派遣勇者-SENT BRAVE-(11)
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<看守A>『襲撃者 可能性 アイッスル軍:70% 囚人:29% レジスタンス:1%』
<看守長>『アイッスル軍の可能性は0% 候補から除外して再計算せよ』
<看守B>『根拠の説明を要請』
<看守長>『上位者権限により要請を拒否 再計算せよ』
<<<看守A~E>>>
『実行者 囚人の可能性 99%
電磁パルス発生装置を使用した可能性 大
残存するドロイドでは反撃により全停止の可能性 大
地下の防御を固め 残存する飛行ドロイドを最寄りの第3駐屯地に派遣 部隊の出動を要s』
>>>看守長権限発動<<<
【看守A~Eを無期限凍結 全リソースを看守長に譲渡】
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看守達にシミュレートを行わせるが何度やっても同じ結論になり、埒が明かないと看守長は見切りをつけた。
確かに提言通りに軍の出動を要請すれば、この事態を即座に収拾することはできる。
しかし、問題なのはその後だ。異変に気付けず対処もできなかったとなれば、看守の存在意義が問われる。最悪、存在を抹消される可能性もあるのだが、看守にそこまで思案する能力は無い。
生き延びるためには収容所内で解決し、この襲撃自体をなかったことにするしかない。
奪った看守のリソースを使用し、看守長は再度シミュレートを開始した。
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<襲撃者は何者か?>
襲撃者は的確に全ドロイドとエレベーターを機能停止させており、巡回ルートや設備の配置について詳細な情報を持っている。
しかし、周辺一帯は電気結晶石の影響による通信妨害により、ドロイドの監視下では如何なる手段を用いても外部へ情報を伝えることは不可能である。これによりレジスタンスは候補から除外され、残った可能性は囚人となる。
<ドロイドやエレベーターを機能停止させた方法は?>
ドロイドの中枢は強固なボックス構造で防護されており、この部分が無事ならば通信は可能。
しかし、ドロイドは信号を送ることも出来ずに一瞬で停止しており、このことは外部ではなく内部への攻撃、電磁パルスの可能性が高いことを示している。
電磁パルスは電子機器に過剰な電流を流し、電子回路に損傷を与えて停止させるが、特徴として射程距離が装置の大きさに比例する。人間が携行できるサイズでは触れる距離まで接近する必要がある。だがドロイドの巡回ルートを知っている囚人ならばそれも可能だ。
機能停止したドロイドの位置と間隔から計算すると、装置と囚人は複数存在すると推測される。
<対処方法>
電磁パルス射程外からの遠距離攻撃による実行犯及びそれに追従する囚人達の抹殺
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シミュレートが終わり、時間を確認すると期限まで残り3分。未だ囚人達に動きは無い。
首謀者が出て来なければ他の囚人も処分すると通告したのは囚人達が巻き添えを恐れ、首謀者を突き出すことを狙った。人間心理について学習した私だからこそ発案できた完璧な作戦だ。
残り1分を切ったところで現れたのは4人。その内2人は袋で顔が覆われ、それぞれ腕を縄で縛られ、前を行く囚人に引っ張られている。
袋を被った囚人の片方は小型の装置らしきものを持っているが、そのサイズでは射程距離は僅か。厚い装甲で覆われたホバータンクでは効果が無い。
『そこで止まれ!首謀者を置いて他は自室へ戻れ。』
タンクから10mの位置で停止させるとカメラに恐怖で震える2人が映る。
「ピピッ」
レーダーが首輪の信号をキャッチし、情報が表示される。
=tag_no() {333 and 555}
=list(333) {死亡}
=list(555) {トヤハ・シャバコ}
おかしい。目の前の333番はデータベース上では死亡扱いになっている。首輪が誤作動でも起こしたのか?囚人についてのデータベースへアクセスする。
= history() {333}
= history(333) {32323/3/33 脱走を図ったため射殺。}
そうだ。333番は私の計画で、私が直接射殺した囚人。それが何故ここに?
