派遣勇者-SENT BRAVE-(25)
「さっさと白状したらどうだ?無駄に苦しむだけだぞ。」
尋問室の中、椅子に縛られたロムアの前に立つクロスが問いかける。
「どれだけ耐えても、遅かれ早かれ喋ることになる。俺の時間を無駄に使わせないでくれよ。」
クロスの小馬鹿にしたような言い方にロムアは歯を食いしばりながら必死に耐える。
自白剤を打たれてから既に6時間以上経過し、脳はとっくにナノマシンに浸食されている。それでも口を割らないというのはクロスにとっても予想外だった。
「耐えてどうなる?庇ってどうなる?レジスタンスたちも今頃、早くお前が死ねばいいと思っているさ。ひょっとすると口封じに刺客が送られているかもなぁ。」
これ以上時間をかけるとレジスタンスに猶予を与えることになると考えたクロスは言葉で揺さぶりをかける。精神が不安定になればなるほど、ナノマシンが脳幹に作用し易くなるからだ。
「フゥー、フゥー。」
クロスがロムアの表情を窺うも、ロムアは相変わらずただ中空を見つめながら耐えている。何か別の方向から攻めるべきかと考え巡らし、あることを思い出す。
「しかしトライブルーは弱かったな~。」
その言葉にロムアの肩が揺れたのをクロスは見逃さなかった。
「勇者といっても所詮は私欲で動く奴だ。汚水に呑まれて死ぬのもゴミに相応しい死に様だ。」
ハハッとクロスが嘲笑すると、そこで初めてロムアが口を開いた。
「ユー スケは・・・そんな 奴じゃ ない。」
ロムアの必死に絞り出されたような声を聞いたクロスは微笑を浮かべると、耳元で囁くように言った。
「どうせノアから勇者について何も聞かされていないんだろ?教えてやるよ。」
トライブルーを身を挺して守ったロムアならばこの話で必ず落ちるとクロスは踏んだ。
「異世界から来た勇者は、呼び出した者の願いを叶えるために戦う。だがそれで、勇者にとって何のメリットがある?あるんだなぁ~これが。」
ロムアを正面から見据え、こちらの話に聞き入っているのを確認したクロスはにやりと笑う。
「願いを叶えた勇者は何か一つ、その世界に存在するモノを持ち帰ることができる。現に伝説の青い勇者も空の民が所持していた巨大な電晶石を持ち帰った。結局、勇者とは名ばかり。私利私欲のために戦う低俗な存在なんだよ。」
「くくく・・・、ハハハ・・・。」
俯き笑い始めたロムアを見て「落ちたな」と確信したクロスだったが、
「ハッハハハ。やっぱりそうだ。」
再び顔を上げたロムアの瞳は死んでおらず、それどころか気力に満ちていた。
「自分のためじゃなく、誰かのために戦うことができる。あいつこそが本当の勇者だ。」
『パァンッ!!』
クロスの平手打ちがロムアの顔を横に払った。ロムアは鼻から血を滴らせながらも笑顔を崩さない。
「何が勇者だ!この世界に必要なのは勇者じゃない、“救世主”だ。兄さんのような確固たる意志、何者にも負けない強さを持つ存在こそが必要なんだ!!」
動揺し息を切らしたクロスをロムアが見つめる。すると突然、尋問室の扉が勢い良く開けられた、
「工場区画に侵入者です!」
慌てた様子の兵士にクロスは平静を装いながら問いかける。
「数は?」
「それが、旧式のパワードスーツがたった1機。現在、機装兵部隊が迎撃中です。」
侵入者に自白剤を打った方がロムアより手間取らずに済む。クロスはそう判断した。
「私が出る。お前はこいつを見張っていろ。」
命令したクロスが尋問室から出ていくのを敬礼で見送る兵士。だが彼はクロスが去ったのを確認すると急いで扉をロックし、ロムアを縛っていた縄をほどき始めた。
