派遣勇者-SENT BRAVE-(28)
人口70万人を誇るアシリマ合衆国の最大の首都ノットニーA.B.は、国内最大の軍事基地ならびに兵器廠が存在する最重要拠点である。
現在、首都の西に広がるエバジョム砂漠にはレジスタンスの軍勢が集結していた。アイッスルを解放したことで多くの市民や兵士が合流し、兵士の総員は3万人を超えていた。
兵の誰もが長きにわたる戦争を終わらせんと、士気も最高潮に達している。
「ノア指令。第一から三十三部隊の戦闘準備、完了しました。」
「“ティターン”の準備はどうです?」
「50%まで完了しています。ですが特改装備の最終チェックにまだ時間がかかるようです。」
旗艦指令室にてノアは主幹オペレーターと遣り取りを交わすと周囲を見渡した。指令室内にいる人員に焦りや怖れといった表情は見受けられない。
「帰還ラインまで各部隊は進んでください。」
ノアの指令の下、33の光点が砂漠を模した3Dマップ上を進み始める。
ドロイドはその特性上、帰還できる距離を越えて攻めて来ることはない。その特性を突き、ドロイドの移動限界距離の外にレジスタンス軍を配置した。
当然、搭載された艦艇からの出撃や、長距離飛行用に大容量の燃料を積んだ特型ドロイドの存在もあるため、いつ襲撃があってもおかしくない。
「レーダーに大型飛行物体を確認。数4つ!!こちらに接近しています。」
飛行型の大型ドロイド、恐らくはジェットタイプだろうとノアは推察した。ジェットタイプは高速接近からの爆撃を基本戦術とする機体だが動きが直線的で、こちらからの攻撃の狙いが付け易い。キルレシオはノーマルパワードスーツで5:1程度であり、現状戦力ならば危険な存在ではない。
「光学望遠、映像出ます。」
モニターに大きく映し出された映像に「なんだこれは・・・。」「これもドロイドなのか?」とクルー達が一斉にどよめく。
モニターに映し出されたのは銀色の体を持つ巨大な怪鳥。身の丈を越える銀翼を羽ばたかせ大空を優雅に飛行するその動きは、機械とは思えない生々しさがあった。
「地上にも大型の機影を多数確認!」
次にモニターに写されたのは同じく銀色の体を持つ獅子。ホバーやローラーではなく、四足獣のように前後で足を動かし雄々しく地面を蹴って移動している。
(まさかここまで技術を進歩させていたとは。)ノアは銀の獣たちをモニター越しに睨みつける。
ウラジが空の民の技術を復元していたのだからアシリマも同じである可能性は考えていた。だがしかし、ここまで技術レベルを高めていたとは予想外だった。
銀色の獣『メタルビースト』はかつて空の民が使用していた兵器なのだが、その空戦タイプと陸戦タイプをほぼ完全に再現されていた。
メタルビーストは人工筋肉が収縮される際の磁場変動で発電し、その電力が次の動作に使用されるという様に半永久的な稼働が可能となっている。さらに人工筋肉により再現される鳥や獣の動きは予測がし辛く、非常に攻撃が当て難い。
「ユースケはどうしていますか?」
ユースケに出撃の準備をさせようとオペレーターに所在を聞く。
「T艦にて待機しているはずですが・・・・、応答ありません。」
「もう一度確認してください!」
あの晩の問答からユースケは変わった。元の世界に帰るためにはとにかく戦争を終わらせるしかないことを理解したのか、黙々とこちらの指示に従い戦ってくれた。
この戦闘には“あの子”が出てくる可能性が高く、ユースケにはスクエアレッドを引き付ける役割があるのだが、まさかここに来て臆病風にでも吹かれたのか?
