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派遣勇者-SENT BRAVE-(19)

挿絵(By みてみん)

 巨大なパワードスーツの姿を観察し、自分なりに分析をする。

 ゴリラを彷彿とさせる巨大な腕と足は、ゴーレム並のパワーとスピードもありそうだ。胸へのチャージキックで出来た装甲の凹みは小さく、装甲もかなり硬い。

 気になるのはチャージショットが頭部に命中した際、即座に頭を引きちぎったこと。トライブルーの名前を知っていたことから、ナノマシンキラーについて知っている?もしそうなら気を付けなければ。

「レジスタンスにあの女以外の空の民がいたとはな。」 

 向こうから話しかけてきた。ひょっとすると相手もこちらから情報を引き出そうとしているのか?そう考えていると、今の発言の中に気になる単語が出ていたことに気づく。

「あの女以外の空の民?」

 言葉どおりに受け取るのなら、ノアさんがあの伝説に出てきた空の民ということになる。

「とぼけるな。機械の体であるあの女、青き鎧を纏うお前も空の民だろ。」

 衝撃の事実を敵から知らされ、言葉を失う。

「情報をわざわざ漏らすつもりは無いか。まあいい、貴様をすぐに破壊してからあの女も捕らえる。貴様ら2人共、ばらばらに分解して調べてやる。」

 ウラジが戦闘態勢に入った。いつでも動けるように態勢を整える。

「オラァッ!!」

 脚部から何かを噴射させ突進してくるウラジに対応して後方へ下がり回避、したと思ったところへ腕が伸びて迫りくる。すかさずエアダッシュを発動させ距離を離す。

「これはどうだ!」

 巨体からは想像できない高さへジャンプし、そのまま上から押しつぶそうとしてきた。腕が伸びることを考慮して遠く離れるも、空からさらに加速して接近を許してしまう。

「シャァッ!!」

 伸ばした腕を鞭のようにしならせ打ち込んでくるのを両腕で防御する。

「くっ!」 

 凄まじい衝撃が両腕にかかり、吹き飛ばされそうになるのを両足で踏ん張る。地面に足をめり込ませ、なんとか耐えた。

「おいおい、戦う気が無いのか。」

 どうしたものか。ノアさんの指示どおりに時間稼ぎに努めていたが、やはり初めての人間相手の戦闘はドロイドとは違って動きが予想できない。


 ためらう勇助に対し、ウラジはこれまでの攻防を経て勇助のことを「戦い慣れしていない素人」だと確信していた。

 反撃しやすい隙を晒しても全く攻撃する素振りを見せない。必要以上に距離を離して攻撃を回避しようとする。そして何よりも、銃を握る手が震えている。


「先にあの女から始末するか。」

 ウラジはそう言い残すと基地の方へ全速力で進み始めた。

「えっ!?」

 意表を突かれ急いで後を追いかけるが、ダッシュの合間にインターバルが必要なトライブルーでは一定時間に進む距離に大きな差があった。次第に離され勇助の焦りも大きくなってゆく。

 だがそこで突然ウラジに変化が起きた。駆動系に不具合でも生じたのか、速度が大幅に低下したのだ。

「ハァッ!!」

 それをチャンスと捉え高くジャンプし、ウラジの背中目掛けてチャージキックを仕掛ける。「直撃する」勇助がそう確信した瞬間。

「グルンッ!!」

 ウラジの上半身が180度回転。キックで突き出していた右足を掴むと勢いよく地面に叩きつけた。

「ぐほっ!!」

 地面に背中から激突した衝撃に対応が遅れ、その間に巨大な右手が体を包み込もうと迫る。咄嗟に抵抗しようと腕を突き出すが、体はぐるりと拘束されてしまう。

「動きが単純すぎる。」

体をくねらせ必死に藻掻くがどうすることもできない。

「そんなものか?伝説の鎧の力は?」

 手を握る力が強くなり、スーツからミシミシと軋む音が聞こえる。視界のモニターが赤く染まり、ビービーと警報が鳴る。

 どうにか抜け出そうともがくが左腕は巨大な指の間に挟まれており、何とか動かせるのは右腕と頭だけ。この状況で一体何ができると必死に頭を働かせていると、

(そうだ!)

