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消火活動が功を奏して、村の騒動は収まった。結局、あれが何なのかはわからなかった。こうなったら司令官に直接聞いてみるしかない。
「それで、これからどうするつもりですか」
グレーザが尋ねる。彼が考えていたような最悪の事態だけは回避できたことで、少し安心した。
「今からの話か、それとも今後の展望か」
「今後の展望です」
「話を聞いていなかったのか。よりよい薬を作るのだ」
アロイスはグレーザを見て「そうだ」と手を打った。グレーザは嫌な予感がした。
「フランクライヒの錬金術師……魔法使いを呼んでこよう」
「場所を言ったら誰も来ないと思いますよ」
「なぜだ」
自分だって話を聞いていないじゃあないか、とグレーザはため息をついた。
アロイスがあんまり騒ぐので、グレーザはフランクライヒ王に手紙を出した。フランクライヒにはそのうちつくだろう。この国の郵便制度がどうなっているか知らないが、届かないということはないだろう。
村の中を見てくる、と言うとグレーザはアロイスを止めた。監視もどこかへ行ってしまったし、生きて帰れる保証はない。それでも、アロイスはお構いなしに外へ出て行った。
改めてみると、家々はそれぞれ種類が微妙に違うことに気付く。高床の家が多く、窓のない、土壁の家もある。高床の理由は家の下に牛や家畜を入れておくためと、ネズミが入ってこないようにだろう。土壁の家は、おそらく芥子百姓ではないのだろう。
建築技術がつたないからだろうか。今まで見てきたランドやスターテン、フランクライヒは文明が遅れていながらも、この世界独自の進化を感じたが、この国は違う。まさに土人だ。何の文明も感じない。いや、文明を拒否しているようにさえ感じる。下層階級の村人が知恵をつけないように、いつまでも彼らが奴隷でいるように、上層階級の人間がコントロールしているのだ。これはどこの国にも見られることだ。余計な知恵をつけた人間は操りづらい。
司令官のいた中央司令部の建物に戻ってくると、最初は粗末な掘っ立て小屋に見えていたその建物が良い建物に見えてくるのだから不思議なものである。
司令官の姿はなかったが、先程はいなかった、司令官補佐と名乗るニコニコした男が出迎えてくれた。この男は、司令官とは真逆の男で、表情もほがらでよくしゃべる男だった。国の外のことを知りたいらしく、フランクライヒのことやランドのことを話してやるととても喜んだ。得意になって話している内に、災害のことはすっかり忘れてしまった。話しているうちに窓から入ってくる光が少なくなった。夜が近づいているのだ。
「ここには魔法があるのか」
村の中には、魔法具の類いは見当たらなかったが、この司令部には魔法を使った照明器具があった。
「司令官のご加護です」
「やつは魔法使いなのか」
彼はニコニコと笑ったまま答えなかった。
司令官補佐の名前はアジと言った。アジは上機嫌になると、生アヘンを見せてやるといって、どこかへいった。戻ってきたときには、手に粘土の塊のようなものを持っていた。
「これはなんだ」
アロイスは思わずそう尋ねた。彼が知っている阿片とは程遠い姿だった。思えば、芥子坊主と呼ばれる芥子の果実から果汁を取るところを見たことがあるが、それから麻薬になるまでの工程に興味を持ったことがなかった。モルヒネの精製についても任せっぱなしだった。果汁を集めておくと、黒色のタールのようなものになることは知っていた。それを集めたものが生アヘンなのだが、こんなふうに実際に手に持つのは初めてだった。
「臭いな」
アロイスは顔を歪めた。その顔を見て、アジは笑った。臭がるのを見てみたかったらしい。彼の思い通りになったようだ。しかし、不快ではなかった。彼が笑うのに同調してアロイスも笑った。
生アヘンを手放したあとも、しばらく手が臭かった。ここは衛生環境がお世辞にも良いとは言えない場所である。まるで村全体が刑務所の中のようだ。手を洗いたいときに気軽に洗えないのはうんざりしたが、戦場を思えばまだ我慢できた。
それからアジは生臭いお茶を勧めてきた。不思議なお茶だった。とてつもなくまずいが、何故か癖になる味だった。飲んでいる内に、酒とは違う気持ちよさが脳を支配した。
その臭いが、今、散々くさいと言った阿片団子だということに、アロイスは気づいていなかった。




