派遣勇者-SENT BRAVE-(34)
トライブルーが吹き飛ばされた後、メシアはトライガンを回収すべくゴーレムタイプのドロイドを3体起動させた。一見するとアシリマ軍が使用しているモノと同じに見えるが、これらは空の民が製造した“オリジナル”である。
船内で保管されていた物で出力・装甲・推進力ともにアシリマ製とは桁違いの性能を誇り、搭載された複合マルチセンサーによって広範囲探知が可能だ。
再び屋上の荷電粒子砲設置場へメシアは向かうと、先程の戦いで外装に損傷が無いかを調べ始める。
特に異常も見つからず、そろそろゴーレム達もトライガンを発見した頃だろうかとトライブルーが飛ばされた方向を見る。
3体のゴーレム1列になり、何かに突進を仕掛けていた。
まさかトライブルー以外に誰か侵入者がいたのかと驚くメシア。探索中でも侵入者がいれば撃退を優先するようにゴーレムの行動パターンは設定されていた。
ゴーレム達が一体何を目標に突進しているのかを確認するためにスクエアレッドのズーム機能を使おうとしたところ、青い光が煌めいた。光はゴーレム達の腹部を3体まとめて貫通すると、そのまま青空へと消え去った。
(トライガンの最大出力でのチャージショット!?機能が復活したのか?)
メシアが見たのは花畑に横たわるノアとその傍に立つトライブルー。ゴーレム達が火花を上げて地面に倒れ伏す中、それを乗り越えトライブルーがこちらに向かって突き進んで来る。
ノアがその身を犠牲にしてトライブルーの機能を再生したことをメシアは察した。
全力で戦い周囲に被害を及ぼすことを恐れ、スクエアレッドは屋上から飛び降りた。
着地してすぐに腰のハードポイントからスクエアガンを取り、「ブレード」の掛け声で銃先から赤い刀身を出現させる。
(あんな素人に負けるはずがない。)
真っ直ぐに突っ込んでくるトライブルーに対し、クリムゾンブレードを構えるスクエアレッド。
銃撃・殴打・蹴り。ありとあらゆる攻撃に対し、カウンターを決める自信がメシアにはあった。
(さあ、どう来る!)
「はあああああああああああっ!!」
トライブルーは攻撃の素振りを一切見せずに、雄叫びを上げ尚も突っ込んでくる。
「なにっ!」
トライブルーの狙いに気づき、スクエアレッドが咄嗟に突き出したブレードがトライブルーの左肩を貫通する。
「はあああああああぁぁっ!!」
ブレードが肉体を貫通しているにもかかわらず、トライブルーはスクエアレッドの胸元を羽交い絞めにするとそのまま突進を続けた。
「くおおおおおぉぉぉ!?」
抵抗しようとブーストダッシュを発動するスクエアレッド。それでもトライブルーの勢いを止めることはできず船の壁を次々にぶち抜いて行く。
スクエアレッドは床に足をめり込ませギャリギャリと音を鳴らしながら、左腕でスクエアレッドの頭を殴りつける。それでも突進し続けるトライブルー。一際分厚い壁を突き破ると、先程2人が戦っていたナノマシン貯蔵庫に出た。
トライブルーは勢い衰えず尚も突き進み、スクエアレッドの背中が柱にぶつかると思われたその瞬間、
「もらった!」
両足を足後ろに上げると最大出力で脚部から空気を噴出し、柱と足の間に発生する圧力によって力を拮抗させる。
「チャージスラッシュ」
左肩に突き刺さった刃先へナノマシンキラーを充填させ、そこから切断することを狙うスクエアレッド。
「なにぃっ!」
しかしそこで予想外のことが起きた。刃先が真っ赤に輝くのに合わせてトライブルーの左肩も青く輝き始め、ナノマシンキラーが刃先を包み込み保護していた。本来搭載されていないはずの機能にメシアは驚愕した。
(ノアが何かしたのか!?)
動揺するメシアをよそにトライブルーは声高に叫ぶ。
「チャージスマッシュ!!」
様々な状況を想定した戦闘訓練をクロスと何度も行ってきたメシアにとって、組み付いた状態から放たれた大ぶりのパンチなど防ぐのは容易なこと。訓練通り、相手の腕が伸びきる前に腕を抑えようとしたメシアだったが、その最中ある違和感に気付いた。
(腕が発光していない?)
