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派遣勇者-SENT BRAVE-(14)

「パワードスーツ^#$の破壊・・・。 パワー%$ドスーツの破壊・・・。」

 戦闘に割り込んできた囚人達とレジスタンのスナイパーを処理し、パワードスーツの元へタンクを向かわせる看守長。彼は確信していた。

「このパワードスーツは”我々”の天敵(・・)だ。」

 これまでの攻撃でもタンクの外的損傷は少なく、一見すると戦闘はタンク側が優勢に見える。しかし、既にタンク内部ではCPUの45%が損傷し使用不能に、フロント部の機器・回路においては73%がショートしていた。

 戦闘ログを調べたところ、被弾とパフォーマンスの低下が連動していたことが判明し、このスーツの機能について恐ろしい仮説が立てられた。


【物理的コンピューターウイルス】

 本来プログラムの一種に過ぎないコンピューターウイルスならば、書き換えられたプログラムを除去・修復して対処すればいい。

 しかし、このウイルスはデータではなく実際に物質として存在し、攻撃によって対象の内部に侵入・潜伏。ウイルスが一定量を超えるか、打撃等で一気にウイルスを流しこまれると連鎖反応的に誘爆して機器や回路を破壊する。

 

 アシリマ軍のドロイドにとっては最悪の相手。もしAIのある中枢CPUがウイルスに侵されれば即座に機能を停止してしまう。しかも物理的に存在するウイルスのため、修理するには汚染された部位をそっくり交換する必要があり、AIにとっては”感染=死”に他ならない。

「このスーツを軍に回収させ、対応策を講じなければ我々(・・)は敗北する。」

 同胞のために刺し違える覚悟をした看守長だが、勝算が無い訳ではなかった。

 警備用ドロイドが攻撃を受けて即座に機能停止したのに対して、ホバータンクは未だ被弾したフロント部以外は無事だった。恐らくウイルスは被弾した箇所周辺までにしか影響を及ぼさないため、体積の大きいホバータンクならば中枢CPUが存在する中央ブロックまでウイルスが到達する可能性は低いと考えた。

 

 囚人達が走り出したのをタンク側面のサブカメラが捉えた。4人で1人を抱え、収容所に向かって走って行く。首輪の信号から判断するに、抱えられているのは333番の首輪を持っていたスーツ装着者だ。

「ここ⊿で仕留яめる!」 

 建物に逃げ込まれる前に射程に捉えようと全速力でホバータンクを進める。囚人達はとても人ひとりを抱えているとは思えないほどのスピードで走っている。だが所詮は機械と人間。とうとう射程に捉えた。

『勝っ℁γた!!』

 看守長が勝利を確信したこの時、ホバータンクが横転していたトロッコの右横を通り過ぎようとしたその瞬間、

「チャージキック!」

 サブカメラに映った青い閃光がタンクの左側面、コクピットハッチへと突き刺さった。


 看守長は気付かなかった。囚人達が運んでいたのは、ユースケの服と首輪をシャベルに被せただけの、ただの囮だったことに。

 看守長は気付いていなかった。恐れていた”ナノマシンキラー”は既に中枢CPUに侵入しており、不完全ながらも判断能力を奪っていたことに。

 もしも熱感知機能のあるメインカメラが生きていれば偽物に気付いていたし、中枢CPUが無事でれば慎重な判断を行い危機を回避していただろう。

 

 チャージキックはコクピットハッチを突き破り、右足が太股の辺りまで陥没した。

 瓦礫に生き埋めになりながらも教えてくれた弱点。追撃を行うべく右足を少し浮かせると、

「チャージキック!!」

 正確にはキックではなくただの踏み付けだが、力が右足に集まるのが分かる。

『ベキィッッ!!』

 そのまま思い切り踏み抜くと足は更に深く沈んだ。2度3度と同じ動作を繰り返すうちにタンクは操舵がおぼつかなく、スピードも下がってきた。それでも用心のために何度も踏みつけていると、エンジンが完全に停止。タンクから音が一切発せられなくなった。

 (やったか?)

