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派遣勇者-SENT BRAVE-(35)

挿絵(By みてみん)

 宙に浮いたまま両腕を天に広げ、歓喜の声を轟かせるクロスイエロー。放たれる雰囲気はこれまでとはまるで違い、突き刺さるようなプレッシャーを放っている。

【私は確信していた!いつか必ず力を求める者が現れると!!まさかそれが勇者の鎧を受け継ぐ者で、その体を頂くことになるとは思わなかったがな。】

「カインッ!!クロスから離れろっ!!」

 柱を支えに何とか立ち上がったメシアが吠えた。それを聞いたカインはクロスイエローをマリオネットのように操ると人差し指を向け冷たく言い放つ。

【スペアボディ風情がほざくな。】

 するとメシアに向かって砲塔が出現。光が収束され荷電粒子砲が発射されるという直前に、

「チャージショット!!」

 砲身から光が消え、発射されたチャージショットを防ぐための障壁が現れた。チャージショットが障壁に当たり激しくプラズマを発生すると、障壁は銀色の液体へと変貌した。

『消えろ青き鎧!!』

 カインの咆哮の下、さらに数を増す荷電粒子砲。すぐさま回避行動に移るトライブルーだったが、大量に発射された内の1つが胸部へと命中した。

「ぐ!!」

 命中する直前、装甲表面にナノマシンキラーが展開され荷電粒子がスーツを貫通することは無かった。それでも粒子の干渉により斥力が発生し、トライブルーは後方へと大きく吹き飛ばされる。地面を跳ね、柱にぶつかりようやく停止すると、ダメージ限界を超えたことでスーツが解除される。

【ざまぁないなトライブルー!!青き戦士がいない今、もはやこの世界で私に敵う者などいない。地上の人間どもを一人残らず駆逐し、私が新たな世界を創造する!!あはははははははh】

 狂ったような笑い声が貯蔵庫に響く中、倒れかけた勇助を支えたのはメシアだった。

「お前は逃げろ。俺がケリを付ける。」

「!?」

「電晶石のオーバーロードで電磁パルスを発生させ、辺り一帯の機械を停止させる。もともと俺が蒔いた種だ。俺自身の命で償う。」

 このセリフと頑固さは勇助にノアを想起させた。

「いい加減にしてください。どうしてそうすぐに諦めようとするのですか?」

 勇助はメシアの肩を掴み揺すりながら、メシアの顔を見据えて話す。

「無茶だ。単機では奴に近づくことも、ダメージを与えることもできない。」

 弱気な発言をするメシアの手をギュッと握る勇助。

「戦争を終わらせるために、あなたを生かすためにノアも僕も戦ったんです!!」

 その言葉にハッとした表情を見せたメシアは、勇助の手を強く握り返した。


 8本足を器用に動かしトライブルーが吹き飛んだ方向へ進むカイン。荷電粒子砲が命中して体に穴の開いた死体が転がっていると予測していたが死体は無く、代わりに左右に2つの生体反応を捕らえた。

【きさまら・・・。】

 二人の手にそれぞれ握られたクロスガン、スクエアガンが天に向けられる。

「トライチェンジっ!」

「スクエアチェンジッ!」

 スーツを装着し接近してくる2人に向け、クロスイエローを操りクロスガンを発射する。

【ハハハッ!二人なら勝てると思ったのか?貴様ら勇者の武器で死ね!】

 激しく飛び交う青・赤・黄の光弾だが、カインに命中するはずの光弾だけはナノマシンの障壁で防がれ、トライブルーとスクエアレッドは回避に重点を置かざるを得ない。

 攻撃の手数を増やさんとカインは脚部の前二足を変形させ弓の形にすると、ナノマシンの矢をスクエアレッドへと射出した。

「チッ!」

 矢の回避を優先し、数発の光弾に命中するスクエアレッドだったがそのまま突撃を仕掛ける。

【ハンッ!】

 ナノマシンがクロスイエローの手に集結し、長大な片手剣が両手にそれぞれ握られる。スクエアレッドが接近戦を仕掛けることはカインの想定内だった。

 障壁はチャージショットまでなら防御可能だが、スクエアレッドの持つクリムゾンブレードのチャージスラッシュは障壁を容易く切り裂く。

 格闘と射撃しかできないトライブルーよりもスクエアレッドを脅威と捉えたカイン。障壁をトライブルーの方へ集中して展開させつつ、接近するスクエアレッドへ右手の剣を振り下ろす。

「チャージスラッシュ!」

 スクエアレッドの声を聞きほくそ笑むカイン。チャージ攻撃はナノマシン特攻ではあるがその反面、同質の攻撃には強い反発作用が発生する。ナノマシンの剣の中に隠したクロスブレードを打ち合う際に露出させ、反動で体勢を崩したところを攻撃する―。それがカインの狙いだった。

(ん?)

