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「オルレアンの乙女よ」
ジャンヌダルクが城の廊下を歩いているところを、アロイスが呼び止めた。ジャンヌダルクが振り返る。長い髪の毛が、さらりと揺れた。甘い香りがする。
「ここ数日、特に昨夜はどこにいた?」
ジャンヌダルクは顔を紅潮させてアロイスを見詰めた。彼女が黙っているので、アロイスはイライラして彼女を壁に叩き付けた。
「貴様は痛みがないとなにも喋れないのか。阿片中毒者め」
ジャンヌダルクは嬉しそうに笑って、アロイスの顔を舐めた。不意を突かれたアロイスは彼女から離れる。
「何をしているんですか」
王が現れた。
「いや、何、ここ最近、彼女を城で見かけなかったのでね。特に昨日の夜は事件が起こった。そのとき何をしていたのかと思って尋ねていたのだ」
アロイスは彼女に舐められた箇所をゴシゴシこすった。
「彼女なら大丈夫。僕と一緒にいました」
「ほう、貴殿と?」
「そうです。だから、彼女を疑う必要はありません」
そう言うと、王はジャンヌダルクの肩に手をかけ、彼女とともに歩いて行った。
「昨日、王は私と一緒にいましたよ」
アロイスの耳元で道化の声が聞こえた。驚いて後ずさると、後ろにいた道化にぶつかる。
「驚かすのはやめろと言っているだろう」
「失礼。王は昨日、遅くまで私と一緒にいました。、まあ、そのあと彼女と会ったのかもしれませんがね。彼女を疑っているんですか?」
道化はキシシと悪戯っぽく笑う。
「別に、最近あの女の姿を見ていなかっただけだ。それより、王が私を偽ったと?」
「いえいえ、私はそんな不敬は申しません。ただ、事実を知っていただいた方が良いかなと思っただけです。それと……」
道化は唇に指を当てる。
「どうも、ネズミが紛れ込んでいるみたいですね。私にも正体はわかりませんが」
「そうか。それは手強い相手だな」
外で虫が鳴いている。音もなく、炎が燃えるように光の魔法が灯りをともしている。アロイスと道化は視線を交錯した。先に視線を外したのは道化の方だった。
「最近はどこも物騒ですので。お気をつけください」
わざとらしい足音を踏みならし、道化は消えた。
「気をつけるのはどちらだろうな」
アロイスが呟いた。




