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異世界拷問  作者: よねり
第三章 リッサの鉄棺
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 地下の臭いはとれていなかったが、シャフトラは特に文句は言わなかった。場所を与えると、早速準備に取り掛かった。芥子の果汁は、フランクライヒにいたころと比べ物にならないほど簡単に手に入った。更にそれを乾燥させたものや、団子状にしたものまである。

 アロイスがフランクライヒにいた頃に、ヘロインの説明を簡単にした。より脳を侵す薬で、血液から脳に作用を阻害する機構を突破するもの、と説明した。厳密に言えば、ヘロインはモルヒネと違って、血液と脳脊髄液との間の物質交換を制限する機構を突破して脳を操作する。シナプス間での神経伝達を活性化するために、アセチル化する必要があるが、アロイスには化学の専門的な知識はなかった。そもそも、この世界での薬の精製は魔法によるものである。魔法によって物質の組成を操るのだ。そんなことが可能なら、人類の進化を促すことも出来るのではなかろうか。

 シャフトラは、その説明を元にヘロインのようなものを研究し続けていたらしい。この調子なら、メタンフェタミンやアンフェタミンなども簡単に精製できるのではないだろうか。ただ、あれを説明できるほど、アロイスは専門家ではなかった。ここでは元々阿片があったのでそこを出発点にすることでヘロインまでたどり着けたのだ。

 ヘロインとはヒーローになるための変身道具として、その名を与えられた。つまり、ヘロインは正義なのだ。

 ヘロインの試し打ちをしてみたかった。モルヒネのときは、被験者は燃えてしまったので、地上に出て誰かに打ってみたい。この国の人間なら、タダで配れば喜んで試すだろう。貧困と薬物は表裏一体である。薬物に溺れるよりも楽しいことが人生になければ、やらない理由はない。

 アロイスはおもむろに、注射器でヘロインを吸い込んだ。

「その手はなんだ? シャフトラ」

 注射器を持つ手を、シャフトラが掴んだ。

「まだ安全だと言い切れない」

 抑揚のない声で言う。

「構わん。離せ」

 アロイスが振りほどいた。その瞬間、注射器の中身が黒く濁った。目をこすって再び注射器を見ると、中身は元の通り澄んでいた。

「何をした?」

 アロイスが尋ねる。シャフトラはポカンとしていた。

「今、この注射器、黒く濁っただろう」

 グレーザにも尋ねてみたが、彼も見ていないと言った。気のせいだったのだろうか。

 アロイスはゴムチューブで腕を縛った。慣れた手つきで注射器の中身を血管に流し込む。

 脳にガツンとした衝撃が走った。輪郭がぼやける。視界はもちろん、意識や感覚がぼやけてゆく。自分と世界との境界が曖昧になってゆくような感覚。祖国で試したヘロインはもっと、這い寄るような気持ち悪さがあったが、これはそれ以上の爆発的な効き目である。目の前の事象のすべてが加速して見えた。

 無意識に笑っていたらしい。気がつくと、喉が痛いくらいの大声を出していた。それが笑っていたのか、叫んでいたのかはわからない。愉快な気分なので、笑っていたのだろう。

「さあ、始めよう」

 アロイスは高らかにそう言った。

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