どう対処すべきなのか処理が追いつかないでいると、死んだはずの333番が小型の装置を天にかざし叫んだ。
「トライッ チェンジッ!!」
一体何が起きている?理解不能の事態に《オーバーフロー》が発生する。
先ほどまでそこに居たのは確かにただの人間。それがほんの一瞬で青いパワードスーツを装着していた。
「ハァァァッ」
パワードスーツが雄叫びを上げ、すさまじい跳躍力でこちらに向かう。エンジンを急速稼働し、後退させるが間に合わない。
『メキィッッ』
金属を貫く音と衝撃が響き渡ったその一瞬、思考に空白が生じた。
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「成功だ。タンクに取り付いたぞ!」
ロムアがライフルのスコープに目を付けたまま叫ぶと、周りにいた囚人達が歓声を上げる。
「無茶な作戦を考えつくものだ。」
ユースケを引き渡すふりをしにタンクへと向かっていたルビレが戻って来るなりそう呟く。
ユースケから作戦を説明された時の囚人達の変化は凄まじかった。認識、敵意や猜疑心、そう言ったもの全てを塗り替えてしまった。
―5分前
「ルビレさん。確認なんですが、看守は襲撃犯がレジスタンスだとまだ分かっていないんですよね?」
「さっきの警告から判断すると、ドロイドを破壊した手際が良すぎたんで、襲撃者は収容所内部に詳しい囚人だと思い込んでいるようだ。」
ルビレの言葉にユースケは頷きつつ、
「僕が囚人のふりをしてタンクの前まで近づくことは可能ですか?」
「生身ならまだしも、さすがにパワードスーツが近づけば気付かれる。」
ルビレはトライブルーについて知らない。ユースケは通常、パワードスーツが容易に着脱できないことを知らない。認識の齟齬を解消するためにとユーミカが口を挟む。
「ユースケ、スーツを解除しろ。その方が話が早い。」
「あ!そうか、すみません。『トライ オフ』」
青い光と共にパワードスーツが一瞬で消え、中のユースケが現れる。
「まさかこれは・・・。」
ロムアはルビレがそう呟いたのを聞いた。周囲にいた囚人達は驚愕の表情を浮かべざわつく。
「なんだあのスーツは?」「一瞬で消えたぞ。」「新技術なのか?」
パワードスーツに対しざわつく囚人たち。しかし、ユースケの容姿に気が付くとその内容は別のモノへと変化していった。
「いくつなんだ?」「こんな幼い子供が戦っているのか・・・。」
ユースケは年齢以上に幼く見える。生まれた星が違うからなのか、童顔なだけなのか。事情を知らない囚人達には10歳程度の子供に見えた。
先程まで罵声を浴びせていた囚人達から既に怒りの感情は消え、悲しみや申し訳無さといった表情に変わった。
ある者にとっては国にいる子供と同じ位の年齢―、またある者にとっては自分の半分ほども生きていない―、そんな子供が自分達を助けるために戦っている。
「これならどうですか?」
「ああ・・・、だが信号を発する首輪が無い。近づく奴が囚人でないと気づかれるかもしれん。」
「あるよ。」
年老いた囚人が懐から首輪を取り出した。首輪には白い液体がこびりついており、異様な雰囲気を放っている。ユースケはそれを大事そうに両手で受け取ると、「これは?」と老人に尋ねる。
「同じ房だった奴の物だ。看守に脱走を煽られて、外に出たところを待ち伏せで殺された。次の日の朝、外で拾って形見にと持ってたんだ。」
囚人は涙ぐみながら続ける。
「仲間思いでいい奴だった。息子が危篤だって偽の手紙のせいで。一か八かに賭けて看守に殺されちまった。頼む、仇を取ってやってくれっ!!」
「わかりました。」
ユースケは涙ぐむ老人の手を握り、力強く頷いた。
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打倒看守に向けて一致団結する囚人達とユースケをロムアは眺めながら、ノア指令との会話を思い返す。
「作戦失敗後にわざわざ殺す必要があるのですか?」
彼が不要ならば今この場で殺してしまってもいい筈。そう思い質問すると、
「勇者として呼ばれたのです。戦わずして殺されるのは彼も不本意でしょう。」
ノア指令の説明に納得できず苦い顔をしていると、
「“力”無き勇者は必要ありません。必要なのは何者にも負けない、この戦争を終わらせることのできる“力”を持つ強き勇者なのです。」
我々レジスタンスも追い込まれており、ノア指令の考えが正しいとその時は思った。
しかし、囚人達の思いを1つにさせたユースケを目の当たりにした今、考えは変わりつつあった。
この戦争を終わらせるために本当に必要なものは“力”ではなく、その本当に必要な何かをユースケは持っているのかもしれない。
「俺にお前を撃たせないでくれよ。」
荒野の中を行くユースケの背中を見つめ、心の中で語り掛けた。




