プロローグ
(ここは・・・?)
そこは洞窟の中だった。
しかし、洞窟と言っても全くの暗闇という訳では無く、空に輝く月の光が天井から注がれており、うっすらと周囲を視認することができた。
足元には木製で側面にハンドルが付いた、いかにも古めかしい電話が置かれている。
(これが召喚機なら、呼び出した人はどこに?)
前回の様に戦闘がすぐ始まる可能性を念頭に、ズボンのポケット内のトライガンに手を掛けながら周囲を見渡すが誰もいない。
電話の後ろには壁があるだけで、周囲にも人が隠れるような場所は無い。きょろきょろと辺りを見渡していると、
《目の前にいる。》
頭の中に直接《声》を感じた。
《上だ。》
声に従い上を見るもただ壁が高くそそり立っているだけ。上に誰かいるのかと思い、後ずさりながら上を見つめる。
《顔を降ろそう。》
声がそう響いたかと思うと、壁がしなやかな蛇のように“グニュリ”と動いた。その巨体が動いたことで洞窟内の空気が激しく揺れ、声の主が眼前に現れた。
「ドラ・・・ゴン・・・!?」
瞳からは地球のどんな宝石よりも鮮やかな輝きが放たれ、鱗は虹のように光のあたり方で色が変化しており、永遠に眺めていられるような感覚に陥るほどの美しさだ。
顔つきは地球で描かれる西洋のドラゴンに似ているが、とてもモンスターなどという言葉では言い表せない。人間なんかより遥かに上位の存在だと断言できる。
《ドラゴンか。私はこの星では極天龍と呼ばれている。》
「極天龍・・・。」
思わず跪いてしまいそうになるのをこらえる。
《呼んだのは他でもない。私の願いを叶えてもらうためだ。》
そう言われてハッとする。そうだ、勇者として呼ばれていたんだった。しかし、こちらよりはるかに強く、テレパシーもできるような存在の願いとは、一体どれほど困難な願いなのか?
《私の願いは・・・》
クジラが皮膚に付いた寄生虫をコバンザメに食べさせる様に、もしかすると体が大きなせいで小さい外敵は苦手で、その処理をさせようとしているのか?
手を強く握り、どんな願いを言われるのかとごくりと唾を呑む。
《留守にする間、卵の見張りをしてくれ》
その言葉を聞いた途端、間の抜けた声が出た。
「へ!?」




