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アロイスは城の一室を与えられていた。ものはすべて神経質に整えられておかれていた。とはいえ、彼の持ち物は極めて少なかった。だから、どこにも人が隠れる場所などないと気が緩んでいた。
「お久しぶりです、アロイスさん」
部屋に入り、椅子に座った瞬間だった。全く意識していなかった空間から声がした。アロイスは驚いて椅子から落ちそうになった。
「少年」
グレーザだった。いがぐり頭と丸眼鏡は、ランドで別れたときのままである。それに、アロイスがデザインした軍服を着ている。タイムスリップでもしたのかと思った。
「この世界のものは、私を驚かすのがうまいな」
アロイスは笑った。グレーザは相変わらず無表情で、眼鏡の奥から鋭い目を向けている。
「一体、今までどこにいた。どうやって、私がここにいるとわかった」
「時間がありません。要件だけ言います。あの道化を信用しないでください。あなたと王は騙されている」
アロイスの眉間に皺が寄る。
「何だと?」
「それに、僕とここで会ったことも内密に」
そういうと、グレーザはアロイスに背を向けて出入り口へ向かう。
「待て、どういうことだ」
グレーザが取っ手に触れると、音もなく扉が開いた。
「用心してください。僕はまだ、貴方に死んで欲しくない」
グレーザが扉の先に消えたあと、慌てて扉を開けたが、すでに彼の姿はなかった。




