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派遣勇者-SENT BRAVE-(12)

「チャージスマッシュ!」

 取り付いたタンク前方の装甲へ4度目の拳を叩きつける。凹みは大きくなったがまだ貫通できない。タンクが振り落とそうとスピードを上げながら方向転換を行う。

「うわあああッ」

 強烈な遠心力に体が投げ出されそうになるのを必死に耐える。ここで振り落とされ距離を取られれば、もう一度組み付くのは困難だ。

「チャージスマッシュ!」

 タンクが体勢を整えようとスピードを落としたところで、すかさず5度目のチャージスマッシュ。やはり装甲は貫けず、タンクも依然として走行している。

 ひょっとすると前面は装甲が厚いのかもしれない。そう考え猛烈な振動と風圧の中、装甲の上を這いつくばりながら移動する。片腕、片足づつ。装甲の上をまるでロッククライミングのようにゆっくりと、タンクの中心を目指す。

 するとこちらの意図を察知したのか急に方向転換をしたタンク。必死にしがみ付きながら、進行方向を見て驚愕の声を上げる。

「げぇっ!?」

 タンクは収容所へと向かってグングンとスピードが上げていく。タンクごと収容所に突っ込ませ、その衝撃でこちらを振り落とすつもりか。

 だが収容所を破壊してまで突撃を行うということは、この状況が好ましくないということ。歯を食いしばり頭を伏せ、衝突に備える。

『『ズガガガガガガ』』

「くうぅぅ!」

 建物を破壊しながら突き進むタンク。瓦礫が頭にぶつかるなか、頭がもげないことを祈りスーツの力を信じてただただ耐える。

『『ズガガン           』』

 衝撃と音が止み、ふと顔を上げると視界には荒野が広がっていた。

「やった!耐えっ うわぁぁぁぁっ!」

 収容所を通り抜け油断してしまった。タンクが急ブレーキをかけ発生した慣性の働きによって、タンク前方へと吹き飛ばされてしまった。


 地面を擦りながら何とか停止し、何とかタンクを向く。既にタンクは離れ、両脇の多連装ロケットランチャーの砲身がこちらへ向いていた。

「来る!!」収容所に被害が及ばないよう荒野の方へ駆ける。

「ヒュヒュオンッ!!」目で捉え切れないまま”何か”が2つ右側を横切ると、後方で爆発音が聞こえた。

“止まったら駄目だ!”回避するために絶え間なく動き何とか近づこうとするも、それに合わせてタンクも後方へと下がる。ルビレさんの言っていたタンクの戦法に完全に嵌ってしまった。

 どうする。どうしたらいい?ふとトライガンに目が留まる。

「それなら射撃で!!」

 ロケットをジャンプで回避する中トライガンを構え、ロケットランチャーの砲身を狙いトリガーを引く。

「ピシュン、ピシュン、ピシュン!」

 3発の光弾がタンク目掛けて発射されるも脅威ではないと判断したのか、タンクは回避行動を取らなかった。発射された光弾の内、2つは前面の装甲へ命中し残りは上に逸れた。しっかりと構えてからでないと命中率が落ちてしまう。

「ヒュヒュオンッ!!」

 再びロケットを躱しつつ射撃、だが今度は一発も当らなかった。回避しながらでは撃つだけで精一杯で、当てるにはとにかく撃ちまくるしかない。砲身がこちらに狙いを定めたのを確認し、発射された瞬間にダッシュジャンプを行う。

「ヒュオンッ!」

“避けた”そう思う一方、何か違和感を感じながらも銃のトリガーを押す。

「ドグォーーーーン」

 目の前で爆発が起き、衝撃で後方へと吹き飛ばされる。地面に打ち付けられた痛みで我に返り、力を振り絞る。

「くーーーーッ!」

 ノイズが走る視界の中、追撃を免れるため無我夢中で後方に移動しながら状況をを整理する。違和感の正体は”時間差”。それまでのロケットランチャー連続2発ではなく、1発目でジャンプを誘発させてから2発目を命中させてきたのだ。


 たった数回の回避でパターンを見抜き、そこを突いてきた。偶然ロケットランチャーと光弾がぶつかり、直撃を免れたのは不幸中の幸いだ。

 距離をとるために後方へとダッシュするが、逃がすまいと今度は逆にタンクが近づいてくる。

「ウワアアァァッ」

 打ち込んだ光弾はタンクに命中するが構うことなくロケットを発射してくる。

 連続か?時間差か?判断に迷い棒立ちしてしまう。

「ヒュヒュンッ!ヒュヒュンッ!!」

 今度は左右交互4発を時間差で発射された。右か左どちらかに回避していれば確実に被弾していたという事実に恐怖する。

 回避しながら近づく方法が思いつかない。焦りが焦りを呼ぶ。

「どうしたらッ!」

 完全にパニック状態に陥る中、視界に黒い影が映ったと思うと意識を失った。

挿絵(By みてみん)

_______________________

 スコープを覗くユーミカに焦りの表情が浮かぶ。ユースケがタンクから振り落とされてから戦況は一変。何とか攻撃を避けるので精一杯になっている。このままでは被弾するのも時間の問題だ。

