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古い馬小屋だった。今は物置として放置された場所である。
道化はそれが何かわからなかった。
いや、何をモチーフにしたものなのかはわかったが、何に使うものなのかがわからない。
「これは……牛?」
牛だった。金属の牛。
「これは、ファラリスの雄牛という拷問装置だ。真鍮で出来ているんだが、これをうまく作れる鍛冶屋を探すのに骨が折れた」
アロイスが金属の牛に手を当てて、うっとりと眺める。道化も同じように、牛を撫でてみた。本物の牛とは似ても似つかぬ手触りの、ツルツルとした牛は、厳めしい顔で前を向いている。
「これは、何をするものなんですか?」
道化が尋ねると、アロイスは楽しそうに雄牛の背中を指さした。
「そこに扉があるだろう?」
都合良く昇降台が置かれており、それに上って道化は覗き込む。扉の中は空洞になっていた。
「奥に管が見えるだろう?」
アロイスに言われるままに覗き込んだとき、道化は後ろから強く押された。その弾みで中に入ってしまう。慌てて体勢を直したときには、自分が転がり込んだ扉が閉められる音がした。
「アロイス様? 冗談はやめてください」
緊張した声で道化が言う。
外からは何の反応もない。扉を押してみるが、ビクともしない。ただ狭い空洞の中を、うつ伏せになったり仰向けになったりしながら手で探ってみると、何か丸いものがあった。これが、アロイスの言っていた管に違いない。そこから、わずかに風を感じる。
どこかで、鍵の開く音がした。
「どうだね、居心地は」
扉を開けて、アロイスが顔を覗かせた。道化は心底ほっとして、水槽から出された亀のように這って扉に戻った。
「殺されるかと思いました」
アロイスが大声で笑った。
「そうだとも、これは殺すための道具なのだから」
アロイスを押しのけるようにして、道化はファラリスの雄牛から転がり落ちた。
「貴方は酷い人だ」
道化は荒い息でアロイスを非難した。そんな道化を、おかしくて仕方ないという顔でアロイスは見下ろしてた。
「この装置を作った男は、貴殿と同じように騙されてここに閉じ込められたのだ」
「それは恐ろしかったでしょうね」
「恐ろしいなんてものじゃないはずだ。なぜなら、これをどのように使うか、その鍛冶屋はいやというほど知っていたのだからな」
「その鍛冶屋はどうなったんですか?」
アロイスはニヤリと笑った。
「もちろん、自分の作品の一部となったよ」




