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派遣勇者-SENT BRAVE-(18)

「空の民と戦うためにに遺物の復元を!?」

 ラスにスーツごと掴まれ高速で移動する中、ノアが問いかける。

「そうともよ。空の民の技術を解析し開発したこの“サイクロプス”ならば勇者の鎧とも渡り合える!!」

(まさかアイッスルが空の民へ謀反を企てていたとは。ですがこれは…。)

 ノアには腑に落ちない点があった。この”サイクロプス”というスーツの内部から生体反応を全く感知できないのだ。

「肉体を捨てたのですか?」

 質問に対し、ラスは笑った。

「ククク、そうだ。機械の体を手に入れた俺は、今や人間を超えた存在になったのだ!!」

 傲慢な言葉にノアは違和感を感じた。この技術に()()()のは決まって寿命が近い老人だけ。

 ノアはこの男の正体に感づいた。

「あなた、ウラジ・ミル・チープンですね?」

 ラスは急停止すると、腕を動かしノアの顔を覗き込む。

「ほう。良くわかったな?」

「肉体を捨てさせるようなことを、子に強いる親などいません。」

「ハハハハハ!!機械が親心を語るか。そうとも。ラスとは機械の体になった後で作った存在だ。」

 アイッスルがここまで技術力を高めていたとは思いもよらなかったとノアは己の判断の甘さを呪った。

「空の民からはお前を引き渡すよう命令されていたがそのつもりはない。分解して技術の発展に貢献してもらう。空の民のオリジナルボディならば膨大な情報が得られるだろう。」 

「彼らが知れば、必ず粛清に現れますよ。」

 躊躇させるためのブラフだ。

「報告しなければ気付かれまい。粛清に来たとしてもこの“サイクロプス”で返り討ちよ!」

 どうやら余程このパワードスーツに自信があるらしい。

「無理矢理スーツを脱がしてもいいが、あまり中のボディを傷つけたくはない。自分から脱いでくれると助かるのだが、さてどうする?」

 この状況を打破する手段が皆無と判断したノアは自壊装置を作動させようとした。

 その瞬間、

「ん?なんだ?」

 ウラジへ通信が入ったようだ。ノアは通信をジャックして会話内容を盗み聞く。

「総隊長殿、駆逐艦の捕獲に向かわせていた部隊が襲撃に遭い、全滅しました。」

「敵はなんだ?レジスタンスか?」

 苛立ちを含んだラスの声に怯えながら相手が告げる。

「盗まれたスーツを装着したレジスタンスが3機。誘導機雷ゾーンを越え、間もなく基地に入ります。」

「取り返すつもりか。たった3機で突破するとは中々の腕と度胸だ。」

 海岸から白い機体が3つ、縦一列に重なって進んで現れる。先頭が対大型ドロイド用のロケットランチャーと盾を、2機目がガトリング砲を、最後尾はマシンガンと突起のついた杭の様な物を装備している。

 迎撃せんと基地内の機装兵が次々と攻撃を仕掛けるも、巧みな連携で次々に撃破してゆく。一連の動きでノアには装着者が誰なのかを判断できた。基地のアンテナに傍受されないように3機のスーツへ通信を送る。 

<ロムア、トヤハ、イーカ。どうして助けになど来たのですか!>

 叱りつけるかのような声に対し、 

「そりゃ我らが幸運の女神さまを取り返しにね♪」

「イーカ、よせ。今どちらに?」

 イーカの皮肉をたしなめるトヤハ。2人はロムアがアイッスルにいた頃からの同僚で、レジスタンスにも共に加入した。

<ゲート方向500m先。大型スーツに掴まれています。>

 ウラジの大型スーツを確認した3人が停止する。これまでにないスーツの異様さに言葉を失う3人。従来の倍はある大きさに太い腕と足、そして極め付きは頭部にある巨大な一つ目。その巨大な一つ目がぐりぐりと動きながら3人を捉えている。

「ノア指令。そのスーツの情報を」

 ロムアが冷静に質問する。

<パワーはあなた達が今装着している物の約3倍。曲面装甲で銃器は効果が低いでしょう。ジェット推進で一気に距離を詰めてきます。>

「とんでもねーな。ちなみに装着者の腕前は?」

<装着者はウラジ・ミル・チープン。全身をサイボーグ化しています。>

「ゲェッ!大先輩じゃん。ロムア、どう戦う?」

 同じ機装兵としてその名は畏怖の存在。皮肉屋イーカの口調にも緊張が混じる。

「恐れるな。いかに最強の機装兵と呼ばれた大統領と言えど、パワードスーツ相手の実戦経験はこちらが上だ。距離を取り様子を見つつ、指令を解放する手段を探る。決して相手から目を離すな!」

