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派遣勇者-SENT BRAVE-(17)

「それで?女はまだ見つからないのかね。」

 深々とソファーに身を預け、高圧的に問いかける若い男。高密度の筋肉が詰め込またその肉体は見る者に重機を連想させる。

「はい。くまなく探しているのですが、まだ・・・。」

 基地の責任者である司令官は額から流れる汗を拭きながら答える。部隊が女の衛生兵を捕らえたと中央司令部に報告したところ、何故か遠い本国からこの男がやって来たのだ。

「もし取り逃がすようなことがあれば、軍法会議モノだぞ。」

 冷たく言い放つこの男。名はラス・ミル・チープンと言い、現アイッスル連邦大統領ウラジ・ミル・チープンの一人息子である。

 アイッスル随一の機装兵だった父親と同じく、彼もまた現アイッスル最高の機装兵だと謳われている。

「必ず、必ず見つけ出しぅ!捕らえますっ!」

 機装部隊の総隊長を務めているラスは次期大統領と目されており、彼の心証を悪くすれば昇進の道どころか命を失うことに繋がりかねない。必死にご機嫌取りをする司令官に対しラスは、

「いいか、必ず五体満足で捕らえろ。傷一つ負わすことも許さんぞ。」

「ハイィッ!!!」

 無傷でという条件から、司令官はラスがあの女に惚れているのだと思った。でなければ、レジスタンスの人間に対し、そんな甘い命令は出さないはずだ。

 確かにあの女は極上だ。これまで見た中でも最高と呼ぶべき女。整った顔立ちに抜群のプロポーション。尋問の際に見た透き通る肌には汚れや染みは一切無く、完成された芸術品のようだった。

 しかし所詮は女だ。

 陸地は塀で囲まれ、唯一の出入り口である検問所にはスーツを装着した兵が常駐している。海には誘導機雷が多数設置されており、特別な発信機を所持していない者が近づくと追尾して爆発する。

 この基地は侵入も脱出も不可能。救護兵の女1人、捕まるのは時間の問題だ。

 さっさと終わらせて酒を飲みたいと司令官が考えていると通信が入った。

「駆逐艦4隻!ドックから発進。こちらの応答を受け付けません!」

 訳が分からない。他にレジスタンスが基地内に潜入していたのか?小型の駆逐艦といえども運転させるだけでも最低3人は必要。そんな大勢が見つかることなく侵入するなど不可能だ。

 混乱する司令官をよそにラスは笑みを浮かべると、

「私は”サイクロプス”で出撃する。」

 司令官は一瞬で青ざめた。

「お待ちください。あのスーツでは駆逐艦を跡形も無く破壊してしまいます。」

 できれば通常のスーツ部隊に向かわせ、なるべく損傷を少なく取り返したいという趣旨の発言に、

「お前達は駆逐艦を追いかけろ。私は別だ。」

 では何のためにあんな”化け物”を持ち出すのだと不思議がっていると、

「全員に伝えておけ。私の邪魔をした者は軍法会議無しに即、処刑するとな。」

_______________________

 基地の唯一の入り口である検問所ではパワードスーツを装着した兵が2名、厳重に警備をしていた。

 例え相手がゴーレムでもハチの巣にできるほどに火力・連射性が極めて高いバルカン砲を装備しており、さすがにこの戦力に戦いを挑むバカはいないと慢心していた。

「にしてもあの2人も馬鹿だよなー。」

「ああ。せっかくいい女を好きにできるってのに、返り討ちで死んじまいやがるとは。」

「だが好都合だ。俺たちにもチャンスがあるかもしれねえ。」

「こっちに逃げてくれば、捕まて俺たちのモノってか?。お?誰か来るぞ。」

 ゲラゲラと笑っていた2人だったが、ホバーバイクに乗ったスーツが1機近づいてくるのを確認。停止ラインで止まったスーツに対し、

「氏名とIDの提示、作戦目的を言え。」

 各パワードスーツはナノマシンによる生体IDが設定されており、他人が使用することはできない。そもそも華奢な女にスーツを扱うことができないのも知ってはいるが、兵士達はマニュアル通りに進める。

 ホバーバイクに乗ったまま、スーツが右腕を掲げIDデータを送信する。

「ドリェジ・サメ、基地周辺にレジスタンスが潜んでないか周辺警戒の任務だ。」

 聞き慣れた同僚の声とID。おかしな点も無いので開門の信号を送る。門がゆっくりと開く間、捜索状況について会話する。

「まだ見つかってないが時間の問題だろう。あ~。俺も基地内の捜索班に廻されてりゃ、あの女とやれるチャンスがあったかもしれねーのによー。」

「残念だったな。」「俺が捕まえたらお前に回してやるよ。」門が開ききるまでに他愛もない会話をしていると、「グォォォォォ」とてつもない爆音と共に何かが猛スピードで接近してくる。

 音と共に巨大な影がぐんぐんと近づき、その姿形が見えるまで接近してくると”ソレ”の放つ異様な威圧感に呑まれ、その場にいた誰もが呆然とした。

「おい。ここに誰か来たか?」

 殺気を含んだ声。”ソレ”の中にいる人物を悟った2人は敬礼の姿勢をとる。 

「は、はぁいっ!そこのドリェジ・サメが基地周辺の警戒のために来たばかりでありますっ!」

「ほう・・・。」

 2人は奇妙なものを感じた。上官に対してドリェジがバイクから下りずに背を向けたままだ。  

「ギュイィィィィン」

 突然ホバーバイクをフルスロットルで加速させ、ドリェジが門へと突進して行く。仲間の予想外の行動に2人は呆気に取られて対応できず、そのまま門を通り過ぎるかと思われた。

 しかしその瞬間、巨大な影が跳躍しバイクの前に躍り出ると腕で薙ぎ払った。

「ぐぅぅあ!!」

 あまりの衝撃にバイクはドリェジを乗せたまま宙を飛び2人の兵士に衝突。バイクの下敷きになった2人は気を失ってしまう。

「下手な芝居はよしたらどうだ?レジスタンスのノア指令殿。」

 悪びれる素振りも見せず言い放つラス。

「ラス・ミル・チープン。何のためにそのようなものを・・・。」

 先程までドリェジとして振舞っていたスーツから発せられたのはノアの声だった。

 ラスはその巨大な腕でノアをスーツごと握りしめると持ち上げた。

「決まっているだろ?貴様ら空の民を、この世から抹殺するためよ!」

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