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異世界拷問  作者: よねり
第二章 ファラリスの雄牛
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23


 古い馬小屋だった。今は物置として放置された場所である。

 道化はそれが何かわからなかった。

 いや、何をモチーフにしたものなのかはわかったが、何に使うものなのかがわからない。

「これは……牛?」

 牛だった。金属の牛。

「これは、ファラリスの雄牛という拷問装置だ。真鍮で出来ているんだが、これをうまく作れる鍛冶屋を探すのに骨が折れた」

 アロイスが金属の牛に手を当てて、うっとりと眺める。道化も同じように、牛を撫でてみた。本物の牛とは似ても似つかぬ手触りの、ツルツルとした牛は、厳めしい顔で前を向いている。

「これは、何をするものなんですか?」

 道化が尋ねると、アロイスは楽しそうに雄牛の背中を指さした。

「そこに扉があるだろう?」

 都合良く昇降台が置かれており、それに上って道化は覗き込む。扉の中は空洞になっていた。

「奥に管が見えるだろう?」

 アロイスに言われるままに覗き込んだとき、道化は後ろから強く押された。その弾みで中に入ってしまう。慌てて体勢を直したときには、自分が転がり込んだ扉が閉められる音がした。

「アロイス様? 冗談はやめてください」

 緊張した声で道化が言う。

 外からは何の反応もない。扉を押してみるが、ビクともしない。ただ狭い空洞の中を、うつ伏せになったり仰向けになったりしながら手で探ってみると、何か丸いものがあった。これが、アロイスの言っていた管に違いない。そこから、わずかに風を感じる。

 どこかで、鍵の開く音がした。

「どうだね、居心地は」

 扉を開けて、アロイスが顔を覗かせた。道化は心底ほっとして、水槽から出された亀のように這って扉に戻った。

「殺されるかと思いました」

 アロイスが大声で笑った。

「そうだとも、これは殺すための道具なのだから」

 アロイスを押しのけるようにして、道化はファラリスの雄牛から転がり落ちた。

「貴方は酷い人だ」

 道化は荒い息でアロイスを非難した。そんな道化を、おかしくて仕方ないという顔でアロイスは見下ろしてた。

「この装置を作った男は、貴殿と同じように騙されてここに閉じ込められたのだ」

「それは恐ろしかったでしょうね」

「恐ろしいなんてものじゃないはずだ。なぜなら、これをどのように使うか、その鍛冶屋はいやというほど知っていたのだからな」

「その鍛冶屋はどうなったんですか?」

 アロイスはニヤリと笑った。

「もちろん、自分の作品の一部となったよ」


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