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スターテンへスパイの遺体を出荷してすぐに、スターテンは反応した。農耕によって拡大したランドとは違い、武力によって国を大きくしてきたスターテンにとっては、アロイスが取った手段は効果的だった。仲間の亡骸を囲み、彼らスターテン軍は決起した。
「あのときに殺しておけば良かった」
ゴリラ女の騎士は顔を紅潮させ、頭のてっぺんから湯気が上った。周りにいた兵士たちはその様子を見て恐れおののき、甲冑の中に尿と涙をあふれさせた。
スターテンはすぐに兵を立て、総力に近い兵をランドへ向かわせることにした。
「ランドの百姓どもに、捕虜だからといって情けをかけたのは間違いだった。圧倒的戦力を以て、ランド国を消し炭にしてくれる。スターテンのすべての火力を以て蹂躙せよ」
スターテン国王が命じた。国王は年を取ってはいたが、元々は軍人だった。軍神と呼ばれ、戦場では彼の名を聞いただけで誰もが玉を縮ませたものだ。しかし国王になり、すっかり呆けかけていたところだった。その国王の体内の血液が、四半世紀ぶりに沸騰した。将を集め、全員を叱咤した。
兵士たちは雄叫びをもって応えた。
「守りはどうする?」
司令官がゴリラ女に尋ねる。ゴリラ女は目をつり上がらせた。
「守りなどいりませぬ。なに、ランドごときが我が鉄壁の城壁を越えられることなど、万に一つもありません」
その雰囲気に押され、司令官は「それもそうだ」とたじろいだ。烈火のごとく燃え上がる憤怒は、自然と伝染していった。もはや、そこには理性などない動物的な攻撃本能が支配していた。
ランドは城の周辺のみを、申し訳程度の城壁で囲っており、町の周辺は動物の侵入を拒む程度の柵しか設けていない。スターテンは、要塞都市と呼ばれるほど町ごと防御壁で囲っていた。入国の際には審査もあり、壁の上から物見が見張っていた。攻撃だけに及ばず、守備までも完璧だと自負していた。事実、歴史上スターテンは城を突破されたことがない。その守りを、間抜けなランド軍が突破できるとは、末端の二等兵ですら夢想だにしていない。
スターテンの全軍が、城から出立しようとしていた。




