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派遣勇者-SENT BRAVE-(9)

 収容所を監視する方法が何かないか考え、トライブルーのズーム機能を思い出し変身する。ヘッドパーツ内で映し出された景色に驚きの声を上げる。

「真夜中なのにハッキリと見えるのか」

 スーツが補正し日中と同程度の明るさで、さらに色が付いた景色が見えている。おかげで収容所の上空を巡回していた飛行ドローンを発見できた。

 さらに収容所全体を見渡すため、どれだけの高さまでジャンプする必要があるのかを計算しようとして三角関数の公式が頭をよぎる。この世界に来て既に5日間が過ぎた。ゴールデンウィークはとっくに終わり、学校も始まっている。このまま元の世界に帰ることができなければ、自分も失踪者の仲間入りだ。

「高く高く…。ハァッ!」

 焦る気持ち払拭するように限界まで思い切りジャンプする。飛び上がると上空から収容所全体を確認できた。収容所の周りは低いフェンスだけで、侵入自体は簡単そうだ。しかし、建物の間をドラム缶の様な形をしたドロイドが何機も巡回している。

 巡回しているドロイドの数は囚人達を守る上でかなり重要な情報だ。しかし、何度数えようとジャンプを繰り返してみるものの、上昇と落下を行う間にドロイドが移動してしまい、正確な数を把握できない。

「ハァ・・・」

 ぼんやりと収容所を眺めていると、突然一筋の青い光が現れた。光はこの位置から見て収容所施設の裏側から鉱山中腹に向かって一直線に伸びている。

 ズーム機能で鉱山の中腹の光の行き先を辿っていると、突然光が消えた。気付かれたのかと慌てたが数秒後に再び光が現れ、今度は点滅を始めた。再び光を辿って行き、終着点に辿り着く。その場所へ光が当たると円状に、まるで蛍の様に光が広がっていた。

 不思議なのはドロイドもあの光が見えているはずなのに、全く無反応・無関心な様子で黙々と巡回を続けていることだ。

(特に意味の無い光で、ドロイドも無視しているだけ?)

それならばドロイドの無反応ぶりも良く分かる。一方で別の考えも浮かぶ。

(囚人が何かを伝えようとしている?)

 直感でしかないが、光の点滅に何か意志のようなものを感じた。

 光についてしばらく考えてみたものの、自分一人だけではどうにも判断がつかない。やはりユーミカさんに意見を求めるべきなのか。

 しかし、あの光に何の意味も無く、単なる思い違いだった場合は自分への評価が落ちかねない。

 校長の言葉がふと頭をよぎった。

“聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥”

 そうだ。何を思い違いをしていたんだろう。例えどれだけ評価が落ちても、仲間として認められなくても、それで一人でも多くの囚人を解放できるのなら、それでいいじゃないか。

 あの光が囚人によるモノだとしたら、危険を冒してまで送った必死の合図のはず。絶対に無視すべきではない。

 決心してホバートラックのドアを開くとユーミカさんが座席から顔を覗かせ、

「どうした?交代の時間までまだ4時間以上もあるぞ。」

 やはり不機嫌そうな口調、だがもう言うしかない。

「収容所から光が出て、それが鉱山の中腹の一点を照らしているんです。何か意味があるのかもしれません。一緒に確認してもらえませんか?」

 何か考えているのか数秒間ほど黙り込む。拒否されるのかと心配したが、装備を整え始めた。何やら大きなケースを背中に担ぐユーミカさんを光の見えた位置まで案内すると、

「どこだ?」

 荒んでゆく口調に物怖じせず、

「左奥の建物で、こちらから見て背面側の窓から光が出ています。」

 そう伝えると背中の荷物から天体望遠鏡のような機械を取り出し、セッティングを始めた。恐らく自分に支給された暗視装置よりも高性能なのだろう。ダイヤルの細かな調節をしてから目をスコープにあてた。

「青い光が窓から鉱山に向かって伸びています。」

 こちらの掛け声には無反応のまましばらく操作をし、ポツリと言う。

「何も見ないが」

「え?」

 どういうことだ?

「一番左奥の棟の左端の建物からですよ?」

「鉱山と収容所の間に何も見えるものは無い。」

 どうして?光が消えてしまったのかと見てみるが、確かに光は出ている。

「俺が今から見張りをする。お前は休んでろ。」

「待って下さい!」

「疲れて錯覚でも見たんだろ」

 暗視装置を片付け始めるユーミカさんに追いすがる。

「今も見えています!!」

「仮に光が出てたとして、だから何なんだ?それが作戦に影響を与えるのか?」

 突き放すような言葉に言葉が詰まる。しかしここで引き下がる訳にはいかない。

「あなたが僕を信用していないのは分かります。別の世界から来た僕を。でもあの光はもしかするとあなたと同じ星、同じ国の人が、必死に何か伝えようとしているのかもしれない。このスーツ越しでは見えるのに、ドロイドや暗視装置に見えない光。きっと何か意味があるはずです。でも僕には知識も経験も無いからそれが分からない。これで収容所内の情報が得ることができればより多くの囚人を助けることができるはずです。お願いします。あなたの協力が必要なんです。」