 学校での特別講習を思い出した。

 通学中の電車内で痴漢が多発、学校の生徒も被害に遭ったということで、学校OBである柔術家の師範が全校集会に来たことがあった。

 師範によると男性と比べて非力な女性は痴漢の手を押しのけることは難しいが、相手の指1本を片手で握りしめ捻れば容易く骨折させることができると実演した。

「全力だっ!トライブルー!!」

 スーツの全力を引き出すべく雄叫びを上げながら巨大な指一本だけに腕をはわせ、左腕と右腕を梃子の要領で力を一気に加える。

「ベキィッ!!」

 せん断方向に働いた力が人差し指を破壊し、中のケーブルや部品が露出した。

「チャージスマッシュ!」

 すかさずそこへパンチを叩き込む。

「チッ!右腕パージ!」

 巨大スーツの右上腕部から先が外され指からも解き放たれる。やはりこの男はナノマシンキラーの効果を知っている。互いに後方へ下がり距離を取る。


 右腕を失い姿勢制御が困難になった体を何とか支えながらウラジは考える。

 目の前のパワードスーツはやはり伝説の青い鎧で間違いない。機械に影響を与える攻撃は30年前に経験したものと同じ。その対策として開発したコアブロックシステムは機能しており、被害を腕だけに抑えることができている。

 パワー・スピード共にこちらが上だが右腕を失った以上、念には念を入れる必要がある。そう考えたウラジは勇助に背を向けると脚部からジェットを噴射。一目散に逃走を開始した。

「待て!」

 背後からトライブルーが追いかけるが距離は広がる一方。

「止まれ!」

 勇助はトライガンを取り出すとダッシュしつつ銃撃を行う。

 しかしウラジは銃撃に合わせてジグザグに回避し、そのまま猛スピードで建物の壁を体当たりで破壊して中へ入っていった。何とか追いついた勇助も破壊されてできた穴から建物内に入る。

「工場?」

 周囲には機械のパーツらしき物がベルトコンベアで運ばれ、複数のロボットがパーツの組み立てと溶接を流れ作業で行っている。

 周囲を見渡すと壁にできたばかりの大きな穴を見つけ、そこを通り抜けると広い空間に出た。大きなコンテナが幾つもあり、どうやら工場で作られた製品の集積場のようだ。

「待たせたな!第2ラウンドといこうか。」

 左手で天井の梁にぶら下がるウラジ。右腕には先程とは違い、太く硬質的で巨大なペンチの様な部品が取り付けられていた。これに掴まれたら今度こそ抜け出せないという恐怖を勇助は感じた。

「今度は本気だ!」

 左腕をしならせ、その反動で勢いをつけて突進してくるウラジ。トライガンから放たれた光弾を右腕のペンチでガードしながら尚も突っ込んでくる。

 相手は図体が大きな分、小回りが利かない。そう判断した勇助は梁の上に飛び上がりながらトライガンの引き金を引く。

「また逃げ回るつもりかーっ?」

 光弾をペンチで防御しながら煽るウラジに、それはお互い様だろうと勇助は言いたくなるのを我慢して作戦を考える。何とかして装甲の表面だけでも破壊できれば、内部にナノマシンキラーを流し込むことができるはず。

 そういえば、そもそもどこからペンチ腕を調達したのだと周りを見渡すと、青・黄・赤と他にも様々な種類のコンテナがあった。コンテナの中身はパワードスーツに関するモノばかり。

 梁の上から複数あるコンテナの中の1つへ飛び降り、キックで天井を破り中に入った。だが目当ての物は無く、すぐにコンテナ側面をパンチでぶち破り外に出る。

「隠れても無駄だ!」

 勇助を見つけたウラジが梁の上から飛び掛かる。しかし、勇助は既に別のコンテナへ移動していた。

 ウラジの巨大なスーツはパワーにおいてはトライブルーを上回っていたが、その分予備動作も大きい。さらにトライブルーの動作補助の機能もあって、戦闘に不慣れな勇助でも容易に回避できた。

「こいつ、何をしている?」

 行動の意図が分からず、ウラジは焦りを感じていた。コンテナ内にあるのはパワードスーツ用の資材や武器。武器はアイッスル製のパワードスーツにしか使用できないようにロックが掛かっている。

 まさかそれすら分からぬアホなのか。梁にぶら下がりながらそう考えていると、トライブルーがコンテナ上へ姿を現した。

「何!」

 トライブルーが持つものを見て驚愕の声を上げるウラジ。自身が今持つ武器と同じ対サイクロプス用兵器、正式名称【パワーペンチ】をトライブルーも手にしていた。

 パワーペンチは対象を挟んで切断やねじ切ることを目的に、大型ドロイドを仮想敵として開発された。当然、サイクロプスの装甲に対しても有効な兵器だ。

 自身を破壊可能な兵器を前にし、ウラジの脳裏に撤退の文字が浮かぶ。しかし、来たるべき戦いに備え技術の向上は絶対必須であり、撤退すればノアという貴重なサンプルを得ることができなくなってしまう。

 そしてどうしても退けない理由が一つ。素人と見下す相手が同じ武器を持ち出しただけで対等に戦えると思いあがっている事実に、最強と謳われた機装兵のプライドが許さなかった。

「ぶっ殺してやる!!」

 天井から猛烈な勢いで落下し、パワーペンチを振り下ろすウラジ。勇助は回避したが重たいパワーペンチのせいでバランスを失う。そこへズームパンチが繰り出せれ吹き飛ばされた勇助だが、何とか隣のコンテナの上へ着地した。

