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派遣勇者-SENT BRAVE-(2)

 気がつくと手に受話器は無く、何故か薄暗い電話ボックスの中に。目の前には白衣を着た女性が受話器を持ったまま、こちらを見下ろしている。

 立ち上がり周りを確認する。すぐ近くにドローンが浮かんでおり、その下には誰かが2人うずくまり呻き声をあげていた。

「ウッ!!」

 突如、女性が強い力で背中を掴み地面に押し倒してきた。

『ガガガガッ!』

 その直後、自分が立っていた場所を銃弾が通り過ぎて割れたガラスが降り注ぎ、頬から血が流れる。頬から感じる熱い痛みと滴り落ちる赤い血がこれは現実だと教える。

 伏せた態勢のまま、女性が切迫した様子で叫ぶ。

「勇者よ!助けて下さい!!」

 勇者?何で勇者?まるで意味が分からず思考回路がショートしてしまう。

「あのドロイドを撃破して下さい。」

 ドロイド?銃を撃ってきたあのドローンのことか?あれに攻撃しろと?

「どうやって!?無理ですよ!!」

 パニック状態の頭ではこう返答するのがやっとだった。すると女性は少し思案した後、質問をしてきた。

「あなたは勇者なのですよね?特別な力や武器を持っているのでは?」

「そんなものありませんよ!!ただの学生です!」

 上ずった声でそう答えると女性の表情は一見変わらないものの、酷く落胆した様な気配を感じた。

「仕方ありません。」

 女性は本来タウンページが収納されている場所から何かを取り出した。

 側面に青い三角形の刻印が施されたそれは、一見すると玩具の銃に見えた。

「今は現状を打破しましょう。」

 そう言うと銃を僕の手に強く握らせ目を見つめながら、

「あなたが勇者でなくても、今この場で戦えるのはあなたしかいません。どうかこれで”変身”して戦って下さい。私達を助けて下さい。」

 その真剣な眼差しから、今この状況が生きるか死ぬかの瀬戸際なのだと理解した。もし戦わなければ自分だけでなく、この女性や倒れ込んでいる人達も殺される。

 心臓が激しく鳴り響く中、どう行動すべきなのか必死に考える。ふと母の言葉が脳裏をよぎった。

『もし困っている人がいたら、できる範囲でいい。勇気を出して助けてあげるの。』

 母の教え。己の名の由縁。

「それを使えば…、僕でも戦うことができるんですね?」

 不安に満ちた質問に対し、女性はこちらの目をまっすぐに見つめながら、

「できます・・・。」

 その言葉に震えの止まらない手をグッと握りしめながら、勇気を出して言う。

「僕にできるのなら・・・、やります!」

 彼女は力強く頷くと、反撃の手順を語り始めた。

_______________________

 ドロイドがゆっくりと接近し、うつ伏せになった2人を射線に捕らえるその直前、

「3・2・1ッ!!」

 2人で一斉に立ち上がるとドローンは空中で停止し、銃口を向ける。

「撃たれる」恐怖で体が硬直してしまうも彼女は背後から僕の手を掴むと天に掲げ、指ごと銃の引き金を強く押し込むと叫んだ。

「トライッ チェンジッ!!」

 銃の先端から光が放たれ、頭上で青く輝く三角形の形になり回転している。

 何かが弾かれる音が聞こえ、前を向くと火花が発生している。どうやらドローンが発砲した銃弾から光が守ってくれている。

 ドローンからの銃撃が止み、女性が背中から離れると三角形の光がゆっくりと頭上を下降し、ヘルメットの様なモノで頭が覆われる。さらに光は下降して行き、光がつま先まで到達すると全身が装甲で覆われた。

挿絵(By みてみん)

「その銃で敵を撃って!」

 言われたとおりに両手で銃を構え狙いを定めようとするが、こちらよりも先にドローンが発砲した。銃弾が頭と胸に命中して小石がぶつかるような痛みを感じるが我慢できない程では無い。銃撃を浴びながらも再度狙いを定め、引き金を引く。

