派遣勇者-SENT BRAVE-(20)
「交錯する黄!?」
恐怖に震えた声をあげるウラジ。クロスイエローは両手に持った銃を合体すると狙いを付けた。
「チャージショット」
その言葉と共に銃が黄色く光り輝き始める。その輝きはトライガンよりもはるかに強く、見る者に神秘的な恐怖を与えるほどだ。
「消えろ」
クロスイエローがトリガーを引くと直径2m大の黄色い光弾が射出された。
「危ない!!」
射線上にいたロムアを抱え回避した勇助。身動きのできないウラジは光弾に直撃してしまう。
「ぎゃあああああああぁぁああぁっ!!!」
光の奔流がコンテナもろともウラジを包む。バチバチと黄色いプラズマが激しく迸る中、ウラジの悲鳴だけが大きく響き渡る。
<<ドゴォォォォォン!!!>>
一際大きな爆発が起きると、ウラジとコンテナだったものが四散した。
クロスイエローは悠々とした態度で銃を2つに分離し左右のホルスターに収める。
「トライブルーを装着しているということは、お前が異世界の勇者だな?」
勇助を空の民と勘違いしていたウラジとは違い、正確に出自を言い当てるクロスイエロー。
「酷い戦いだ。あの程度の強さで世界を救うなど笑わせる。」
クロスイエローから感じる敵意に、勇助は全身に鳥肌が立っていた。ウラジに放たれた光弾の威力はトライブルーの遥かに上。このまま連戦になれば勝機は無いと考えていた。
「どうして僕が異世界の勇者だと?」
戦闘を回避する術が無いか考える時間を稼ぐために、とりあえず会話を投げかける勇助。
「ハァ?あの女から何も知らされていないのか?普通の人間が装着すれば、電磁波で体内のナノマシンが破壊され死に至る。」
訓練で聞いた、人に向けて攻撃してはいけない理由と同じ理屈なのだろう。
「この星の人間でこの鎧を装着できるのは、体内にナノマシンが存在しない我々空の民のみ。それ以外で装着できるとしたら、異なる世界から来た人間だけ。」
値踏みするかのようなクロスイエローに勇助はどうすればロムアと共に撤退できるかを考える。
「異世界から来た勇者は特別な力を持つと聞く・・・。」
クロスイエローが腰のホルスターから2丁の銃を取り出しトライブルーに向けた。
「わざと力を隠しているだけなのか、俺が試してやる。」
「クッ!!」
トライブルーは引き金を引かれるよりも先に横に跳び、光弾を躱すとそのままコンテナの陰に隠れる。
「逃げても無駄だ。」
クロスイエローがトライブルーの前に降り立った。
「チャージスマッシュ!」
すかさず放たれた青い拳をクロスイエローは体を捻り最小限の動きで回避する。
それでも至近距離に接近することはできた。トライブルーがボディへパンチを繰り出すと、今度は回避されること無く命中した。
「ハァァァァッ!!」
右・左・右・左と連続でパンチを喰らわせるも、
「こんなものか・・・。」
全くダメージは受けた様子が無いクロスイエローが右手を、ただ横へ単純に振りかぶった。
「ぐあぁっ!」
凄まじい衝撃を胸に受け後方へ吹き飛ばされるトライブルー。
「おらあっ!!」
クロスイエローが助走を付けながらトライブルーに近づきボディを蹴り上げた。
『ズガンッ』
蹴り上げられたトライブルーはそのまま天井を突き破り工場の屋根の上へ転がり落ちた。
(性能が違いすぎる!)
