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派遣勇者-SENT BRAVE-(13)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 青い光の中、幾つもの映像が次々と過ぎ去って行く。映像には叔父さんや町会長、クラスメイトに先生とこれまでの人生で関わった人達が映っている。

 流れ行く映像の中に母が映っているものを見つけた。「待って!」と強く念じる。

「もし困っている人がいたら、できる範囲でいい。勇気を出して助けてあげるの。」

 ベッドに横たわる母と会話する幼い自分の映像が動き始めた。人を助けることの大切さを母から説かれた時の記憶のようだ。

「勇気を出して助けようとしても、僕一人じゃ何もできないかも。」

 母の言葉を幼い僕は信じることができなかった。子供一人の力では満足に助けることもできず、邪魔になるだけかもしれないと考えていた。この後、母は何と答えたっけ?

 映像の中の母は優しく微笑むと口を開いt・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「あぁぁぁぁっ!」

 激痛に悲鳴を上げながら目覚める。何が起きたのか把握しようと顔を動かそうとするが、外から押さえつけられまるで動かせない。

「動かない!?うわっ!」

 体が勝手に動いてロケットを右へ左へ機敏に避け、タンクへ正確な射撃を行っている。

「くっ!!」

 太ももに激痛が走ると同時にスーツが跳躍、ロケットを躱しながら射撃を行うとそのままスムーズに着地へと移行する。次々に予測不能な動きがノンストップで続くため息継ぎもままならず、次第に三半規管が狂ってきた。このままでは不味い。スーツを止めようと全身に力をこめる。

『バチバチバチバチッ』

「うあぁあぁあぁあぁあぁ!!」

 目覚めた時と同じ衝撃。まるで電流を流されたかの様な衝撃に襲われる。

『動きを止めるな』そうスーツが罰を与えているかのようだ。

「キィーーーン」

 電撃が止み、体が弛緩するとモーター音が聞こえた。するとスーツが地面すれすれのダッシュから猛スピードで突進しながらロケットを撃ち落とし、爆風を掻き分けての全力ジャンプ。タンクに追いつくと、勢いそのまま前面部へ拳を叩き込んだ。

「バキッッッ!!」

 勢いが加わったことで威力も大きく、装甲の凹みはこれまで攻撃で一番大きい。一方で右腕への負荷も激しく、震えが止まらない。スーツはそれすら無理矢理抑え込みつつ、同じ個所を殴り続ける。

 とりあえず動き回ることはなくなった今、状況を整理する。直前に迫ったロケットに光弾が命中したところまでは覚えている。爆風に吹き飛ばされて気を失い、その間スーツが体を操り戦闘を続けていたのだろう。

 装着者を操る機能があるとはノアさんから一切聞いていない。知らなかっただけなのか?

 そう考えた時点である疑念が生まれた。

“知った上で敢えて教えなかった?”

 トライブルーについてあれほど精通しているノアさんがこの機能だけを知らなかったというのは考えにくい。ならば何故教えなかった?

『捨て駒』その答えに辿り着くと全身から力が抜けていった。

 このまま戦い続ければ、タンクは破壊できても肉体が限界に達して死ぬだろう。それが分かっていてもノアさんを恨む気持ちは全く湧いてこなかった。

 強い勇者を望んでいたのに、やって来たのはただの子供。邪魔者としてすぐに殺されなかっただけマシだ。たとえ世界は救えなくても、この命と引き換えに囚人達を解放できるのならそれでいいのかもしれない。

 何度も繰り返されたパンチにより装甲に大きな陥没ができると、スーツは指をまっすぐ、貫き手の形をとった。

「ギリギリギリ」

 右肩から指先までの筋肉が限界まで圧縮されると青い光が指先に宿る。チャージする攻撃がパンチに限定されないことを今知った。 

「シュッッッッ!!」

 貫き手が空気を切り裂き装甲へと突き刺さる。

「ビキッ」指の骨が間違いなく折れた。それでもスーツはお構いなしに装甲を引き剥がそうとする。これ以上は腕が折れるのではないかと思う程、骨の軋む音が体から鳴り響く中、なんとか装甲を剥がす。露出した部位には回路やレンズ、ケーブル等の様々な部品が見える。

