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異世界拷問  作者: よねり
第二章 ファラリスの雄牛
38/104

12

 

 アロイスが捕虜達を解放した次の日の早朝、スターテンからの特使がフランクライヒにやってきた。

 そのことを報告にやってきた道化は、アロイスが牢の硬い寝台で熟睡しているのを見て驚いた。

「よくこんなときに眠っていられますね」

 報告に来た道化も寝間着姿だったことに、アロイスは特段何も言わなかった。

「あれからどれくらい経った? ――一晩か、よく保った方ではないか。特使に褒美の飴玉でも持たせてやれ」

「まだ何も言ってないのに、よく内容がわかりますね」

「当たり前だ。一体どれだけこの仕事をしていると思っている。私が贈り物をして、音を上げなかったことなど一度もない」

 アロイスが大あくびをしながら起き上がる。久しぶりに、よく眠れた。やはり拷問は良い。

「王がお待ちです」

 道化が牢の扉を開ける。

「出すなら戻さなければ良いものを」

「そうは行きませんよ」

 この世界に召喚されてから、なんだか体が軽く感じでいた。元の世界では老体扱いされていたのに、こちらの世界ではまるで若者に戻ったように動きが軽い。重力が違うのだろうか。そうなると、重力加速度も違うから、機械の設計値もかえてゆかねばらならない――などと考えながら歩いていたせいだろうか、前に人が立っているのを認識するのが遅れた。認識能力はやはり老体のままである。

「おや、無事だったか」

 マリアだった。いつも通り、覚めた目をしてアロイスを見る。

「貴方という人は、どこへ行っても人を痛めつけることばかりしか考えていないのね」

 アロイスは突然、はじけたように笑い出した。道化もマリアも驚いて、笑い転げているアロイスを見下ろす。

 しばらく笑ったあと、腹筋が引きつるような痛みを覚えながら体を起こす。口の端からよだれが垂れていた。

「この私をこんなに笑わせられるのは、この世界では君だけだろう。この国に来てから楽しい気分だな」

 アロイスがマリアに向き直る。

「そうだとも。君が食事をし、用を足し、男とまぐわうように、私にとっては拷問こそが生きる活力なのだ。わかるかね、私の血液の一滴一滴は、世の中の人間に救いを与えるために、私の体を流れているのだ」

「救い?」

 マリアが露骨に嫌な顔をする。

「そうだ。私はなにも、人が憎くてやっているのではない。彼らの中に流れる汚れた血を浄化してやっているのだ。そうすることで、極楽浄土へゆけて、次こそはゲルマン民族として生まれ変わることが出来る」

「言っていることがわからないわ」

「わからなくたって良い」

 アロイスは口元をグイと拭うと、マリアの肩をぽんと叩いた。

「王の間はどこだ」

 足早に彼らは歩いて行く。

 その場に残されたマリアは、アロイスに触れられた場所をハンカチで何度も、何度もこすり続けた。

 こすりすぎて皮膚が破れて出血してもやめなかった。

 偶然通りかかったメイドに止められるまでずっと。


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