同じ勇者の鎧で性能にこれほど差があるとは思わなかった勇助。這いつくばりながらもなんとか立ち上がると背後から声が。
「何が異世界の勇者だ。欲深いだけのただのゴミめ・・・。」
振り向くと既にクロスイエローが銃を向けていた。引き金が引かれ、光弾が一斉に発射される。頭・体・腕・足と全身に光弾を浴び続け、トライブルーのスーツ内ではカメラアイが真っ赤に染まり警報が鳴り響く。
「かはっ」
銃撃がやっと終わり、トライブルーは膝から地面に倒れこむ。
「あの女の願いを叶えて、一体何を持ち帰ろうと考えていたんだ、えぇ!?」
クロスイエローがトライブルーの首を掴み持ち上げる。
「チャージスマッシュ」
トライブルーは空中に放り投げられると腹部に強烈なパンチを喰らわせた。トライブルーは宙を飛び、別の建物の壁を突き破った。
「あぁっ、うぅ。」
何とか立ち上がろうとするが足に力が入らないのか、生まれたての仔馬の様に立ち上がろうとするトライブルー。何とか四つん這いで辺りを見渡すと「ドドドドドド」とまるで滝の様に大量の水が流れる音が聞こえた。
「廃水処理場か。欲に溺れたお前に相応しい死に場所だな。」
いつの間にか現れたクロスイエローが「ブレード」と声を発すると、2丁の銃の先端から黄色い光の刃が現れた。
「シャアッ!!」
下から上へと振り上げた光の刃に斬られ、仰け反る形で吹き飛ばされるトライブルー。斬られた瞬間、スーツ内では黄色い閃光と共に激痛が走った。
「うぁあぁあぁあぁあ!!」
通路に設置された鉄製の柵にもたれかかったトライブルーの下では、廃水がまるで濁流の様に流れていた。
クロスイエローが両手の剣を掲げ「チャージスラッシュ」という言葉と共に刃が光り輝く。逃げなければと勇助も頭の中では思ってはいるが体が動かせず、ただその輝きを眺めることしかできない。
「ハアァッ!!」
クロスイエローが剣を振りかぶる。すると光の刃がトライブルーへと飛翔した。
「ああああぁぁぁあああっ」
光の刃を受けたトライブルーの体を黄色い光の帯が拘束した。タンク戦の時よりも苛烈な電撃に勇助の全身の筋肉が痙攣し、意思とは関係なく直立する。
「死ねぇ!!」
クロスイエローが光の刃でとどめを刺ささんと急接近したその時、
「ユウスケーーーーッ!!」
ロムアがクロスイエローの横っ面からタックルを喰らわせた。質量では勝るパワードスーツの不意の突進を受け、派手に転がるクロスイエローとロムア。
「にげろッ!」
ロムアはそう叫びながらクロスイエローにしがみ付く。
「離せ!」
振りほどかれ吹き飛ばされたロムアを見た勇助は一か八かに賭けた。
「体はどうなってもいいっ!!トライブルー!!」
叫び声と共に全身の筋肉が締め付けられ、全力で拘束を解かんと腕が動き出す。
「ふうぅぅぅ!!」
勇助自身も歯を食いしばりながら必死に腕を動かし、何とかホルスターからトライガンを抜いた。
「これで終わりだ。」
再び接近したクロスイエローが剣を振り降ろす直前、何とか拘束を引き千切ったトライブルーが腕を前へ突き出した。
「チャージスマッシュっ!」
右腕に込められた青い光と剣先に込められた黄色い光が衝突した。
「何っ!?」
拘束が解かれるなど微塵も思っていなかったクロスイエローからは驚きの声が漏れた。
「バチバチバチィッ!!」
せめぎあう光と光。混ざり合う青と黄のプラズマが周囲で迸る。
「バシィンッ!!」
圧縮された力が一気に解放されたことで勢いよく弾き飛ばされる2人。クロスイエローは地面を転がっただけだが、トライブルーは吹き飛ばされた衝撃で変身が解けてしまう。
「ぐううぅぅ・・・」
トライガンを片手に何とか立ち上がろうと歯を食いしばる勇助だったが、既に肉体は限界を超えていた。うつぶせの状態から全く動けないでいると、
「今のが最後の足掻きか?」
クロスイエローは片手で勇助の首を掴むとそのまま持ち上げる。
「このまま首の骨を折ってやろうか?」
クロスイエローの腕に力が加わり、勇助の首の骨からキシキシと音が鳴る。
「いや、そうだな・・・。」
クロスイエローは勇助を掴んだまま水路の上まで移動すると、
「気絶させてからこの廃水路に落とす。汚染された水の中、もがき苦しんで死ね。」
視界を黄色の光が埋め尽くしたかと思うと勇助の意識は途絶えた。