 急加速するタンクにスーツは動じることもなく、青い光を宿らせた拳を振りかざす。

「バチィッッ!!」青い稲妻が露出した部品の上を走る。

「バチィッッ!!」2度目のチャージスマッシュ。ナノマシンキラーがタンク内部を巡り異常が出始めたのか、タンクの操舵がふらつきだした。「勝てる」そう思った矢先、目の前が光った。

 何が起きたのか分からないまま吹き飛ばされるが、スーツが上手く受け身を取り着地する。見るとタンク前面からは炎と煙が上がっていた。

 これ以上取り付かれるのは危険と判断した操縦者が何としても引き離すため、トライブルーがいたタンク前面に被弾覚悟でロケットを撃ったのだ。

「ハッハッ、ハッハッ」

 特に胸に受けたダメージは大きく、上手く息をできない。それでもスーツは再びタンクに取り付くために突進するつもりだ。モーター音と共に脚部が圧縮される。

 次は耐えられそうにない。

「これで終わりか・・・」と諦観に瞳を閉じ、スーツが動くのをただ待つ。

 ・・・・・。・・・・・。5秒、10秒と経っても何も起きない。恐る恐る目を開くとスーツは何故か収容所の方向を向いている。「何だ?」スーツの機能でズームされ、4つ近づいて来る何かが見えた。

「えっ!?」

 驚きに声が漏れた。トロッコを囚人達が押して近づいて来ているのだ。

 スーツとタンクはどう対処すべきか考えているのか静止したまま。するとトロッコは間に割って入るようにばらけて進む。その内の1つがこちらに向かって来ると、スーツは敵と判断したのか銃口を向けた。

「ぐああああっ!」

 撃たせまいと抵抗したことで電撃を浴びせられる。光弾は発射されてしまうが、トロッコに乗せられていたドロイドが盾となり防がれた。続いて放たれる光弾にも怯まず進む囚人達。一方でタンクは警戒してトロッコから離れて行く。

 武器も持たない囚人達がどうして?意図が分からず戸惑っていると、一筋の青い光が現れた。

「これは・・・。青極線!?」

 収容所から伸びた青い光は体の上をしばらく右往左往すると、トライガンの上でピタリと止まった。

「何かを伝えようとしている?何を?」

 必死に考えている間に目の前まで接近したトロッコがこちら目がけ突っ込んでくるが、スーツはそれを難無く躱す。しかし、それで終わりでは無かった。

「ウオオオオオオオオッ」

 ツルハシやシャベルを持った囚人達が雄叫びを上げ迫り来る。スーツはその鬼気迫る様に気圧されることなく狙いをつけて撃つ。

「グアアッ!」

 先頭の囚人が被弾して倒れるも、後ろに続く囚人達は勢いそのままに迫る。

「何が狙いなんだ?狙い、そうか!」

 後続の囚人達を撃とうとする右腕を全力で上に向ける。

「フウウウウワアアアアッツ!!」

 襲い掛かる電撃に歯を食いしばり耐える。すると状況を察した囚人が一気に距離を詰め、ツルハシをトライガン目掛けて振り下ろした。

「ぐあっ!!」

 ツルハシは空振りし、2人目は右手で殴り飛ばされる。続く3人目がシャベルを振りかぶる。

「くぅぅううう!!!」

 意識が飛びそうになるのを必死に耐えつつ、右腕を前に差し出す。

”ゴァッン!!”「ぐぁッ!」

 シャベルはトライガンに命中したが惜しくもトリガーガードに指が引っ掛かり、3人目もパンチを喰らい吹き飛ばされた。意識がぼやけ限界が近づく中、最後の4人目に全てを賭けて手を差し出す。

「ガンッ!!」

 衝撃と共に電撃が止んだ。地面に崩れ落ち朦朧とする意識の中、声が聞こえる。

「大丈夫か、しっかりしろ!!」

 長時間電撃を浴びたせいで呂律が回らない。何とか頷き意識があることを伝えると、

「収容所に戻るぞ!」

 他の囚人たちも駆けつけると体を抱え、トロッコの方へ走りだした。抱える囚人たちの顔を見て驚く。声を荒げて抗議していた囚人達だ。

「どうして?」

 あれほど反対していた人達が何故こんな危険を冒してまで助けに?

