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異世界拷問  作者: よねり
第三章 リッサの鉄棺
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30


「あなたは面白い人だ」

 建物のロビーで、アロイスとアジが死体を挟んで対峙していた。

 アジが死体を見下ろす。

「冗談など言っていない。これが犯人だ。満足だろう?」

 先程の女の死体を無造作に投げ出している。

「それを、ハイそうですかと真に受ける馬鹿だとお思いなんですね」

「そのとおりだ」

 アロイスがこともなげに言う。

「やはり、あなたは面白い」

 アジに煮え湯を飲まされたことを、アロイスはまだ根に持っていた。

「詳しいことはこの二人に聞け」

 シルムとマヌを示す。マヌが後ろ手に拘束されているのを見ても、アジは特に何も言わなかった。

「ここでお待ちください」

 アロイスも連行されるかと思ったが、ロビーの椅子で待たされることになった。椅子の周りに、衛兵が二人立つ。嫌な感じだ。

「これが終わったら国に帰りましょうよ」

 グレーザが言う。先程からしきりにメガネを直していた。緊張しているのだろうか。戦いのときとは違って、彼はこういうところは苦手らしい。

「堂々としていれば良い。我々にはまだやることがある」

「またそれだ……」

「それに、フランクライヒから研究者たちが来る手筈だろう」

「それだって、本当にくるかわかりませんよ。来たとしても、国に入れるかどうか……」

 来ないことを望んでいることは聞かなくてもわかった。

 どこかで扉の開閉する音が聞こえた。続いて足音。聞こえてくる足音の割りに、会話がない。

 姿を表したのは、マヌとシルムとアジだった。

「ずいぶん早いな」

 アロイスが言うとアジがニコリと微笑む。

「司令官は心の広い御方なので」

 その割には、マヌの顔色が悪いのが気になった。唇まで真っ青である。司令官に会う前までは、狂犬病の犬のような顔をしていたのに。

「今回は、あの女中が犯人ということで結構ですとのことなので、このままお帰りいただいて構いません」

 アジが気味が悪いくらい丁寧に頭を下げた。

 シルムを見ると、マヌのように蒼白ではないが、バツが悪いような顔で頭をかいている。

「どうした」

 シルムがなにか言いたそうにこちらを見ていたが、尋ねると顔を背けた。

「あ、そうだ」

 建物から出ようとすると、アジが後ろから声をかけてくる。

「薬のこと、期待していると司令官から言伝てがありました」

 結局の所、まだアロイスには利用価値があると思われたようだ。

 首の皮一枚でつながったというところだろうか。

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