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異世界拷問  作者: よねり
第三章 リッサの鉄棺
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15


 次の日、目を覚ますと家の外がざわついていた。人が走り回り、あちこちから怒号が聞こえる。家の中を覗き込んでいる輩もいた。

「何事だ、騒がしい」

 アロイスが言うと、グレーザが眼鏡をクイと押し上げた。

「どうやら、何か事件が起こったみたいですね。それも、殺人」

「やれやれ、またか」

 アロイスがため息をつく。フランクライヒでも同じような事があったことをグレーザに話すと、グレーザは面白そうに「さすが勇者様は違いますね」と言った。

「全く以て笑えない」

 アロイスが外へ出る。太ったモニトルと痩せたアジがやってくるところだった。それがまるで大鎌を持った死神のように見えた。

「やあやあ、アロイス殿。ちょっと来てもらえませんか」

 アジが言う。彼はとても親しみやすい人間だったので気付かなかったが、少し後ろを歩いているモニトルの様子を見ると、本当に偉い立場のようだ。モニトルが、昨日とは打って変わって居心地の悪そうな顔をしている。

「先に言っておくが、私の仕業ではないぞ」

 アジは面白そうに手を叩いた。

「話が早い。まあ、ここで立ち話をするのも難ですから、歩きながら話しましょう」

 あまり乗り気ではなかったが、こういう場合に拒否をすると立場が危うくなる。アロイスは諦めたようにため息をつくと、アジと並んで歩き始めた。その後ろからモニトルとグレーザがついてくる。無口なモニトルは気味が悪い。

「正直なところ、私も司令官も貴方を疑っているわけではないんです」

「なら……」

 アロイスが反論しようとしたところに、アジは指を立てて制した。

「でもね、よそ者がやってきた直後に国民が殺された。どう考えてみても、怪しいのは貴方ですよね。……ええ、わかっています。わかっていますとも。貴方はやっていない。でもね、我々の感情なんてのは関係ないんです。このまま貴方を野放しにしていたのでは、示しがつかない。国民に対する示しがね」

 彼は随分機嫌が良さそうに、ペラペラ喋った。まるでこの状況を楽しんでいるようだ。

 強い風が吹く。冷涼で乾燥した風が、切り裂くようにアロイスの肌をなでた。太陽はまだ昇り始めたばかりで、大地が冷え切っている。空には波のようにうろこ雲が浮かんでいた。

「貴殿のあの薬入りのお茶のせいで、こちらは大変な目に遭ったことを忘れていないぞ」

 思い出して怒りが湧いてきた。アジは意外そうな顔でアロイスを見詰めた。

「あれしきのことで……貴方のような方がへばるわけはないと思いましてね。申し訳ありません。おもてなしのつもりだったのですが。お酒の方が良かったですか」

 悪戯っぽい顔で笑う。悪意しか感じない。この男は、初対面の印象とはまるで違う。

 悪意だ。彼がクスリではなく酒だと言ったことも、悪意だ。元をたどれば、酒も薬も同じだ。どちらも神経を冒して快楽を得るためのツールである。こちらの精神を冒すぞという圧力なのである。

 甘く見られたことが気に入らなかった。

「結構。最初からそうだとわかっていれば、問題ない」

 売られた喧嘩は買ってやる。ぎゃふんと言わせてやる。

 心なしか足早になっていることに、アロイスは気付いていなかった。

「私は犯人ではない」

 司令官の前に出ると、アロイスは再び言った。司令官は感情のこもらない表情で、両脇に立っている男達に目配せをした。すると、男の片方が腰に差していた刀を抜く。もう片方の男が、アロイスを押さえた。

 振り返ってアジを見ると、気まずそうな顔で笑っている。彼は知っていたのだろう、司令官がアロイスを殺すことを。その首を国民の前に晒すことで、溜飲を下げようということも。

 グレーザがアロイスに駆け寄ろうと体を動かした瞬間、アジがグレーザを押し倒した。ただもつれただけのように見えたが、アジはグレーザを少しも身動きできないように取り押さえていた。腐ってもゲリラ国家のナンバー2ということか。

「貴方まで死ぬ必要はないんですよ。貴方には、彼の胴体を国に持って帰って貰う使命があるんですから」

 アジはさすが副司令官というだけあり、グレーザを完全に支配していた。完全に関節を決められていて動けない様子だ。グレーザが悔しさで顔を真っ赤にしている。

「待て、私を殺しても事件は解決しないぞ」

 アロイスの進言に、司令官は少しも表情を動かさない。

 ピタリ、とアロイスの首に刀の刃が当たった。

「解決するかしないかなんて、関係ないんですよ〜。犯人らしき人が捕まって、それらしい罰を与えられたという事実が大切なんです」

 アジが歌うように言う。

「私を殺したら後悔するぞ。私なら、今以上に品質の良い薬を作れる。みすみす逃すことになるぞ」

 男は刀を振り上げた。

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