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派遣勇者-SENT BRAVE-(26)

 兵器工場の屋根の上を飛び交う青と黄の閃光。

「このぉ、死にぞこないがっ!」

 そこではトライブルーとクロスイエローが激しい銃撃戦を行っていた。クロスイエローの2丁銃から光弾を乱射されるも、トライブルーはジグザグに動き全弾を回避する。

「ハァァァァァッ!」

 コンテナから持ち出した実弾の銃とトライガンで射撃を行うトライブルー。

 クロスイエローの射撃は殆どが躱される一方、トライブルーの射撃の多くがクロスイエローに命中する。

(こいつ、本当に前と同じ人間なのか?)

 最小の動作で回避し的確な射撃をするトライブルー。別人としか思えないほど洗練された動きにクロスは焦り、焦りは判断を鈍らせてゆく。

 なぜ勇助がクロスと対等以上に戦えているのか?それはクロスイエローと対峙した時から既に、トライブルーの自律運転を稼働させていたからだった。

 ホバータンク戦の様に暴走して勝手に動かされることを恐れたが、現状特に問題も無く頭で思い描いたとおりに動かすことができた。

「ふざけるなぁぁああ!!!」

 クロスが叫びながら突進する。クロスイエローの性能は全てにおいてトライブルーを上回っている。にもかかわらず劣勢を強いられているということは、それは装着者の差を意味していた。

「ブレードッ!!」

 被弾を覚悟でクロスガンをブレードモードにし、光刃を盾に飛び込む。庇い切れずに被弾した銃弾は加速している分ダメージもでかい。

「せあっ!」

 それでも無理をした甲斐あって近接の間合いに入ると、右手のブレードをトライブルーの頭へと振りかぶる。銃撃しかできないトライガンでは接近戦はこちらが圧倒的有利。そう考えたクロスの判断は正しかった。だがトライブルーも用意を怠らなかった。

「はぁっ!」

 ブレードとトライブルーが振りかぶった何かが鍔迫り合いをし、激しく黄色の光が迸る。

「なにぃっ!?」

 ブレードと鍔迫り合いをする物体を見たクロスイエローが驚愕の声を上げた。鍔迫り合いをしたのが金属であれば、金属を伝って相手へナノマシンキラーを流し込むことができる。トライブルーよりも出力が高いクロスイエローならば、この局面でも同様の現象が起きるはず。

 しかし、トライブルーが持っていたのはナノマシンキラーが伝播しない木刀だった。

 トライブルーは左手に持った木刀でブレードを受けつつ、右手に持ったトライガンを至近距離で放つ。

「チャージショット!!」

 至近距離では回避もできずに頭部へチャージショットが被弾し、大きく仰け反るクロスイエロー。

「グアアアアッ!」

 青い稲妻がクロスイエローのスーツ内部を駆け回り、激痛からクロスは叫び声をあげた。

「貴様なんぞにぃっ!!」

 雄叫びと共に突進するクロスイエロー。トライブルーは後退しながらの銃撃でクロスガンを打ち落とすも、懐に入られてしまう。

「この世界を救うのは、お前じゃないっ!!」

 振り払おうとするトライブルーの腕の上からクロスイエローは力任せに胴回りを締め付ける。ベアハッグの体勢で持ち上げられるトライブルー。「メキメキ」と装甲が軋む音に勇助は焦る。

 両腕ごと巻き込まれているせいで反撃ができず、このままでは背骨を折られてしまう。

 その時、勇助はあることを閃いた。チャージ攻撃ができるのは手と足だけなのだろうか?

「チャージヘッド!!」

 一か八かの叫びに呼応しトライブルーの頭部に青い光が宿ると、力任せにクロスイエローの顔目掛けて頭突きを喰らわせた。「ベキィッ」と金属が陥没した音が響いた。

「ぐぅううああ あがががが」

 物理的ダメージに加えてナノマシンキラーがクロスの頭へ襲い掛かる。

 あまりの激痛に締め付けていた腕を離し頭を抱えるクロスイエロー。解放されたトライブルーは腰を低く構えると、

「チャージキックっ!!」

 胸部に跳び蹴りが直撃したクロスイエローは吹き飛ばされ地面に落下。変身が解け、生身となったクロスの姿が現れた。。

「ぐああああぁっぁぁぁ!!あたまがっ!あたまっがぁぁぁあっ!あががががっ!」

 体内を巡るナノマシンキラーによって痙攣が止まらないクロス。止めを刺して楽にさせてやろうと近づくトライブルーだったが、高速で接近する物体に気付くと咄嗟に地面を転がり回避した。

 強烈なブレーキ音を響かせながらトライブルーとクロスの間に割って入ったのは巨大なバイクだった。

(なんだ!?)