「「了解!」」

 いつでも動けるようそれぞれが構えを取り、脚部ローラーがギャリギャリとアイドリング状態になる。

「作戦会議は終わったかね?」

 こちらの遣り取り分かっていたと言わんばかりの態度に、

「ええ。お気遣いありがとう。気遣いついでに私を手から離して下さると助かるのですが?」

「ハハハハハ、駄目だ駄目だ。また逃げられると面倒なんでな。このまま戦う。」

 余裕で皮肉に答えるウラジは「ゆくぞ後輩諸君。」そう言いパンチの構えをとる。直後、脚部からジェットが噴射され、先頭にいたトヤハとの距離を一気に詰めた。

 トヤハは咄嗟に後方へと回避し、腕の届く範囲から脱した。・・・と思われたが。

「グアッ!」

 盾と武装を合わせて200キロを超えるパワードスーツが空を舞った。その光景に呆気にとられるロムアとイーカ。

「ガシャンッ」

 地面に激突した鈍い音が二人を現実に呼び戻す。

「なっ!?」

 ウラジのまるでマジックハンドの様に伸びた右腕を見て2人は息を呑んだ。

「やはり片腕だけで十分だな。」

 右腕を掲げると腕は元の長さへと縮む。

 ー折り畳み式延伸腕(ズームパンチ)。トヤハはパンチの際に前もって後方へ回避したが、ウラジはそれに合わせて腕を伸ばして命中させたのだ。

「トヤハーッ!!このヤロォォォォッ!」

 叫びながらガトリング砲を撃つイーカだったが、ウラジは気にすることなく突っ込むとパンチを繰り出す。このままイーカもトヤハと同じ顛末を辿るかと思われた刹那、

「させるかっ!」

 側面から回り込んだロムアがウラジの振りかぶった右腕へ杭を突き立てた。

「ガキィーンッ!!」

 金属のぶつかる音が響き渡るとウラジは後ろに仰け反った。

「パイルバンカーなんて骨董品、よく残っていたものだ。」

 パイルバンカーは最初期に開発された対大型ドロイド用の兵器である。長さ1メートルの金属製の杭を炸薬にて打ち込むことで、重装甲の相手でも十分な威力を発揮する。だが射程距離が短く相手の懐へと接近する必要があり、重火器の性能向上もあって使用者は激減、製造中止となっていた。

「浅いっ!」

 有効打を与えることができず、ロムアはただ距離を取ることしかできない。

「なるほど。反抗勢力が使用するパワードスーツを専門に処理する部隊。確かイレギュラーハンター部隊だったか?その中でも接近戦に長けた隊員が逃亡したと聞いていたが、お前か。」

 攻撃を受けた腕の損傷を確認しつつ語りかけるウラジに対し、ロムアは無言でパイルバンカーの薬莢を排出し次弾を装填する。

「では良い戦闘データがとれるよう、頑張ってくれたまえ。」

 その言葉と共にウラジが視界から消えた。

「なにっ!?」

 巨体が5mは軽々と、しかもパワードスーツを掴んだ状態で跳躍した。規格外の性能に驚愕する2人。

 後方へ回避するのは不味いと考えたロムアは咄嗟にその下を掻い潜りそのまま距離を離す。

「避けろイーカ!!」

 叫ぶロムアだったがイーカは判断が遅れ、回避しようとしたところでズームパンチで殴り飛ばされた。「駆動ユニットをやられた。動けねぇ。」何とか体を動かそうと体を震わせることしかできないイーカ。

 このまま防戦一方では全滅だ。何か打つ手は無いかと考えるロムアへノアから通信が入る。

<ロムア、頭部のセンサーを何とか狙えませんか?>

 勿論ロムアもそれは考えてはいた。だが何の援護も無く、あの攻撃を掻い潜りながらでは成功率は極めて低いと言わざるを得ない。しかし、どちらにせよ圧倒的不利なこの状況ではやるしかない。

「ラストだ。行くぞ。」

 再び跳躍するウラジ。だがロムアは背中を見せ全速力で大幅に距離を離す。

「逃がすか。」

 空中にいる状態でジェットを噴射させ、猛烈な勢いでロムアへと迫り、そのまま殴り掛かる。

<今です!>

 ノアの合図とともにロムアがパイルバンカーを地面に突き刺すとそれを軸に旋回、回避と共にウラジの懐に入った。さらに続いてパイルバンカーを地面から引き抜き、そのまま頭部へと向けて突き刺した。

