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「どうしてくれる」
ランド王が玉座を蹴り飛ばした。その重さに、一ミリメートルも動きはしなかったが。
「何のことでしょうか」
アロイスは王を見上げた。眠そうな目をこすっているのは、昨夜グレーザと城の図面を見ながらスターテンとの戦いに備えていたからだ。備えながら、アロイスはグレーザにこの世界のことを尋ねた。やはり、今まで誰に聞いたとおり、拷問を実施している国はないようだった。あの諜報部長を生かして、もっと話を聞くべきだったかもしれない、と少し残念に思った。
つまり、この世界には、既製品の拷問具は存在しない。自身のセンスで新しいものを生み出さねばならないのだ。その喜びに、アロイスは打ち震えた。
「何のことだと? 貴様がやったことで、我が国は滅ぶのだ。すべて貴様のせいだ」
スターテンに潜らせていたスパイから、スターテン軍出立の情報を聞いてすぐ、王はアロイスを呼び出していた。
「私が何かしなくても、遅かれ同じ運命をたどっていた。そんなことより、とても良い拷問を思いついたのだが、どうだろう。その体で試してみないか?」
王は今にも穴という穴から血を吹き出しそうなくらい怒り狂っていた。
「こいつをとらえろ。そして、八つ裂きにして差し出せばスターテンの怒りも少しは収まるだろう。和議に持ち込めるかもしらん」
「今更そんなことをしても、焼け石に水だろうな」
「貴様が言うか」
王は叫んだ。兵たちも、アロイスを捕縛するかどうか迷っている様子だった。
「それより、もっと効果的な策があるが」
「策だと?」
「和議どころか、この戦争を勝利することさえ出来る」
「命惜しさにでまかせを言うか」
「でまかせではない。そうだな、もし失敗したら、張り付けでも串刺しでも、好きにしたら良い。私は抵抗しない」
「言ったな。どちらにしろ貴様は死ぬ。万が一にも戦争に勝ったとしても、貴様を処刑してやる」
「お好きに」
アロイスの不気味な余裕に、王は嫌な予感がした。もし、この王が賢明であるならば、その慧眼を以てアロイスの企みに、あるいは気付くことが出来たかもしれない。しかし、残念ながらこの王は愚王だった。アロイスにすべての罪をなすりつけ、自身はどのように逃げ果せるかということを考えていた。万が一にも勝ち目はないが、腐っても異世界から召喚した勇者である。もしかしたら勝ち目があるかもしれないと考えていた。そして、その際にはどれだけの財が自分になるのかと皮算用も始めていた。
「よかろう。最後に好きなだけあがくが良い」
「御意に。ところで王。戦うに当たって、お借りしたいものがあるのだが」
「何だ」
「武器を」
「なんだ、そんなもの。好きに使え」
王は防衛大臣に向かって「この男を案内してやれ」と叫んだ。
「それと」
「まだ何かあるのか」
うんざりした顔で王が応える。
「兵隊を」
王は防衛大臣に向かって顎をしゃくると、手をヒラヒラさせてアロイスを追い払う。
「哀れな男だ」
王の間を出るとき、アロイスがそうつぶやいたのを、王は聞こえていなかったが、大臣は聞き逃さなかった。