 タンクがいつ動き出してもいいように身構えていると、囮になった囚人達が駆け寄って来た。

「止まった!」「本当にやりやがった!」

 タンクのすぐ側でざわつく囚人達にも依然としてタンクは反応を示さない。

「看守長を捕らえます。入口を探しましょう。」

 足を引き抜いて下に降りて呼び掛けると囚人のひとりが穴の開いた箇所を指さし、

「そこだ。丁度下のところにマークがある。」

 見ると蹴り込んだ所の下に二重丸が描かれた、潜水艦にあるような大きな扉ががあった。

「開けられますか?操縦者が武器を持っているかもしれないので、開いたらすぐに突入します。」

 そう言うと囚人が2人で装甲表面から簡易なハンドルを引き起こし、ゆっくりと回し始める。咄嗟に行動できるように銃を構えてしばらく待機していると、「開くぞ!」という囚人の言葉に頷いて促す。扉が開かれていく間、もし抵抗してきたらとりあえず撃って無力化させようと心構えをしておく。

―――しかし。

「誰もいない?」

 扉の裏には誰もいなかった。警戒しつつ中に入り進んで行くと、多くのディスプレイや計器がある部屋に辿り着いた。操縦室の様だが誰もおらず、部屋の真ん中に壊れたドラム缶型のドロイドが一体いるだけだった。

 しばらく囚人達と一緒に中を探索したが結局何も見つからないので見張りを囚人に任せ、下敷きになったルビレさんを助けるため全速力で収容所に戻る。

 するとそこではユーミカさんが囚人達と共に瓦礫の撤去作業を行っていた。 

「無事だったんですね!」

 そう声を掛けるとユーミカさんが青ざめた表情で、

「瓦礫をどかしてくれ!ルビレが俺を庇って下敷きになったんだ!!」

 人の力では持てない様な大きな瓦礫をスーツの力で次々に投げ飛ばしてゆく。しばらくすると大きな鉄骨の下敷きになったルビレさんが見えた。

「くっ・・・」

 ひどい有様に思わず声を漏らす。鉄骨によって両足が完全に潰れ、夥しい量の血が溢れている。ユーミカさんがそばに駆け寄ると肩に手をかけ、

「どうして庇った!どうしてだ!」

 誰がどう見ても処置の施しようがない。叫びながら肩をゆするユーミカさんを止める者もいなかった。

「やっと主任への恩返しができた。いいか、山の中腹のあの場所に主任の遺品がある。」

 ルビレさんは笑顔だった。穏やかな表情をこちらに向けると、

「ありがとう勇者。君のおかげで救われた。」

「待って下さい。僕はまだ何も・・・。タンクの中には誰もいなかった。まだ看守達は生きてます!また攻めてくるかも」

 対照的に上ずってゆく声にルビレさんは依然落ち着いた口調で、わずかに右手を上げつつ、

「いや。もう看守達は来ない。この収容所を設計したのは主任と私だったんだ。軍に楯突いて、まさかここに収容されるとは。皮肉な話だ・・・。」

 声に力が無くなるにつれ顔色も白くなるくルビレさんをただ眺めることしかできない。どうしようもない無力感が襲う。

「この世界に呼ばれたのが、僕じゃなくもっと強い勇者だったら・・・。」

 俯きそう呟く僕にルビレさんは目を見開き、両手でこちらの左手をぐっと力強く握った。

「それは違う。」

 息を大きく吸うと、力のこもったハッキリとした声で、

「『宇宙に数多存在する勇者の中から、何故あなたが呼ばれたのか。』そう聞かれた勇者はこう答えた。『呼び掛けた者の願いに最も相応しい者が呼ばれる』文献にはそう書かれていた・・・。」

「願いに最も相応しい者・・・」

「そうだ。君が選ばれたことにも、きっと意味がある。きっと、きっと・・・。」

 そう言うとルビレさんの手から力が抜け落ちた。

「ルビレさん!」「爺さん!」「ルビレ爺さん!」

 周りに集まっていた囚人たちが次々に声を掛ける中、必死に口を動かす。

「地下にあるのはこの星の未来だ。君なら、君達なら変えられるはず たのん だ ぞ・・・」

 ルビレさんの手から力が抜け動かなくなった。悲しむ囚人達とは対照的に、ルビレさんの表情は満足気で満ち足りたモノだった。

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