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工場区画を疾走する4つの影。先頭を走るのは継ぎ接ぎだらけの旧式パワードスーツで、残りの3つの新型が後ろから追跡している。スピードは新型の方が遥かに上のはずだが、旧式との距離をなかなか詰められずにいた。
曲がりくねった細い道だからというのもあるが、曲がり角での的確な減速とライン取りを行う旧式の機装兵の腕が単純に良かった。
しかし、とうとう工場区画を抜け廃物処理区域に出たことで道幅が大きくなり、すかさず最高速で一気に距離を詰めようとしたアイッスル兵達。
「グンっ!!」
その瞬間、旧式は後ろを振り向き正面から突進を仕掛けた。予想外の行動に銃の狙いが遅れた先頭のパワードスーツパワードスーツは拳を叩きつけられる。
「ドゴォつ!!」
金属のひしゃげる音と共に大きく吹き飛ばされた新型が後ろの1機を巻き込んで転倒する。残った1機がマシンガンを撃つ。旧式は破損した片手を盾に接近すると再び拳を叩きつけた。
「ガシャンッ!」激しい音を立てて吹き飛ばされた新型。地面に転がり動くことができない新型スーツ達を一瞥すると、旧式は再び移動を開始しようとする。
「そこまでだ」
立ちふさがるように現れたクロスが腰のホルスターから2つの銃を取り出し天にかざす。
「クロスチェンジッ!!」
引き金が引かれ現れたのは黄色の光で構成された十字。十字架がクロスの頭上から降下してゆくのに合わせてスーツが展開される。光が地面に消えるとそこには交錯する黄が顕現していた。
「痛い目を見たくなければ、さっさっとそいつを脱いで降伏しろ。」
×の意匠が施された双銃“クロスガン”を警告と共に突きつけるクロスイエロー。しかし、旧式は臆することなくクロスイエロー目掛けて突進を仕掛けた。
「フンッ!」
突進をくるりと回避したクロスイエローは銃撃を開始。小さな光弾が無数に旧式へと襲い掛かり、その幾つかが被弾した。
(これですぐに機能停止する。)と予測したクロスイエロー。尚も突進を試みる旧式へ駄目押しにとチャージショットを放つ。1m大の光弾が真っすぐに旧式へと飛翔し、直撃すると思われたその瞬間。
「パージっ!!」
「なにっ!!」
クロスイエローにとって予想外のことが起きた。旧式が腰の右側面を強く叩いたかと思うと全身の装甲が弾け飛び、その複数が光弾へと衝突すると激しくプラズマが迸った。
しかし、クロスイエローが殊更驚いたのには理由があった。通常、金属製の装甲ではチャージショットを防ぐことなどできない。にも拘らず目の前ではそれが起きている。
動揺したクロスイエローがただ茫然とプラズマを眺めていると、そのプラズマを掻き分け何かが現れた。
「チャージスマッシュ」
死んだと思っていたトライブルーの出現に頭の中が真っ白になったクロスイエロー。回避行動を取ることもできずに拳を顔面へまともに受ける。
「がはっ!」
大きく吹き飛んだクロスイエローが地面を転がり。地面に手を着き立ち上がろうとする中、傍に旧式の装甲が転がってきた。その装甲の裏に取り付けられていた物を見て驚きの声を上げるクロスイエロー。
「木だとっ!」
この世界に存在する全ての物質に含まれるナノマシン。ナノマシンキラーはこれに作用することで高熱を発生し、絶大な威力を叩き出す。
しかし、あらゆる物質の中で例外が一つだけ存在した。乾燥した木材は内部にナノマシンが存在しないため、ナノマシンキラーと接触すると放電現象が発生して無効化されるのだ。
「チャージキック!!」
立ち上がろうとするクロスイエローの体をトライブルーが蹴り上げる。
「ぐはっ!」
腹部を思い切り蹴り上げられクロスイエローは宙を舞った。