「あんたは俺達を救ってくれた。借りは返さないとな。」

「僕はまだ・・・誰も」

 “まだ誰一人として救えていない。”そう言おうとしたところでトロッコの中に放り込まれ、壊れたドロイドと相乗りになる。囚人が号令をかけるとトロッコが収容所へ向けて進みだす。しばらくトロッコの中で揺られていると、

「ドォォオオン!」

 突如爆発音が響き渡った。ドロイドに体を預けつつ顔を覗かせると、燃え上がるトロッコとその周りで倒れている囚人達が見えた。こちらの動きに気づいたタンクが後退を止め、他3つのトロッコへ攻撃を開始したのだ。

「ああっ!」

 また1つ、トロッコに攻撃が命中し爆発し、諸共に囚人達が吹き飛ばされる。

「構うな!あいつらも覚悟している。」

 また爆発音が響き渡る。囮は全て排除され、タンクがこちら目がけて接近する。このままではすぐに射程内に追いつかれてしまう。

「僕は放っておいて逃げて!!」

 タンク左側の砲身が稼働し、こちらに向けられた。「撃たれる!」そう思った瞬間に砲身に火花が上がった。砲身を撃たれたことでロケットは狙いが逸れて着弾。直撃は免れたが爆風でトロッコは横転し、全員が地面に転がる。

 収容所へ向きを変え、ロケットを発射するタンク。銃撃するユーミカさんを先に排除すべきと判断したのか、次々とロケットが撃ち込まれる。

 煙と爆炎が広がる中、タンク前方の装甲に銃弾が当たった。ユーミカさんが生きていることに安堵したのもつかの間、お返しとばかりに執拗に発射されたロケットによって建物は瞬く間に瓦礫の山へとなり果てた。

 ユーミカさんは無事なのか?安否を心配していると囚人達が駆け寄り、体を抱えようとする。

「どうして僕なんかのために!」

 足手まといになっている自身のふがいなさから声を荒げると囚人達は、

「使い潰され捨てられるだけの、奴隷同然だった俺達をあんたが救ってくれた。」

「人としての心を、誇りを思い出させてくれた。」

「あんたの勇気が俺達を変えたんだ!!」

 心の底から吐き出されたような言葉が母の記憶を呼び起こした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『勇気は人から人へ広がってゆくの。勇助の姿を見た誰かがきっと一緒に助けてくれる。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 母さんの言う通りだった。僕の勇気は決して無駄じゃなく、誰かに伝わっていた。

 溢れた涙をスーツは異物とみなし、電気分解によってカメラアイから放出された。

 ユーミカさんからの反撃が無くなりこちらに方向転換するタンク。そのタンクの右側面に収容所から真っすぐ、“青極線”が伸びていた。

「タンクが向かって来る。急いで撤退するぞ!」

 囚人の言葉を他所に考え込む。タンクとは終始向かい合って戦っていたし、取りついたのも前面と上面だけで側面は見てない。弱点を発見したルビレさんが、青極線でその位置を知らせているに違いない。 

「どうした?どこか負傷したのか。」

 “青極線”の出どころが瓦礫の中からなのが問題だ。ルビレさんが瓦礫の下に生き埋めになっているのなら、早く救助に向かわねばならない。だがそのためには・・・。

  覚悟を決めるとタンクから見えぬようトロッコの陰に隠れてから囚人達に告げる。

「この場でタンクを倒します。協力してくれますか?」

 それだけ言い囚人達の反応を待つ。返答はすぐだった。

「わかった。どうしたらいい?」

 勇助の勇気が囚人とユーミカへ広がり、巡り巡って勇助の勇気を再び呼び起こした。

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