 打つ手が無いか考えていると、

「ドゴオォォォォォン」

 爆音と共にユースが吹き飛ばされ、地面に倒れ伏す。ピクリとも動かないユースケにタンクは止めを刺さんとロケットランチャーを発射した。

 「あぁっ!!」

 爆音と共に周りの囚人らが悲鳴をあげる。見ていられずに顔を背け、この後どうやってレジスタンス基地へ撤退しようかと現実逃避気味に考えていると、

「見ろっ!生きてるぞ!」

 囚人の叫び声に反応し、指差す方向を見る。

「”キュィィィィィィーンッ”」

 爆風の中からけたたましいモーター音が響いたかと思うと、タンクへ向けて突進するユースケ。タンクは後方へ距離を取りつつロケットを放つが、

「オオッ!!!」

 これまでとは全く違う、キレのある動きでロケットを回避するユースケに囚人達が歓声を上げる。しかも回避しながら近づいていく。「これならまたタンクに組み付ける。」そう考えているとルビレが驚きの発言をした。

「まずい。このまま戦わせると死ぬぞ!」

「何を言ってる!?優勢じゃないか。」

 絶え間なく動くトライブルーをタンクは捉えることができていない。誰が見ても優勢な状況で、全く逆の発言をするルビレに問う。

「今のあいつはスーツに操られている!良く見てみろ。」

 言われたとおりスコープを覗くと、その異様さにすぐ気付いた。

 両肩を不自然にいからせ、顔は俯いているにもかかわらず、銃口だけがタンクを向いている。まるで下手糞な糸操り人形(マリオネット)の様だ。


”勇者が残せし青き鎧 纏いし者を凄まじき戦士に変える

 戦士倒れ伏すとも鎧 戦士を操りて戦い続ける

 戦い終えて残りし鎧 纏いし者は屍となる”


 ルビレが詩のようなものをそらで言う。

「古い記録によると勇者が去った後の時代で、国々は空の民の技術を研究・開発した兵器で戦争をしていた。それに対抗するために青き鎧を所有していた国では鎧の複製を試みた。調査のために鎧を纏わせた兵士を戦争に投入したが、その兵士は死亡してしまった。鎧には恐ろしい機能があったんだ。」

 “古い”というワードにユーミカは胸騒ぎがした。

「鎧は装着者に圧倒的な力を与える代わりに莫大な負荷を与え、耐えられずに意識を失うと鎧自身が装着者を操り戦い続ける機能があった。そうなると装着者の肉体は鎧の激しい動きに耐えられず、限界を超え死亡してしまった。だが鎧はその死体さえも操って戦いを続行し、敵を殲滅するまで戦い続けた。“人間のための鎧”ではなく”鎧のための人間”その悍ましさから青き鎧は何処かに封印された。」

 ルビレの話を聞いたユーミカは理解してしまった。

 ホバータンクの存在も、トライブルーの恐ろしい機能もノア指令は知っていた。この作戦は初めからユースケと収容所の共倒れが目的だったのだ。


 俺を同行させたのはユースケが作戦を放棄、または負傷して生き延びた場合に殺害してトライガンを回収するため。出発前のロムアさんの言葉はこれを予見したものだったのだろう。

 このままユースケを戦わせればタンクは倒され、囚人達も俺も助かる。だがスーツに操られたユースケは死ぬ。

(それでいいのか?異なる世界の人間のために戦う者を犠牲にして、本当にそれでいいのか?)

 ノア指令の意図に反する行為だとは理解している。それでもユースケを死なせたくない。

「ユースケを回収する。スーツの機能を停止させるにはどうしたらいい?」

 決意を込めた言葉にルビレは笑みを浮かべると、

「あの銃が制御装置と見て間違いない。あれを奪い取れば。」

 だが、問題があった。

「どうやって近づく?」

「4人1組でトロッコを押し、タンクの陽動とユースケへの接近を同時に行う。接近できた組が銃を奪いユースケを回収した後、収容所まで運ぶ。」

 ルビレの指示の下、 さっそく囚人達が準備を始める。次々と運ばれてくるトロッコにそれぞれ囚人達が割り振られ、そこにルビレが加わろうとしたので声を荒げる。

「あんたが行ったら、誰が囚人達を指揮するんだ!」

「他に方法は無い。召喚された勇者を、ここで死なせる訳にはいかない。」

「なっ!?」

 ルビレにそのことは一切伝えていない。鎧のことといい青極線のことといい、色々と詳しすぎる。こちらの疑念をルビレも察したのか、

「詳しい理由はこの戦いが終わってから話す。」

 返す言葉が見つからないでいると、声を荒げ反対していた囚人達がまたやって来た。

 これ以上話が拗れるのは不味い。銃に手をかけようとした矢先、先頭にいた囚人が言い放つ。

「爺さん。俺達にやらせてくれ。」

 ハッキリとした声で申し出た。

「死ぬぞ。」

 ルビレの警告に対して囚人達は、

「あんな子供が死ぬよりよっぽどマシさ。」

「子供が戦っているのに大人は震えてただけなんて、家族に知られたら笑われる。」

 先ほどまで罵倒していた連中が笑いながら皮肉を言うその変わり様に驚く。

(いや違う)

 その時ユーミカはハッキリと気付いた。ユースケの行動が自分を含めた全員の心を変えたのだと。

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