メシアがそう思考する中、トライブルーの青く輝く頭部が叩きつけられた。
チャージによって威力が増大したヘッドバットによって互いに大きく吹き飛ぶ両者。
「おぉーっ!!」
「ぐっ!かはっ!ごはっ!!」
頭に手を当てすぐに立ち上がるトライブルーに対し、地面を転がるスクエアレッド。脳を揺らされたメシアは一過性の脳震盪に陥っていた。
「キサマアァァアァァァッ!キサマに何が分かるっ!!」
ふらふらになりながらも何とか立ち上ったスクエアレッドが叫ぶ。
「俺にとってメシアは母同然。助けようとして何が悪い!どうせ下らぬ戦争で失われる命なら、ノアのための犠牲になる方がまだマシだ!!」
鬼気迫る心からの叫びに勇助は静かに息を吸い込むと、
「きっと、きっと僕があなたと同じ立場だったなら、同じことをしたでしょう。」
「なに・・・!?」
まさか肯定されるとは思わなかったメシアは油断を誘う罠かとたじろぐ。
「もしも僕を呼んだのがあなただったら、手伝ったかもしれない。でも僕は、メシアの願いを叶えるためにこの世界に呼ばれた。だからー。」
手をぐっと握りしめトライブルーは言い放つ。
「あなたを止めるっ!!」
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「ハァッ!!」
柱の間を飛び交いながら接近し、パンチを繰り出すトライブルー。
「フッ!せぁっ!」
それを躱し、カウンターの蹴りを放つスクエアレッド。互いに一進一退の攻防が繰り広げられる。
「ぐっ!はっ」
蹴りを両腕で防御した衝撃で後方に飛ぶトライブルーはその勢いを利用し、後方の柱を蹴ってさらなる勢いをつけて飛び蹴りを繰り出す。
「ぐおっ!?」
蹴りを上手くいなすメシアだったが、脳内ではトライブルーの動きに戸惑っていた。
(間違いない。こいつ、動きが良くなっている・・・。)
ノアの再調整によって何か新たな機能が付け加えられたのかと考えたメシア。この男にノアが全てを託したのかと思うと我慢がならなかった。
「例えどんなにこの手が汚れようと、俺はノアを救って見せる!」
怒号と共に左右のパンチを繰り出すが、トライブルーはそれを難なくいなし距離を取る。
「あなたも分かっているはずだ!それが最も彼女を悲しませることだと!!」
「ダマレェーーーッ!!」
雄叫びを上げたスクエアレッドが銃を取り出すと、それに合わせてトライブルーもトライガンを抜く。
双方ダメージと疲労は既に限界を越えており、この攻撃で決着をつけるつもりだ。
「「チャージショット!!」」
青と赤の光弾が放たれ衝突し、激しくぶつかり合いながらも拮抗する2つのプラズマ。そこへ迷うことなく両者が蹴りの体勢で飛び込んだ。
それぞれの光弾が吸収された脚部が眩い光を放ち始めると、2人のキックが激突。超高密度のプラズマが周囲の空気をイオン化させる。
「でぇぇぇぇぇやああああああああ」
一人は愛する女性を守るために。
「はーーーーーっっ!!」
もう一人はその女性の願いのために。
ふたりの叫び声が響き渡る中、互いのキックがせめぎ合う。威力は互角。しかし、それぞれが背負う“もの”には大きな隔たりがあった。
「うおーーーーーっ!!」
「このマザコン野郎ォーーーーーっ!!!」
己の願いのために戦う者、誰かの願いのために戦う者。勇者の鎧が応えたのは後者だった。
『バジッ!バジジッ!!』
一際大きな光球が発生。放電する一帯の中から現れたのは青い鎧だった。
「ぜぇっ、ぜぇっ。すぅ~~~はぁ~~~。」
膝に手を着きながら息を整える勇助。だが地面に倒れたスクエアレッドから注意は逸らさない。
「俺が敗れた・・・だと。」
尚も起き上がろうとするスクエアレッドの装甲から赤い光が消え変身が解除される。
「あなたは言いました。僕がここまで生きてこれたのはトライブルーの力のおかげだと。でもそうじゃない。勇気を出して共に戦ってくれた、助けてくれた人達がいたからここまでこれた。」
メシアは力が抜け落ちたかのように仰向けに倒れた。
「俺は間違っていたのか?」
片手で顔を覆いながら呟くメシアに勇助は、
「自分のために、我が子に戦争を強いることを良しとする。そんな親なんていません。」
勇助の言葉にメシアは肩を震わせた。後はノアのオリジナルボディを破壊すれば終わりかと考える勇助だったが、ヘッドパーツ内から突如、警告音が鳴り響いた。
【WARNING‼ WARNING‼ 高エネルギー反応接近中!!】
周囲を警戒しトライガンを構える勇助。すると天井から凄まじい衝撃と共に巨大な何かが落下した。
「兄さんを殺らせはしない!!」
巨大な蜘蛛のような機械に乗って現れたのはクロスイエローだった。クロスイエローはコクピットから身を乗り出しながらメシアに向かって叫ぶ。
「兄さん待ってて!!こいつを使ってすぐに始末するから。」
しかし、救援に現れたはずのクロスイエローにメシアは慌てた様子で叫ぶ。
「クロス!そいつから降りろ!!そいつは危険だ、何が起こるか分からん!」
「大丈夫さ兄さん。こいつでトライブルーを葬ってやる。」
コクピットの前面が波打ったかと思うと砲門が形成され、そこから眩い光が発射された。
「くっ!」
咄嗟に横っ飛びで回避したトライブルー。後ろを振り向くとそこにあった柱が、まるで消しゴムで消したかのように綺麗に消失していた。
「荷電粒子砲の力、思い知るがいい!!」
砲門がさらに二つ生成され、そこから一斉に光が放たれた。回避に専念するトライブルーへ嬉々として攻撃を加えるクロスイエロー。そんなクロスイエローにメシアは怒気を強めた口調で言い放つ。
「いい加減にしろクロス!そいつは荷電粒子砲のデータ取りのために復元しただけだ!未知の部分が多すぎて何が起きるか分からん!」
「兄さん・・・。」
必死の叫びが通じたのか攻撃を止めるクロスイエロー。
「でも兄さん、こいつをどうにかしないとっ!ガッ、ぐぅっ!?」
クロスが言葉を言い切る前に異変は起きた。クロスイエローの体がビクビクと震えたかと思うと、体がふわりと宙へと浮き上がった。背中には銀色の糸のようなモノが繋がっており、出所を見ると蜘蛛の後背部からそれは伸びていた。
不吉な予感がしたトライブルーがコックピット目掛けトライガンを連射する。
“パリパリンッ”
光弾はコックピットの前に現れた銀色の障壁に弾かれた。
「なにっ!?」
ケーブルで吊り上げられているクロスイエローに今の防御が可能なのかと勇助が怪しんでいると、機械的な音声がクロスイエローから響き渡った。
【くははははっ 待っていたぞこの時を!!】