 パワーペンチを装備しても満足に扱うこともできないのでは宝の持ち腐れ。やはりただの素人だと認識したウラジは揺さぶりをかけるべく、勇助のいるコンテナに飛び移ると同時にコンテナを左腕で殴りつけた。振動によってバランスを失ったトライブルーをパワーペンチで挟んでしまえば、後は捩じ切るだけ。

 しかしパワーペンチを突き出そうとしたウラジの目に信じられないものが映る。

 勇助はバランスを失うこと無く、パワーペンチをウラジ目掛けて真っすぐに突き出していた。

「馬鹿なっ!」

 ウラジは何とか体を反らし回避を試みたが、パワーペンチに右腕の付け根を掴まれた。

「はぁぁぁぁあーっ!!」

 勇助の雄叫びと共にペンチが作動し、ベキンッと鈍い音と共に右腕がちぎれ落ちた。

「きさまぁぁぁぁーっ!!!」

 激昂したウラジが残った左腕で勇助に突進し、タックルを仕掛けた。

「ぐうっ!」

 咄嗟にガードした勇助だったが、その衝撃でコンテナから床に落下。そこへすかさずウラジがボディプレスを仕掛け、勇助はもろに直撃してしまう。

「かはッ!!!」

 装甲のおかげで辛うじて内臓破裂から守ったものの、あまりの激痛に悶える勇助。ウラジはのたうち回る勇助に馬乗りになると、唯一残った左腕でトライブルーの頭を握りしめようとする

「死ねっ!トライブルー!!」

 首を折ろうとするウラジの左手を掴み必死に抵抗する勇助。一瞬でも力を緩めれば首の骨を折られてしまうという状況の中、勇助は何とかして引きはがす手段が無いか考える。

 動かせるのは手だけ。しかし手を離したその瞬間に首の骨を折られるのは確実。絶体絶命の中、勇助が何もできないでいると。

「ユースケーっ!!」

 叫び声と共に突進してきたロムアがウラジへパイルバンカーを放った。

「雑魚は引っ込んでいろーー!」

 ボディを狙ったパイルバンカーにウラジは右足で蹴り払い、ロムアは勢いよく蹴り飛ばされてしまった。だがその動きの中で生じた隙間に勇助は両足をねじ込み、足裏をウラジの腹部へと当て叫んだ。

「跳べーーーーーっ!!」

 最大出力のエアダッシュの噴射がウラジの巨体を勢いよく跳ね上げた。

「うあああぁぁぁ〰!!」

 何が起こったのか分からないまま宙を泳ぐようにじたばたするウラジ。頂点から落下を開始したウラジが見たのは地上で構えるトライブルーだった。

「チャージスマッシュ!」

「させるかーーーっ!」

 残った左腕でなんとかズームパンチを繰り出したウラジだったが、トライブルーはそれを回避しつつ、下から突き上げるようにアッパーカットを喰らわせた。

「ぐわぁぁぁぁー」

 落下の勢いが合わさったことでサイクロプスは装甲を粉々に砕かれ、そのまま勢いよく地面をバウンドしてコンテナに激突した。

 とどめを刺そうと身動きのできないウラジにトライガンを向けながら近づくと、

「ま、まて、まってくれ。俺の負けだ。」

 ウラジの命乞いが倉庫内に響き渡る。

「ロムアさん。どうしますか?」

 本来の指示は時間稼ぎをすることであったため、勇助はロムアに指示を仰いだ。ロムアは警戒しつつ銃をウラジに向けながら、

「アイッスルの大統領だからな。ノア指令に判断を仰がなければ。」

「大統領!?そんなに偉い人だったんですか?」

 戦っていた相手の正体を知り驚く勇助。そもそも国のトップが実戦に出ること自体が異常なことであり、勇助の驚きも尤もである。

「頼む。助けてくれ!!助けてくれるのなら何でもする!!」

 これまでの大物ぶった威厳はそこには無く、ただただ死を恐れる老人の姿がそこにはあった。しかし、続けて出た言葉に勇助は驚いた。

「助けてくれるなら俺の知っていることを何でも教える。他の鎧の戦士の情報だって!!」

「他の鎧の戦士?」

 勇助はノアに聞かされた伝説の内容を思い返していた。

(確か伝説の勇者が作った鎧は3つ。このトライブルーと、たしか残りは・・・)

「そこまでだウラジ。」

 突如、天井から黄色い光が降り立った。

「ノアを捕獲したとの情報は入っていた。始末してくれるかと泳がせていたが・・・。」

 現れたのは、胸と頭部に黄色いXが刻まれたパワードスーツ。それを見たウラジは絶望の声を上げる。

交錯する黄(クロスイエロー)ッ!!」

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