「他の乗員に彼の捜索をさせて・・・」
ノアがそこまで言いかけたところで通信が入る。
『ノア指令。ユースケはここにはいません。』
声の主はロムアだった。
「この土壇場で一体どこへ行ったと言うのですか!!」
『彼はこの戦争を本当に終わらせるために、・・・一人で行きました。』
淡々と返答するロムアの言葉にノアは勇助の向かった先を悟った。
「そんな、まさか・・・。」
先行した“メタルイーグル”“シルバーライガー”が戦闘を開始して20分が経過していた。
「レジスタンもなかなかやる。」
特型ドロイドのメンテナンス艦“ターピュラ”。そのコントロールルーム内のモニターに映っていた光点が、100から30にまで減ったのを見てメシアが呟く。
ウラジが秘密裏に開発していた“対大型ドロイド用”兵器が効果を発揮している。電磁ワイヤーで動きを止めたところをEMP兵器で攻撃する戦法で、少しづつだが着実に撃破している。
当然、パワー・スピード共に優れるメタルビーストが相手であるため、レジスタンスの方が被害は甚大だ。
「残存戦力は?」
『待機している機体はメタルイーグルが200機、シルバーライガーが300機。戦況はこちらが圧倒的優位です。』
メシアが何の策も用意していない筈が無い。それを踏まえて早めにトライブルーは処理しておく必要がある。そう判断したメシアが次の命令を下す。
「“アレ”を出せ。」
『畏まりました。巻き添えを防ぐため、メタルビーストは全機引き揚げさせます。』
モニターからメタルビーストを示していた光点が消えてからしばらくして、これまでとは比較にならない程巨大な光点が1つ、現れた。
「ギャアアアアアォォォォォォオオオン」
ドック内にて“ティターン”の最終チェックを行っていたロムアにも、その巨大な咆哮は聞こえた。何事かと通信室へと向かうと、通信室ではオペレーターが慌ただしく通信を送っていた。
「何事だ?」
ロムアが慌てるオペレーターの肩に手を置くと、オペレーターは青ざめた表情で、
「これまでにない巨大物体が接近中です。」
「なに!?」
「映像出ますっ!!」
「オオォッ!!」
偵察用ドロイドからの映像がモニターに映し出されると、その場にいた全員が息を吞んだ。
かつてこの星で繁栄していたという巨大生物をモチーフにしたと思われるそれは、まさに破壊のために生み出された“死を呼ぶ機械竜”とも呼ぶべき存在。
ゆっくりと前進する機械竜に向け艦砲射撃が開始される。放たれた徹甲弾が次々と装甲に着弾し、幾つもの大きな爆発が起きた。
(やったか!?)
モニターに釘付けになる兵士たちが心の中で呟く。しかし、噴煙が晴れて現れたのは平然と進行し続ける機械竜の姿だった。
「ギュオオオオオオオーン!!」
機械竜は咆哮と共に前傾姿勢になると、その巨大な口を開いた。口の中から円柱状の射出機らしきものが現れる。
仕掛けてくる。直感したロムアはマイクに向かって叫んだ。
「敵の攻撃が来るぞ!全艦回避行動を取れっ!!」
すぐに回避行動へ移行する艦艇達だったが時すでに遅し。機械竜の背中の突起部分が発光したかと思うと、口から眩い光の奔流が放たれた。
光は地面を平行に真っすぐ、機械竜から見て右にいた艦へ直撃すると一瞬で溶融させた。
機械竜は光を放出させたまま頭を振り、隣の艦、隣の艦へと次々と艦艇を消し去っていく。
口から放出される光が次第にか細くなり最終的に消えると、機械竜の首周りから高温の蒸気が一気に排出された。
「艦艇の7隻が消滅!6隻が大破!!残り2隻も損傷が大きく行動不能!」
これ以上あの機械竜に好き勝手させる訳にはいかないとロムアは決断を下す。
「ティターンを出すぞ。」
「まだ60%しか終わっていませんが?」
「射撃武器の搭載が完了していないだけだ、問題無い。どちらにせよあの装甲を貫ける射撃武器がこちらには無いんだ。」
戦艦やサイクロプスが立ち向かっても蹴散らされるだけ。勝てる可能性があるとすればティターンのみ。ユースケに頼ることができない今、自分達で何とかするしかない。
ロムアがティターンのあるドックへ向かうと、コックピットではユーミカが機体の最終チェックを行っていた。ユーミカはコンソールを片手に、
「ショルダーキャノンは付けなくてよろしいんですね。」
「ああ。接近戦を仕掛ける。」
パイロットスーツを着たロムアが前部コクピットへと座ると、スイッチ達を流れるようにに押してゆく。ディスプレイに起動プログラムが走り、機体各部のパラメーターが表示された。
「機体システムOK。武器管制チェック中・・・。」
唯一装備されたこの武器に全てを掛けるしかないという状況が、ユースケとウラジの戦闘を思い出させていた。ユースケがやったことを、今度は俺達がやってみせると意気込むロムア。
(ユースケは大丈夫なのか)決着をつけるために単身で向かった友を心配していると、後部座席でキーボードを操作していたユーミカが、
「やってくれますよ。ユースケならきっと。」
「そうだな。」
「武器チェックOK。行けます。」
制御レバーを握るロムアの手に力が入る。まず左足をトレーラーから地面に接地し、次は背中を起き上がらせ、最後に右足をトレーラー上から滑らせ両足に荷重をかける。
「パラメータ全て正常値。」
背後のユーミカの声を受け、気合を入れるべく大声と共にレバーを思い切り動かす。
「ティターン、行きまーすっ!!」
ロムアの雄叫びと共に白き巨人が今、大地に立った。




