あ、あ、ああああ」

 村長が幼龍を指差しながらプルプルと震え始めた。

「ま、まさか、その右肩におわすのは・・・。」

「昨晩生まれた極天龍の幼龍です。」

 そう答えると村長の震えはもはや痙攣レベルに達した。

「み、みみみ、御子龍さまぁーーーーー!!」

「村長っ!落ち着いて!」

 ジェロが村長の背中をさすり宥めることで、何とか落ち着くことができた。

「と、取り乱して申し訳ありません。まさか生きている間に御子龍さまにお目にかかれるとは思ってもいなかったもので。興奮してしまいました。」

 村長はひっひっふーと呼吸をすると、

「御子龍様、お初にお目にかかり光栄です。遠い昔、あなたのお母様に命を助けられましたナイドゥニ族の末裔で麓の村の村長をしておりますゴートと申します。」

「もーも」

 やはり幼龍は言葉を理解できないのか首を傾げながら鳴くだけ。ところが村長はその鳴き声を聞くや否や再び体を震わせ始めた。

「おおっ!!モモ様!お名前を頂戴し、誠に感謝の極みであります!!」

「もーも❤」

 感激のあまり涙を流す村長に対し、誇らしげに頷く雛。

「え?それが名前に!?」

 思わずそう言うと、雛は確かに顔を上下させて頷いた。今ここに極天龍の子の名前は“モモ”に決定した。

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