「ピシュンッ!」

 握りこぶし程の光の弾が射出されドローンに命中し、青い火花が上がった。命中した箇所が僅かに焦げ、ドローンの姿勢制御が不安定になる。

 今度は引き金を3回連続で押すと、3発の光弾がドローンめがけて射出。その内の2発が命中した。大した外傷は見られないのだが内部に不具合でも生じたのか、次第にプロペラの回転が遅くなってそのまま墜落した。

「ハァハァ」

 何とか敵を倒し一息したのも束の間、女性が次の指示を出してくる。入口の方にいる残りの敵を撃破しろとのことだ。うずくまっている2人に大丈夫ですかと尋ねると、大丈夫だから先に進んでくれと言われた。

 銃を構えながら入口の方へゆっくりと進む。床にCDの様なモノが散乱しているので、なるべく踏まないように進んで行く。

「キュインキュインキュイン」

 入口からプロペラ音を響かせ2機のドローンが連なってジグザグにこちらに向かって来る。ガムシャラに連射した光弾が命中し、2機共墜落すると停止した。

 弾が命中した箇所を見るとやはり少し焦げているが、この程度のダメージで停止したのだろうか。

 入口の扉を超えると広い空間に出た。はるか遠い天井には幾つも穴が開いており、そこから光が漏れている。四方の壁は穴だらけでまるで蜂の巣のようだ。

 水びたしで植物が生い茂っている地面を進みながら周囲を警戒していると銃声が鳴った。

「カカンッ!」

 上空で火花が散ったのが見えた。目を凝らすと視界がズームして先程と同型のドローンが下を向きながら銃撃を行っているのが分かった。

 ドロイドは他の兵士に銃撃しているのだろう。そのドローンに向かって銃を構えると三角形の目印が視界に現れた。目印は銃の動きとリンクしており、それをドローンに重ね引き金を引くと光弾は見事に命中。ドローンはぐるぐると回りながら墜落していった。

 周囲を警戒しつつドローンが銃撃していた場所に向かうと瓦礫のそばに負傷した3人の兵士がいたが、こちらの姿を見るや否や銃を向けてきた。

「彼は味方です。ドロイドは全て撃破されました。準備が整い次第、基地に戻ります。」

 女性がそう告げると兵士達は負傷した身体の部位に何か白い液体をかけ始めた。しばらくすると動けるようになった兵士たちが電話機を持ち帰る準備を始めた。

「撃たれた怪我は大丈夫なんですか?」

 女性に尋ねると、

「ナノリキッドを損傷部に浸透させ傷を塞ぎました。行動に支障はありません。」

 銃で撃たれた傷がそれだけで簡単に治療できるのかと驚嘆していると、

「助けて頂きありがとうございます。私は『ノア・アーク』。ノアとお呼び下さい。」

 自己紹介された日本人らしからぬ名前に戸惑う。自分の名前ではあまりに場違いの様な気がして尻込みしてしまう。

「空乃 勇助です。」

 名前を告げるもノアさんは特に怪しむ様子も無く、

「ユースケ。基地に戻るまでそのまま私達を護衛して下さい。基地に戻れたら、あなたの置かれた状況を詳しく説明し・・・」

 何かに気が付いたのか彼女は天井を見上げた。つられて天井を見上げるがズームしても何も見つからない。どうかしたのかと尋ねようとした瞬間、彼女が叫んだ。

「大型ドロイドが来ます!ただちにこの場を離れ・・・!!」

 ノアさんの指示する通路に向かって走り出そうとしたその時、天井から轟音が響き渡った。

「ゴガン!ガン!ガン!ガン!ガン!」

 何度も厚い壁をぶち抜くような音が大きく鳴り響き、それが次第に近づいてくる。

「ズゴーン!!」

 行く手を阻むかのように目の前に落下してきたのは、とてつもなく巨大な金属の塊だった。

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