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異世界拷問  作者: よねり
第二章 ファラリスの雄牛
32/104

6


「あの女は何者だ」

 城から出ると、アロイスは再び怒りがぶり返してきた。道化がアロイスの背中をさすろうとするのを振り払う。

「彼女は、この国の正当な王です」

「どういう意味だ」

「この国は女王制なのです。貴方が攻め込んだときにいたあの男は、女王の留守を預かっただけの男。王ではなく、王配です」

 それを聞き、アロイスは体中の力が抜けたように感じた。

「つまり私は、王気取りの馬鹿者だったというわけか」

「そうなりますね」

 嬉しそうな顔で道化が頷く。

「なぜ、誰もそのことを言わなかったのだ」

「貴方のことが怖かったのでしょう。他の国が攻め入ってこなかったのも、女王の行方が確かめられなかったからです」

 うまく行き過ぎているような気がしていた。やつらは、従うように見せて、あざ笑っていたのだ。張りぼての王である私を――。

「気を落とし召されるな。命があっただけでも儲けもの。また新しい場所でのし上がれば良いのです」

「貴殿はどうして、私についてくるのだ。私はもう王ではないのだぞ」

「言ったじゃあないですか。貴方についていれば、面白いだろうと思ってのです」

「ふん」

 アロイスは鼻を鳴らす。

「ちょっと……待って」

 背後から、息を切らせて誰かが走ってきた。振り返ると、マリアだった。

「私をあざ笑いに来たか」

 アロイスは自虐的に笑った。マリアは急いできたのか、息が整うまでずいぶん時間がかかった。

「そんなんじゃない。私は、貴方から離れない」

「ひゅー。お熱いですなあ」

 道化が口笛を吹く。アロイスが厳しい目でマリアを睨む。

「勘違いしないで。私は貴方を憎んでいる。でも、彼は……シドはきっと貴方に復讐に来る。だから貴方と一緒にいれば彼に会えるはず」

 それを聞いて、アロイスは笑った。マリアの瞳からは、変わらず憎悪を感じた。

「面白い女だ」

「面白い女ですね」

 アロイスが道化を睨む。道化は手で口を押さえた。

「良いだろう。どうやら賑やかな旅になりそうだ」

 アロイスは自分が思っているよりも、心にダメージを負っていた。今は、この騒々しい輪の中がいくらかマシだった。


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