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異世界拷問  作者: よねり
第二章 ファラリスの雄牛
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「一つ、知っておいて貰いたいことがあります」

 王が指を立てた。

「魔法は、誰にでも使えるものではないのです」

「才能のようなものがあるのか」

「その通り」

 王が指を鳴らす。

「だろうな。そうでなければ、私はスターテンと戦ったときにすでに死んでいたはずだ」

「彼らは魔法を毛嫌いしている。才能より努力が好き、というが、我々から見たら、魔法の才能のないもの同士が肩を寄せ合って作った国」

「愚かしい」

 神官長を思い出す。彼はただ者ではない雰囲気を持っていたが、知力がありこそすれ、魔法力には乏しかったのかもしれない。試作のモルヒネで死んだ若い神官も、魔法力がないから死んでしまったのか、と今なら考えられる。

「その通り。才能こそ神からの贈り物です。その贈り物を世界で一番授かっているのが、この国なのです」

 王が両腕を広げる。

「優れた民族というわけか」

 王が再び指を鳴らす。癖なのだろうか。

「その通り。よくわかっている」

「優れた血は残さねばならん。汚れた血は絶やさねばならん。それはどこでも同じだ」

 王が深く頷き「宮廷魔道士を紹介しよう」と手で合図をする。

「テストだ」

 宮廷魔道士と呼ばれた男は、スターテンにいた神官長に似た服を着ていた。呼び名が違うだけで、組織としては同じようなものなのだろう。こちらの国は、魔法に関してスターテンよりも組織が大きいのだ。スターテンは神官をピラミッドの頂点とした教会による祈りが中心だった。神官長ですら、手品程度の魔法しか使えないと言っていた。その分、研究熱心ではあった。アロイスがモルヒネを作りたいと言ったときも、進んで協力してくれた。

 宮廷魔道士がトレイにコップと水差しを入れて持ってきた。彼の説明では、これに手をかざすだけで適性がわかるという。

 コップと水差しが机に置かれる。

「もう一度言いますが、これは才能です。貴方に才能がなかったとしても落ち込むことはありません」

 アロイスは答えず、目だけを王に向け、再びコップに目を落とす。

 まず、宮廷魔道士がコップに水を注ぐ。その上に手をかざすと、水面につららのようなものが生えた。

「これは、水を変化させる魔法です。このほかに、水が蒸発する炎の適正や、水面を波立たせる風の適正、水が光る光の適正などがあります」

 宮廷魔道士がてをどけると、つららはまるで我に返ったようにコップの中へ飛び込む。

 アロイスが腕まくりをしてコップの上に手をかざした。

 水は何の変化もしない。

「なにか、呪文のようなものでも言ってみたらどうですか?」

 道化が後ろから茶化すように言う。アロイスは彼を無視した。

 アロイスの手に力が入る。小刻みに手が揺れるが、対照的に水面は全く変化がない。

 ふう、と王がため息をついた。

「まあ、何度も言いますが、これは才能ですので。それに、貴方は異世界から来た身であるし、この世界の魔法とは相性が悪いのかもしれない」

 慰めるように言われるのが少し癪に障った。

 アロイスは手をかざすのをやめ、目をつぶった。瞬きもせず睨んでいたので目頭を軽くもむと気持ちが良かった。

「あっ」

 宮廷魔道士の声に目を開くと、水が濁っていた。目の錯覚かと思ったが、見ているうちにだんだん黒く濁ってくるのがわかった。

「なんだこれは……」

 王の顔から笑顔が消えた。不快そうに顔を歪める。

「私も、こんなのは初めて見ましたよ」

 宮廷魔道士も気味悪そうにそれを見詰めた。

 しばらく見詰めていると、水の濁りは徐々に薄くなって、透明に戻った。

「これは何かの才能があったと言うことだろうか」

 アロイスが言ってみるが、誰も答えない。

「とりあえず、それは宮廷魔道士が調べます。頼んだぞ」

 王が言うと、宮廷魔道士が慌てて頷いた。

「戻って文献を調べてみます」

 宮廷魔道士はコップと水差しを持って出て行った。

「意外性を持つ方だ」

 王がニヤリと笑う。

 アロイスは複雑な表情をしたが、内心では喜んでいた。何かしらの才能はある。それが拷問に役立てば良いなと思った。


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