 しかし、剣を振りかぶる途中でカインは異変に気付いた。チャージスラッシュの掛け声をしたはずのスクエアレッドの手には、何も握られていなかった。

「ブオンッ!!」

 押し潰されそうになるほどの剣のプレッシャーを物ともせず、紙一重で回避するスクエアレッド。間髪入れずに襲い掛かる左手の剣へ両手を挙げて構える。

「バシンッ!!!!!!」

 振り下ろされた剣をスクエアレッドは白刃取りで止めた。その凄まじい衝撃から周囲の地面にひびが入る。身動きのできない今がチャンスと、カインは右手の剣で刺突を試みる。

 だが何故スクエアレッドはクリムゾンブレードを使わないのか?その疑問がカインの頭をよぎった瞬間、

「ザンッ!!」背後を切り付けられた音がした。

 切りつけられると同時に襲い掛かる強烈な不協和音。この感覚はカインにとって忘れられるものでは無い。即座に攻撃を受けた部位は排除(パージ)し、全身へナノマシンキラーが循環するのを防ぐ。

 背部カメラには青い刃を振りかざすトライブルーが。すぐさまカインは右手の剣で薙ぎ払うと続けざまに矢を放ちトライブルーを後退させる。

 トライブルーの持っているビーム刃発生器は本来スクエアレッドのもの。クリムゾンブレードを所持するスクエアレッドへ攻撃を集中し、トライブルーを障壁で足止めするというカインの作戦は読まれていた。

【オノレェェェェエェェッ!】

 倒すべき優先度が上がったトライブルーに対処するため、さらに増やした腕に槍を握らせ突き立てるもナノマシンキラーを帯びたクリムゾンブレードによってすぐさま無力化されてしまう。

「はあああああああああああっ!!」

 じりじりと接近され、とうとう本体である蜘蛛状の脚部が切りつけられるという寸前でカインが叫んだ。

【待てっ!!待つんだ!!私を破壊すれば、中で眠っているノアも消滅してしまうぞ。】

 武器を持たない手の平を見せ待ったをかけるカインにトライブルーの手が止まった。

【バカめっ!!】

 その隙を突き、左右から二つの手がトライブルーを強烈に挟み込む。

「ぐぅぅっ!!」

「チャージスラッシュッ!!」

 トライブルーを握る手を赤い光が両断し、クロスガンを手にしたスクエアレッドが割って入る。

 スクエアレッドは白刃取りをした剣にナノマシンキラーを流し込み、中のクロスガンを奪取していた。センサー機器に誤作動が生じそのことに気付いていなかったカイン。やはり体内を既にナノマシンキラーが巡っていたのだ。

 液体となった手から解放されたトライブルーが着地する。

挿絵(By みてみん)


「ゆくぞっ!!」

「はいっ!」

 スクエアレッドの声にトライブルーが力強く答える。

【死ねぇ!!青き戦士の遺物が!】

 一斉に放たれた荷電粒子砲を、ジャンプで回避した二人は眩い光を帯びた銃をカインへ向ける。

「「チャージショット!!」」

 巨大な青と赤の光弾が放たれた。

【させるか!!】

 幾重にも重ねた障壁を展開させ、最大出力の荷電粒子砲を発射すべくチャージを開始するカイン。

「バチバチバチっ!!!!!」

 一枚目の障壁に光弾が命中し、着弾点にてプラズマが激しく音を鳴り響かせ広がる。

「「うおおおおおぉおぉぉ!!」」

 そこへ足を突き出した2人が空中から高速で突撃するとプラズマを蹴り込んだ。

 1枚、2枚と次々に障壁を貫通しながら迫る2人にカインは恐怖を覚えた。

 チャージされていた荷電粒子は50%未満に過ぎなかったが、恐怖のあまりに発射してしまう。

【✠使用権限がありません✠】

 突如発生したエラーに驚愕するカイン。その間に最後の障壁が破られると青と赤の光に吞み込まれた。

【プログラムが書き替えられたっ!?ノアめーーっ!!】

 2人のキックを受け、断末魔をあげながら吹き飛ばされるカイン。地面を擦りようやく停止するとブクブクと発泡しながら呻き声を上げつつ、蜘蛛の脚だけが地面を這いつくばる。

【お、おのれ、青き 戦士。キサマの ような イレギュラー さえ、いな けれ ば】

 カインの断末魔と共に奇獣は液状化し、辺りに銀色の水溜まりできる。その中にクロスを包んだ光り輝く丸い玉だけがが残った。

「これでお別れですメシア。これからも 人々を良い 方向へと導いて。そして あり が とう あおき ゆうしゃ ユースケ ・・・」

 玉は感謝の言葉を告げると全てが溶け出し、液体となって消滅した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ティターンのコクピット内ではユーミカがコンソールを叩き、本当の意味での最終チェックを行っていた。