「ズガンッ!」

 杭が頭部を完全に貫通し、「やった!」手ごたえを感じたロムア。だが、

「残念~。」

 突き刺さったパイルバンカーを握りしめるウラジ。

「たかがメインカメラをやられただけだ。」

「チッ!」

 ロムアは咄嗟に掴まれたパイルバンカーを脱着し後方へ下がろうとするも右腕に掴まれた。

「残念だ。後輩を握りつぶすことになるとは。」

 必死にもがくロムアだが巨大な手と指に固定されびくともしない。握る力が強くなるにつれてスーツがきしむ音が大きくなってゆく。

<すみませんロムア。私を助けようとしたばかりに。>

 ロムアは驚いた。隊員が戦死した時も、女子供が病死した時も毅然とした態度を崩さなかったノアが謝罪の言葉を言っていることに。

 しかし、その謝罪はもっと他に言うべき相手がいたはず。ノアだけではない。自分を含めたこの星すべての人間が謝らなければならない奴がいる。ロムアはそう考えていた。

 彼はこの世界の問題とは本来、全く関わりが無い。にもかかわらず勇気を出し我々のために戦ってくれた。そんな彼を大義名分の名の下に利用するだけ利用し、ただの捨て駒として扱った。

「すまなかったまユースケ。」

 ロムアが謝罪の言葉をつぶやいたその時、

<<シューゥゥウン>>

 ウラジの頭部目掛けて青い閃光が駆け抜け、刺さったままのパイルバンカーに命中した。

「グオオオオオッ!!プログラムが消える!?」

 握られていた両手が開き2人は地面に落下し、ウラジは頭を掴み呻き声を上げ悶えていた。そこへ青い光を宿したスーツが急接近すると跳躍した。

「ハァーッ!!」

「ぐおおおっ!」

 青く光り輝く跳び蹴りを胸に受け、ウラジが吹き飛ばされる。

「大丈夫ですか?ロムアさん。」

 かけられた声にロムアは驚いた。

「ユースケ!助けに来てくれたのか?」

 例えユーミカがホバータンクから生き残ったとしても、それ以降はレジスタンスを見限り、助けてくれないだろうとロムアは考えていた

「すみません、先に指令室を襲撃していたので遅くなりました。」

 ユースケの言葉にロムアの胸は込み上げてくる感情で一杯になった。

「話は後です。私がロムアを担いで退却します。トヤハはイーカを。」

 意識を取り戻したトヤハがイーカに肩を貸しているのと同様にノアがロムアを担ぐ。

「ハハハハハ!」

 蹴り飛ばされたウラジが起き上がり、「バキンッ!!」笑いながら頭部を引きちぎると地面に捨てた。

「青い鎧に三角形の意匠。貴様、トライブルーだな?」

 ユースケが銃をウラジに向けながら「あれは?」とノアに問いかける。

「勇者の鎧に対抗するためにアシリマが開発した新型のパワードスーツです。私たちが退却するまでの時間稼ぎ、お願いできますか?」

「分かりました。」

 躊躇なく答えるユースケにせめて敵の情報を伝えようとするロムアだったが通信機が使用できない。故障かと戸惑っていると「行きますよ」とノアに連れて行かれる。

 ノア達が到着した格納庫には1隻だけ駆逐艦が残っていた。後で使用する可能性を考えたノアが、1隻だけは海に出さずに残していたのだ。

「それでは行きましょう。」

 乗艦するや否や出航しようとするノアに「ちょっと待って下さい。」と口を挟むロムア。

「ユースケがまだです。どうにかして回収してからでないと。」

 心配するロムアに対し、ノアからは冷たい言葉が放たれる。

「彼()()ウラジを倒せる可能性は低いでしょうが、()()()()に持ち込めるでしょう。その方が次の勇者も呼べるので利点も多い。」

「それは違うでしょう!!」

 ロムアは激昂しそうになる感情を抑えながら、これまでに出したことも無いほどの大声を出した。

「また彼を利用するのですか?彼は、ユースケは命を懸けて、俺達のために戦っているんですよ?」

「彼には勇者としての力はありません。ただの子供です。」

 かぶりを振るロムアは涙声になりながら。

「そうです。ただの子供なんです。そんな子供が勇気を出して、死ぬかもしれない恐怖と隣り合わせに戦っているんです。」

 ロムアは真っすぐとノアの瞳を見ていった。

「俺は彼こそが勇者だと信じています。」

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