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異世界拷問  作者: よねり
第二章 ファラリスの雄牛
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27




「貴殿の読み通りだったな」

 城から外を見ながらアロイスが言う。町を囲む外壁の外で、派手に爆発が起きている。スターテンが攻め込んできたのだ。しかも、スターテンだけではなく、チナ国も同時に攻めてきている。

「そんな読みは当たらないで欲しかったけれど」

 王が剣を素振りしながら言う。彼なりの精神統一らしい。

 この戦が始まる前、スターテンとチナ国の使者が城へやってきた。和平交渉という名の降伏勧告だ。スターテンからは、神官長が来ていた。彼の姿を見た瞬間、アロイスは彼を殺そうかと思ったが、王に止められた。

「あの牝狐は、私がここにいると知って、貴殿を送り込んできたのだろう。貴殿ならば殺されないとでも思ったか」

 神官長は、いつも通り落ち着いた様子で、ジッとアロイスを見据えた。

「私など、ただの使い捨ての駒に過ぎません。私が死んでも、新しい神官長にすげ変わるだけ。あの方の前では、命は何よりも軽いのです」

 同情を得ようとしている風には感じなかった。彼の言っていることは事実だろう。あの女からは、一切の邪悪しか感じない。

「だから、あの薬を国に置いておくわけにはゆかなかった」

 なるほど、アロイスが国を出るときに薬を私のはそういう理由だったか、と納得した。あの女がこの薬の存在を知れば、どう使うかなど容易に想像できた。

「貴殿は、モルヒネが魔力を増幅することを知っていたのか」

 神官長は頷く。

「どの程度の純度までなら、人が堪えうるか試験していたときに発見しました。このことは、スターテンで知るのは私だけでしょう。女王もまだお気づきでないはず」

「貴殿は気の利く男だ。だからこそ失うのは惜しい」

 世辞ではなかった。彼の能力は認めていた。

「それはもったいないお言葉。ただ、もしこの戦で我が国が滅ぶなら……」

「貴殿は、自国が負けると考えているのか?」

 神官長は少し考えるような間のあと、再び口を開く。

「もし、この戦で我が国が滅ぶなら、この身も同じ。私の命はスターテンとともにあるのです」

 何かを悟ったような表情をしていた。

「ヒッヒ、スターテンは随分弱気ですな。この戦で、我々が負けることなどありますまいよ」

 それまで黙って隣で話を聞いていた、チナ国の使者が笑う。彼は神官長よりもさらに年寄りで、小さかった。彼を見た時、豆が歩いてきたと思った。

「フランクライヒがこの戦に勝つことは、大地がひっくり返ってもあり得ますまい。素直に降伏すれば、流す血を少なく出来るというもの。賢王よ、決断のときですぞ」

 王は玉座に座り、目を閉じて話を聞いている。

「さあ、降伏を。この書類に降伏の条件が書いてありますぞ」

 チナ国の使者が懐から紙を取り出す。王は目を開け、玉座から降りると、チナ国の使者に近付いた。使者から紙を受け取ると、一度アロイスに視線を向け、それを破いた。

「な、何をなさる……」

 慌てて破かれた書類を拾おうとする使者を王が見下ろす。

「アハハ」

 甲高い笑い声とともに現れたのは、ジャンヌダルクだった。

「おい、今は……」

 文句を言おうとして、アロイスは黙った。彼女が体躯に似合わないほどの大剣を引きずっていたから。彼女は笑ったまま近付いてくると、ゆっくりと大剣を掲げ、一気に振り下ろした。

 書類を拾うのに夢中になっていたチナ国の使者は、おそらく自身も気付いていない間に綺麗に首と胴体とが真っ二つになった。首と胴体が離れても、数秒は心臓が動いている。大動脈から血が噴き出し、床を汚した。思いも寄らぬ事で、アロイスは目を剥いた。

 使者の返り血が、神官長の頬にはねた。神官長はそれでも取り乱さず、袖口で血を拭き取る。

「開戦か。そうなるだろうと思っていましたよ」

 神官が静かに言う。

 王は無表情で、チナ国の使者の死体を見下ろしていた。もう、心臓は止まっており、血が噴き出すこともなかったが、王の靴も、アロイスの靴も血で汚れた。

 ジャンヌダルクの笑い声が響く中、アロイスは、道化が言ったことを思い出していた。


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