33 第二章 了
「国って言うのは、どこも同じようなものですね」
グレーザが食卓からブドウを一粒つまんだ。
「ランドもスターテンも、フランクライヒも狂っている」
「狂っていないと、国の頂点なんかにいられないということだ。その点、私は真人間だから向いていなかった」
グレーザはブドウが気に入ったのか、どんどん食べ進んだ。
「ごきげんよう、諸君。終戦が決まりましたよ」
王が満面の笑みで食卓に着く。
「この規模の戦にしては、被害は軽微だったと言えるでしょう。全く以て、貴方のおかげです」
実際は、随分人が死んだと聞いていた。あのとき戦場にいた兵士も、敵味方の区別なく消滅したのだ。それを、軽微と評する彼は、やはり狂っている。彼もこちら側の人間であることは間違いない。
「では、敵国が降伏したのだな?」
王が頷く。
「チナ国が、あれはスターテンが企てたことで、自分たちは被害者だと申し出てきた。さすがに、あれほどの兵を一瞬で失ってしまったのですから。チナ国が手のひらを返したとしても不思議はないですね」
「条件は?」
「今後、チナ国はフランクライヒがスターテンに戦を仕掛けても、スターテンには手をかさないということらしいです。それと……」
王は少し間を置いて、再び話し出した。
「女王ですが、貴方が復讐したいかなと思って、スターテンに差し出すように打診したんですが、拒否されました」
「そうだろうな。あの牝狐がみすみす捕まるとは思えない」
「おや、残念ではないのですか?」
「良いのだ。獲物はじっくり追うタイプなのでね」
王が笑みを浮かべる。
「彼は何者ですか」
王がグレーザを顎で示す。
「今まで何も言わないので、とっくに知っていると思っていたが。まあいい、彼は私がこの世界で最も信頼する人間だ」
「なるほど。でも、彼も貴方を裏切るかもしれませんよ」
アロイスは笑う。
「ふん、そのときはそのときだ。私の見る目がなかったと思って諦めるさ」
「強いですね。僕なんて、今でもショックを引きずっていますよ」
「そうは見えないが……まあいい。なにせ、一度死んだ身だからな」
マリアが食卓にやってくる。このところ、マリアはほとんど口を開かなかったが、今日は様子が違った。
「おや、貴殿は聖母になったのかね、聖母マリアよ」
彼女が連れていたのは、あの荷車を引いていた少年だった。
「彼女が面倒を見たいと申し出たので」
子供はあのときと同じ、暗い瞳のままだった。彼女が救いになれば良いとアロイスは思った。
「その子供には、名前はあるのか?」
「……よ」
マリアが言う。
「なんだって? もう一度言ってくれないか」
「この子の名前は、シドよ」
マリアがそう言って微笑む。
アロイスは彼女の笑みを見てぞっとした。彼女はとっくに壊れていたのだ。
第二章 了