 赤い巨大な2輪バイクには誰も乗っておらず、自動で旋回した後その場で停止した。

「クロス、もう大丈夫だ。」

 いつのまにかクロスの元に赤い戦士がいた。


挿絵(By みてみん)


「くっ!」

 赤い戦士は銃を構えるトライブルーを気にする素振りも無く、悶えるクロスの頭に手を置いた。

「応急処置はした。後は帰って治療しよう。」

「ごめんよ、にいさん・・・。」

 赤い戦士は体の震えが落ち着いたクロスを抱えるとトライブルーの方を向く。

「異世界の勇者よ、お初にお目にかかります。私は完全なる赤(スクエアレッド)を賜っていますメシア・アークです。」

「アーク……!ではあなたも空の民?」

「そうです。提案ですが、私はクロスを治療するために一度帰還したいですし、あなたは体力を消耗しているようだ。一旦ここでお開きというのはどうでしょう?」

 メシアの口調に底知れないモノを感じた勇助が頷くと、メシアは停止していたバイクへと移動する。

「質問をしてもいいですか?」

 バイクのハンドルを握り、出発しようとしていたメシアへ会話を試みる勇助。

「どうしてノアと敵対しているのですか?」

 その問い掛けにメシアははっきりと言い放った。

「私は世界のために戦っています。」

 それだけ言うとメシアはバイクのハンドルを握り、

「ノアに伝えておいて下さい。正しいのは私のやり方だと。」

 バイクがとてつもない速度で加速すると、土煙と爆音を上げながらあっという間に走り去っていった。遠い地平線に消えて行く赤い閃光をただ見送る勇助。


「しっかりしろ!ロムア!」

 トライブルーが尋問室に入ると、そこではイニーバがロムアの処置を必死にしているところだった。

 目を見開き天井を見つめながら、ただ口をパクパクとしているロムア。

「ナノマシンが脳幹を侵食している。中和剤を注射したが効果も無い。」

「他に手は?」

 悲痛な声を上げるトライブルーにイニーバは頭を横に振った。

「息をするのも辛いはず。もう、楽にさせてやった方がいいかもしれん。」

 イニーバの震える手には安楽死用の薬剤が入った注射器が握りしめられていた。

「そんな・・・。」

 俯くトライブルーとイニーバ。

「ゆ スケ」

 ロムアが右腕だけを動かし、振り絞るように声を出した。

「す まな かった・・・。あり が とう。」

「ロムアさんっ!!」

 ロムアの右腕をギュッと握りしめるトライブルー。

「脳は既に限界のはず。まだ話せるとは・・・。」

 本当にできることは無いのか?そう考える勇助にイニーバの言葉が刺さった。

「脳・・・。そうだ!!」

 トライブルーの右手に青い光が宿る。

「何をする気だ?」

「脳内にあるナノマシンを消します。イニーバさんは体を抑えて下さい。」

 スクエアレッドがクロスにしていた様にロムアの頭に手を置くトライブルー。

「うあああああっ!うわあああっ!!」

(お願いだ。効いてくれ!)

 暴れるロムアをイニーバが必死に抑え込む間、勇助は祈りながら手をかざし続けた。

「うあっ!あうっ!あがっ ああああああああ!!」

 痙攣を始めたロムア。勇助はスーツの中で叫んだ。

(トライブルー!勇者のために作られたと云うなら、この人を救ってくれっ!」

 勇気を出して戦ってくれた人達をもう二度と死なせたくない。勇助の願いが届いたのか次第にロムアの痙攣が収まり呼吸も落ち着いてゆく。

「はぁ はぁ ユー スケ・・・」

 頭にかざしていた手をぎゅっと握りロムアが口を開く。

「また、助けられたな。ハハ・・・。」

 トライブルーの変身が解け、中から勇助の泣き顔が現れる。

「お互い様ですよ。」

 

 勇助とイニーバは衰弱したロムアを担架に乗せると撤退を開始した。

 目指すは廃水処理場。侵入時はイニーバがドラム缶に入り、排水路の中をトライブルーが牽引して侵入した。帰りは2人をドラム缶に入れて流してしまえば、後は勝手に海まで辿り着く。

 しかし、あと少しで廃水処理場というところで一行はパワードスーツ部隊に囲まれてしまった。

(9、10人はいる・・・。トライブルーに変身するしかない。)

