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スターテンと比べて、チナ国はアロイスの姿を見ると銃を構えて近付いてきた。手形を見せると、銃を持った兵がチョーソンとの国境まで送ると申し出てきた。監視のつもりだろう。アロイスはあえて断りはしなかった。チナ国の監視がお供についてからは、チナ国兵に出会っても穏やかにやり過ごすことができた。常に背後から撃たれる緊張感があったが、それを差し引いてもマシだ。
国境に至る頃には、彼らと仲良くなった――とアロイスは思う。断言できないのは、彼らの国民性にあった。あの戦争で、彼らの狡猾さは否という程感じられた。同盟国をあんなに簡単に切り捨てる判断が出来る、というのはいつでも隣人が殺人鬼に化ける可能性があると言うことだ。
チョーソンに入国しようとしたとき、そこでアロイスの誤算は起こった。チョーソンはチナ国ほどアロイスに寛容ではなかった。手形を見せても追い払われたのだ。ご丁寧に威嚇射撃までされたので、アロイスはスゴスゴと回れ右した。
どうしたものかとチナ国とチョーソンの国境付近をウロウロしていると、なにか大きな石造りの建物が見えた。無骨な建物は、どうやら大きな門のようだった。国境のようなものだろうか。ただ、この世界には国境という概念があまりない。ビザも無ければパスポートもない。アロイスがスターテンからフランクライヒにすんなに入り込めたのがその証拠だ。もっとも、あのときは道化が手を回していたのかもしれない。
それだというのに――アロイスは馬の足を止め、遠くから眺めた。何やら物々しい装備の兵士が、門の前で険しい顔をしている。これはなにかあると思った。
「あそこはなんだ」
尋ねると、グレーザは露骨に面倒臭そうな顔をした。
「あれはビグマという国へ入る門です」と答えたあと、「間違っても、行きたいなんて言わないでくださいよ。あそこは……」と言うグレーザの言葉をアロイスは遮った。
「行ってみよう」
グレーザが言うのを遮るようにアロイスは言った。
「そう言われると思いました」
グレーザは頭を抱えてため息をついた。
「僕は嫌ですよ。それに、行きたいからって通れるところじゃありませんよ。なんたって、あそこはこの世の悪意を凝縮したような国なんですから」
「それは良い。早速行こう」
ふと、視線を感じた。殺気のようなものまで感じる。あたりを見渡してみても、人の姿はない。遠くの山の中腹で、何か光ったような気がした。
馬を進めるアロイスに、グレーザが慌ててついてくる。
「もう、聞いているんですか? 忠告しましたからね。知りませんよ、どうなったって」
グレーザが何か言っていたが、アロイスの耳には届いていなかった。




