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「あの女は何者だ」
城から出ると、アロイスは再び怒りがぶり返してきた。道化がアロイスの背中をさすろうとするのを振り払う。
「彼女は、この国の正当な王です」
「どういう意味だ」
「この国は女王制なのです。貴方が攻め込んだときにいたあの男は、女王の留守を預かっただけの男。王ではなく、王配です」
それを聞き、アロイスは体中の力が抜けたように感じた。
「つまり私は、王気取りの馬鹿者だったというわけか」
「そうなりますね」
嬉しそうな顔で道化が頷く。
「なぜ、誰もそのことを言わなかったのだ」
「貴方のことが怖かったのでしょう。他の国が攻め入ってこなかったのも、女王の行方が確かめられなかったからです」
うまく行き過ぎているような気がしていた。やつらは、従うように見せて、あざ笑っていたのだ。張りぼての王である私を――。
「気を落とし召されるな。命があっただけでも儲けもの。また新しい場所でのし上がれば良いのです」
「貴殿はどうして、私についてくるのだ。私はもう王ではないのだぞ」
「言ったじゃあないですか。貴方についていれば、面白いだろうと思ってのです」
「ふん」
アロイスは鼻を鳴らす。
「ちょっと……待って」
背後から、息を切らせて誰かが走ってきた。振り返ると、マリアだった。
「私をあざ笑いに来たか」
アロイスは自虐的に笑った。マリアは急いできたのか、息が整うまでずいぶん時間がかかった。
「そんなんじゃない。私は、貴方から離れない」
「ひゅー。お熱いですなあ」
道化が口笛を吹く。アロイスが厳しい目でマリアを睨む。
「勘違いしないで。私は貴方を憎んでいる。でも、彼は……シドはきっと貴方に復讐に来る。だから貴方と一緒にいれば彼に会えるはず」
それを聞いて、アロイスは笑った。マリアの瞳からは、変わらず憎悪を感じた。
「面白い女だ」
「面白い女ですね」
アロイスが道化を睨む。道化は手で口を押さえた。
「良いだろう。どうやら賑やかな旅になりそうだ」
アロイスは自分が思っているよりも、心にダメージを負っていた。今は、この騒々しい輪の中がいくらかマシだった。