 トライガンに手を掛ける勇助だがクロスイエローとの戦いで体はボロボロであり、いつ倒れてもおかしくない状態だった。

「イニーバさん。僕が変身して突破口を開きます。ロムアさんを連れて逃げて下さい。」

 覚悟を決めた勇助にパワードスーツ達が一斉に銃を向けた。

「ドオオオオオォォォンッ!!」

 突如、後方にいたパワードスーツが突如爆発し、他の兵士を巻き込みながら吹き飛んでいった。

「散開!散開しろっ!」

 次々に打ち込まれる攻撃にパワードスーツ達はバラバラに回避行動をとり始める。

「キイィィィィィィィィィン」

 勇助にとって聞き覚えのあるエンジン音を鳴り響かせ、乱入者はその姿を現した。

「ホバータンク!?アシリマの兵器が何故ここに?」

 イニーバは現れた兵器をホバータンクだと判断したが、勇助はすぐに気付いた。前面の装甲が無い代わりにドラム型のドロイドが溶接されているそれは、間違いなく収容所で戦ったホバータンクだった。

「懐に潜り込むぞ!」

 アイッスルの兵士たちが部隊長の指示の下、ホバータンクへ一斉に襲い掛かる。前面のドラム缶型ドロイドから銃撃が行われるが、兵士たちはジグザグに移動して回避する。

「相手はウスノロだ!接近して機関部に攻撃を集中ぐあっ!!」

 先頭を進むパワードスーツに銃弾が命中し転倒すると地面を何度も転がりバウンドする。

 ホバータンクの上には大型のスナイパーライフルを構えるパワードスーツが1人。長距離から次々にアイッスル兵達を狙い撃ってゆく。

「あれは、まさか・・・。」

「全機出撃!」

 そのパワードスーツの掛け声の下、ホバータンクから次々とパワードスーツが現れる。一見するとアイッスルと同タイプのパワードスーツだが、彼らのモノは肩が青く塗られていた。

 突然現れたアシリマ製のホバータンクとアイッスル製のパワードスーツに動揺したアイッスル兵達が、1人また1人と撃破されていく。

 最後の1機が撃破されると青い肩のスーツ達は周囲へ散開した。立ちすくむ勇助達の前でホバータンクが停止すると、タンク上のスーツがマスクを展開させた。

「間一髪、間に合ったな。」

「ユーミカさん!」

 マスクの下から現れたユーミカに勇助は歓喜の声を上げた。

「さあ、早く乗れ!」

 ユーミカに案内されホバータンクに乗り込む3人。以前通路に置かれていた機材は撤去され、人が待機できるようにスペースが確保されていた。

「大丈夫かロムア!」

 中にいたイーカが他の兵士と共にロムアを台の上に載せ治療を開始したのを見届けた勇助。緊張の糸が切れたのか床に座り込むと眠ってしまった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はっ!!」

 瞼を開くとそこに見えたのはコンクリートの天井。柔らかなベッド感触を感じながらこれまでの出来事を思い出そうとすると、枕元にいた人物が声を掛けた。

「目が覚めましたかユースケ。」

 顔をゆっくりと動かすと、そこには椅子に座ったノアさんがいた。トライガンを手に取り異常が無いか調べている。

「あの後、戦いはどうなりました?」

「あなた達のおかげで敵の指示系統が混乱していたので我々は損害も無く楽に基地を占拠できました。」

「ロムアさんは?」

「制圧後、倒れたあなたと共に治療室に連れて行き処置をして無事です。まだ治療室にいますが体調も安定しています。」

 ホッと安堵の息を漏らすと、

「ルアについてですが、母親と思われる女性がレジスタンスにいました。」

「えっ!?本当ですか!」

「はい。時期的にも間違いありません。イニーバと共に今頃はレジスタンス基地へと向かっているはずです。イニーバがあなたにありがとうと。」

「よかった。」

 思いがけない吉報に笑みを浮かべるも、ノアさんの表情は暗い。

「スクエアレッドが現れたようですね?」

 ノアさんの質問の意図を考え、全てを伝えない方がいいか迷う。

「クロスイエローの装着者を治療するためにと、戦わずに去りました。」

「そうですか。」

 ノアさんは特に表情も変えずにそれだけ言うとトライガンを枕元に置いた。

「彼はメシア・アークと名乗っていました。ノアさん。彼らの、空の民の目的は一体?」

 束の間の沈黙の後、ノアが口を開いた。

「わかりました。私とメシア、空の民がこの戦争に一体どう関わっているのかをお話しましょう。」

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