「何とか背中のジェットエンジンで接近することはできます。自爆のカウントは何秒にしますか?」

「10秒だ。」

 ロムアの返事を受けてユーミカが数値を入力する。全ての武器を失った彼らだったが、せめて1機だけでも損傷を与え、味方部隊の撤退までの時間を稼ぐための自爆特攻を決意した。

「口を開けて砲撃体制に入ったら突っ込むぞ。」

「分かりました。」

 2体のメタルザウラーは横並びのまま歩みを止めると、同時に発射態勢を取った。万が一片方が攻撃を受けても片方が攻撃を続行し、確実にティターンを撃破する作戦だ。

「エネルギーが最大まで溜まる直前を狙うぞ。」

 片方が発射した荷電粒子砲を誤射で巻き込むことができるかもしれないというロムアの作戦だ。

「まだだ。」

 チャージを待つ二人の額に汗が流れる。死を受け入れた今、とてつもなく圧縮された濃密な時間を二人は感じていた。

「ゆくっ いや待てっ!!」

 合図を出しかけたロムアが急遽、制止した。

「チャージを止めた?」

 発射態勢を取っていたメタルザウラー2期が口を閉じると反転し、背中を向けそのまま帰ってゆく。その姿を呆然と眺めていると、艦から通信が入った。

「敵の全部隊が戦闘を停止、帰投してゆきます。」

 その知らせを聞いたロムアは心の中で叫んだ。

(やったのか!!ユースケ!!)

 ロムアの頬を涙が伝った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 変身が解け、傷だらけの勇助とメシアが銀色の水溜まりの上で立ち尽くす。勇助が横目で窺ったメシアの表情は晴れやかでありながらも悲しみを感じさせるものだった。

 きっと彼はもう、戦争を続けることはない。愛する人の最後の願いを破るようなことは決してしない。勇助がそう確信する中、体から白い光があふれだした。

「これは?まさか元の世界に!?」

 この世界における勇者の役目を終えたという達成感と共に、どこか寂しさを感じる勇助。メシアとは命を懸けた戦いをした間柄だが、最後に伝えたいことがあった。

「ノアが守ったこの世界を、あなたに託したこの世界を守ってください。」

 メシアが頷いたのを見た勇助が笑顔を返す。視界は光で埋め尽くされ真っ白に染め上がっていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はっ!!」

 瞳を開けると畳の上でうつ伏せの状態。ゆっくりと起き上がり体をまさぐるが異常は見つけられず、服装も家に帰って来た時の学生服のままで破損も無い。服の下に手を這わせるも、やはり体には傷一つない。ふと時計を見て驚く。

「夢、だったのか?」

 家に帰り着いてからまだ30分と経っていなかった。

 ノアに導かれるまま勇者としてトライブルーに変身し、願いを叶えるべく戦った記憶。ロムアさんやユーミカさん、イニーバさんにルアとの出会い。クロスイエロー、スクエアレッドとの闘い。あれらがただの夢だったとは思えない。

 ふと、ちゃぶ台の上に置かれていた物を見て驚きの声を上げる。

「トライガン!!」

~願いを叶えた勇者はその世界のモノを1つ持ち帰ることができる~

 ノアの願いを叶えたあの時、持ち帰る物としてトライガンが選ばれた。

 トライガンを手に仏壇へと向かうと、そこにはまだ半分までしか燃えていない線香があった。りんを鳴らしもう一度線香を上げ、写真の母へ語りかける。

「母さん。僕、勇気を出したよ。挫けそうに、逃げたくもなったけど、みんなが勇気をくれたから、最後まで頑張れたよ。」

 いつの間にか溢れていた涙を拭う。ふと、写真の中の母にどこか違和感を感じた。これまでは憂いを帯びて見えた母の表情が、今は微かに笑みを浮かべ優しくこちらを見守っているかのように思えた。

 目を閉じ拝んでいると、居間から聞こえてきたのはあの音。

「ジリリリリリーン!」

 呼び出し音が鳴り響く中、暗闇の中で思い悩む。受話器を取れば再び異世界へ飛ばされ、危険の中で戦い、傷つき、倒れ、次こそは命を落とすかもしれない。

(それでも)

 目を開き居間へと歩みを進める。

 きっとどこかで、願いを持つ誰かが待っている。そして、その願いを叶えられる者として選ばれたのが僕なのだとしたら・・・。

 受話器を取るため居間へ移動しようとした瞬間、あることに気付き急いで仏壇へと戻る。

「母さん行ってきます!供えてすぐに悪いけど、これ持ってくね!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 勇助は仏壇に上げていた桃とミカンの缶詰を脇に居間へ向かい、黒電話の受話器を上げると一際元気な声で言った。

「もしもし、勇者!空乃勇助です!!」  

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