 懇願するかのようにユーミカさんに訴えかける。

 この世界に呼ばれた勇者が自分の様な無力な子供でなければ、とっくにノアさんの願いを叶えていたはずだ。ならばせめて、無力な自分はなりふり構わずに協力を仰ぐべきだ。

 ユーミカさんが再び暗視装置を組み立て、

「わかった。しかし30分だけだ。それで何も情報が得られなければ、本来の作戦に戻る。もう一度見える光の特徴を言ってくれ。」

 そう言ってくれた彼の口調はこれまでで最も落ち着いて聞こえた。

「窓から鉱山の中腹に向かって、青い光が真っ直ぐ伸びています。山の表面で光が当たっている場所は光って見えます。」 

 鉱山中腹に装置を向けているユーミカさんが観察しながら口を開く。

「あの山では電晶石が採掘される。」

「電晶石?」

「電晶石は発電に使用される鉱石で、暗闇では緑色に発光する性質を持っている。鉱山の表面に幾つか光が見えるが、採掘されて地表に残った小さな電晶石が発光しているんだろう。」

 そう言われて山の中腹を見てみる。

「でも、僕には緑色の光は見えません。」

 昼間のような景色を見せてくれるこのスーツが、何故か暗視装置に見えている光は見えない。

 ひょっとすると・・・。

「電晶石の光は昼間も肉眼で見えますか?」

「いや。昼間は日光の方が強いからな。」

 トライブルーが昼間見える景色と同じモノを装着者に見せているのだとしたら?

「ユーミカさん。他とは何か異なって・・・、青く輝いている場所はありませんか?」

 装置の向きを変えながらしばらく探していたが、ある場所で動きが止まった。

「ある・・・。他とは違い青色で発光 している場所がある!!」

 青色の光に何か特別な意味があるのか。ユーミカさんは興奮しながら、

「そちらで見えている光と同じものか確認する。光が点いているときにだけツ―と言ってくれ。」

 指示通りにしばらく点滅に合わせて声を出していると、ユーミカさんが手を上げ、

「もういい。同じ光だ。」

 そう言うと懐から紙とペンを取り出し書き始めた。

「どうしたんですか?」

「ちょっと待て・・・。よし、説明する。」

 そう言うと紙を差しだしてきた。紙には黒い点と横線が幾つも書かれている。

「これは?」

「あの光の点滅を書き表すとこうなる。符号化方式の信号だ。」

「信号?」

「本来は電流のオン・オフの間隔で「長い」「短い」を表現し、それを文字に変換する通信方式だ。どうやら送り主はそれを光の点滅で行っている。」

「すごい。それで何と言ってるんですか?」

「“助けてくれ”と言っている。」

「やった!こちらから信号を送れば内部の情報を聞けるのでは?」

 大きく前進したと喜びの声を上げるが、ユーミカさんの表情は暗い。

「いや、それはできない。」

「どうしてですか?」

 ゆっくりと地面に座り込みながらため息、

「窓から出ている青い光は青極線だ。通常、採掘される電晶石は緑色なんだが、ごく稀に高純度の青い電晶石が採掘される。この青い電晶石に光を通すと、波長が増幅されて青極線と言う直進性の不可視光になる。その光は別の電晶石に到達すると青色に強く輝くため、大昔はこの青極線を用いて大陸間で情報を遣り取りしていたらしい。あまりにも昔の技術、しかも青い電晶石自体が貴重品なことから、現在の機械には青極線の感知機能は搭載されていない。送り主の囚人もそれを分かって使っているんだろう。」

「随分詳しいんですね。」

 そう言うとユーミカさんの口元が緩んだ。

「俺の親父はアシリマの技師だった。子供の頃に教わったがまさかこんな所で役に立つとはな。」

 「はぁ」と溜息を着くとユーミカさんは言葉を続ける。

「収容所から鉱山中腹の距離なら、送り主も電晶石の輝きは見えているだろう。もしここに青い電晶石があれば、それを光源に同じ要領でそこへ光を当て情報の交換が可能だ。」

 そこまで説明され、できない理由が分かった。

「しかし、さっきも言ったが青い電晶石は非常に貴重だ。そうそう手に入る代物じゃない。通信は諦めるしかない。」

 ユーミカさんと協力してここまで来たんだ。諦めきれず、何か他に手が無いか考える。

「大昔の技術・・・、青極線・・・。」

 そうだ、大昔に作られたトライブルーは青極線を感知する機能がある。それなら青極線を出す機能もあるのでは?トライガンを手に取り、銃口の周りを調べる。ロックオン機能があったということは、目標が射線上にいるか検出するために光が出ているのではなかろうか?

 トライガンを構え、電晶石の方へ狙いを向けると画面上に三角形の目印が現れる。銃を構え、目標を狙おうとすると現れるこの三角形の目印を点滅箇所に重ねる。

 するとユーミカさんから驚きの声が上がった。

「光っているぞ!しかもこれまでよりも強い光だっ!」

 トライガンから出ている光の方が強いのか、これまでよりも大きく光が広がっている。

「囚人の送り主も今の光に気づいたはずだ!」

 先ほどまで収容所から出ていた光が消えた。

「ユーミカさんはメッセージの文章を考えて下さい。銃の前を板で遮ることで光のONとOFFを示しましょう。」

「分かった、少し待て。その間にこの装置の上にその銃を固定しておいてくれ。」

 青極線が電晶石にあたるよう、トライガンを暗視装置上にテープで固定する。

「よし。まずは『囚人か?』で送る。」

 スコープを覗きながら装置の前を板で遮る動作を繰り返し、信号を送る。しばらく待つと、収容所側から再び光が現れた。

「返ってきたぞ!『はい』だ。よし、次は囚人の数について聞くぞ。」

 スーツのおかげで真夜中にも拘らずユーミカの笑みが良く見えた。

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