派遣勇者-SENT BRAVE-(1)
―戦闘服を着た5名の男達と共に女性が1人、周囲を警戒しながら慎重に進んでいた。
”箱舟”内部を探索してから2時間以上は経過しているが、目的地には未だ辿り着けていない。この”箱舟”が地上に墜落してから千年は経過しているため、通路には崩落・陥没した箇所がいくつもある。そのために遠回りせざるを得なかったのだ。
追手もこの”箱舟”の内部に侵入しているはず。鉢合わせして戦闘になればこちらに勝ち目はない。
追いつかれる前に何としても”アレ”を使わなければ。
先に進むと前方に直径30メートル程の大きな穴が現れた。穴に瓦礫を投げ入れ、反射音で穴の深さを計算する。マップデータではここから下に降りれば目的地である保管庫の前へ辿り着く。
「降下します。」
指示を出すと隊員達は即座に行動に移し、降下用ロープの設置を始める。ここへ来た目的を彼らには一切伝えていない。それでも皆、私を信じここまでついて来てくれた。設置が完了し、先に隊員2名が降下。安全を確認した後にロープを伝って降りて行く。
植物や苔が生い茂った壁を伝って降下し、水浸しになった大きな広い空間に出る。
奥には高さ15mはある巨大な扉が。隊員達が驚きの声を上げている間に扉の端末に絡んでいる植物を引きちぎり光信号パスワードを入力する。轟音と共に巨大な扉がゆっくりと動き始め、人が通れる隙間ができると隊員2名を引き連れて保管庫内に足を踏み入れる。
保管庫内では棚のほとんどが倒れており、長期保存用のディスクが光を失った状態で床に散乱していた。気にせず踏みつぶしながら進むとペキペキと乾いた音が保管庫内に虚しく響き渡る。
農業や工業だけでなく、芸術についても様々なデータが記録されたディスク達。砕かれる音はまるで彼らの無念の声に聞こえる。
しばらく進むと”アレ”が見えた。縦横1m、高さ2m程度のガラスで囲まれた小さな箱の中に緑色の奇妙な形をした機械が入っている。
千年以上は経過しているはずなのだがやはり劣化も損傷も全くしていない。ここだけ時が止まっているかのようだ。
「今からこれを使い”勇者”を召喚します。それまで・・・」
通信機で全隊員に護衛の指示を伝える最中、割り込んできたのは切迫した声だった。
「上層からドロイドが接近中!!アシリマの飛行型ドロイドが接近中!!応戦しますっ!」
通信の直後、銃声音が鳴り響いた。もう一刻の猶予も無い。
ガラスの扉をスライドさせて中に入り、機械から出ているぐるぐる巻きのコードの先にある上と下が膨らんだ緑色の棒を持ち上げる。穴が開いた部分を口に近づけ緑色の機械のボタンを押してゆく。
『間に合った!!これで勇者が来る!これで戦争を終わらせることができる!!』勝利を確信する中、聞こえてきたのは無機質な電子音だけであった。
「ぷるるるるる ぷるるるるる」
そんな音が鳴り響くだけで特に勇者が現れる兆しも無い。入口の方へ目を向けると応戦していた隊員がドロイドに撃たれて倒れた。
奥からプロペラが4つと機関銃を2丁搭載した飛行型ドロイドがこちらに向かって来る。直近の護衛2人がドロイドに向けて銃を撃ち応戦するが、ドロイドは火花をあげながらも悠然とこちらに向かって来る。
「ぷるるるるる ぷるるるるる」
この機械を破壊されてしまえば、もう戦争を終わらせる手段は無くなる。
護衛の二人は棚をバリケードにして粘り強く銃撃を繰り広げていたが、とうとう銃弾を受けて二人とも地面に倒れ伏すと呻き声をあげた。
「ぷるるるるる ぷるるるるる」
ゆっくりとドロイドが近づいてくるのを見つめながら祈った。
『私の願いを叶えてさえくれるのなら、誰でもいいから来て!!』
その矢先。
「”ガチャッ”はい空乃です。」
繋がった!一刻の猶予も無い。すぐさま叫ぶ。
「お願いします。助けて下さい!この世界を救って下さい!!」
すると、足元に何の変哲も無いごく普通の少年がいた。