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異世界拷問  作者: よねり
第一章 鋼鉄の処女
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 異世界拷問







 薄暗い部屋に、獣のようなくぐもったうめき声が響いた。

 次いで、水音。

 この部屋には二人の男がいた。うめき声の主は引き締まった若々しい体を拘束され、妊婦が乗るような検診台に載せられている。足を大きく開脚されてあられもない姿である。

 さらに、面のようなものをつけている。その面が【スコールド・ブライドル】、または【ガミガミ女のくつわ】という名の拷問器具であることを、男は知らない。口やかましい女性にかぶせて、喋れなくするものである。本来なら、見せしめのために利用されるものだが、この男は声がうるさいのでかぶせてみた。男は口の中にとげのある突起を押し込まれているせいで、うまく声を発することができない。その代わり、唾液がボタボタと垂れた。

「今日もメスのようにかしましいな」

 もう一方の男が楽しそうに言う。彼は黒いローブのようなものを着ており、見ただけではまるで年齢不詳である。顔には深い皺が刻まれているが、髪の毛はつやつやと輝く黒、一本の白髪も交じっていない。

 彼はまるでお絵かきをしている子供のような、無邪気で好奇心に満ちた表情を向けた。彼は拘束されている男の肛門に【苦悩の梨】と呼ばれる拷問器具を当てていた。今まさに、それを挿入しようとしている。これは洋梨のような形をしており、人間の穴に挿入し、手元を操作することで拡張するものである。主に女性の膣に挿入し破壊するようなものであるが、もちろん肛門にも使用できる。

 楽しそうに拷問器具を扱う男は、拷問官だった。彼にはモラルや共感といったものが損なわれていた。だからだろう、他人が痛みに歪む顔を見ても共感しない。それどころか、それに興奮する異常性を持っていた。

 鼻歌交りに手元を操作すると、まるで熟し切った桃の皮をむくように男の肛門は裂け、血が滴った。

 男は拘束具を壊さんばかりに暴れたが、無駄な努力だった。かつて、どれほどの屈強な男たちがこの台に自由を奪われてきたか知らぬ。そのうちの誰一人として、逃げ出すことは出来なかった。

 男は諦めたように静かになった。代わりに、何か言いた拷問官に向かってうめき声を発した。拷問官は手を止め、ライチのような眼球から涙を流す彼の顔を眺めた。

「どうした、ここで降参か? それでも戦場では名をはせたのだろう?」

 男が首を振る。たしかに、そろそろこの仮面も飽きてきたところだ。元々は、見せしめのためにつけるものだ。こんなところでつけてみても、それほど気分が高揚しない。彼は助かるために訊いてもいないことをべらべら喋るからつけたのだが、つけていてもわめくなら同じことだ。

 仮面を外す。途端に男は嘔吐した。吐瀉物混じりに命乞いの言葉も吐き出す。

「やめてくれ。そんな興をそがれることをするんじゃあない」

 拷問官の高揚した気持ちが、徐々に覚めてゆくのを感じた。明らかに、拷問官は先程までの情熱を失っていた。それを見て、男は解放されると思ったのだろうか。ありったけのことばを尽くして命乞いをした。

 拷問官がため息をついて、苦悩の梨を閉じた。これはゆっくりやらないと、腸が破裂してしまう。

 それでは面白くない。

 慎重に、

 優しく、

 女性を扱うように。

 抜き取るとき、うっ、と苦痛とも快楽ともとれるような声が聞こえた。取り除いても、男の穴はすぐには閉じず、だらしなく汚物を吐き出す配水管となる。ただし、裂けた部分の出血がひどく、錆びた水を吹いているようにしか見えない。それでも、男は命だけは助かったのだと思って泣きながら笑った。

「何を笑っている?」

 男がだらしなくよだれを垂らしながら、拷問官を見上げた。先程とは違い、背筋も凍るような冷たい表情だった。

「とっておきだぞ。これは掃除が大変になるから、あんまり使わないんだ」

 拷問官が布で覆われた箱状のものを持ってきて、男の腹の上に載せた。それは、男の腹のカーブにピタリと合った。拷問官が固定すると、箱の中から何かが走り回るような音がする。それに、甲高い鳴き声も。

「これか? これはね、ほら」

 箱の覆いを取り外すと、それはガラスで出来た水槽のようなものだった。中にはネズミがいた。思わず男が悲鳴を上げた。

「え? 違う違う。別に君の肉なんてまずそうなものを食べさせるわけじゃないよ。安心してくれ」

 拷問官が箱の下板を取り外す。すると、ネズミが男の腹の上に乗った。横は変わらずガラスで覆われているので、ネズミに逃げ場はない。

 ネズミの感触がダイレクトに肌を駆け回った。ずれないようにフレームを固定する。ガラスの箱は、内側の上部がヒーターになっていた。

「君は、国に帰りたいかね」

 唐突な質問に、男は何を言っているのかわからないという顔をした。拷問官は椅子を持ってくると、座って同じ質問をした。ようやく理解したのか、男は必死に頷く。訊いてもいない軍事上の情報を、またペラペラと喋り始めた。

「ああ、良いんだ。君はそういった……大切なことは胸に秘めておいてくれ」

 爪を磨きながら彼は言う。「それよりも、君がこの拷問に耐えきったら、解放しようと思う」

 男の顔にパッと生気が戻った。相変わらず腹の上を駆け回るネズミの感触は気持ち悪いが、これを耐えれば帰れるのだと思えば我慢できる。ケツの痛みよりもずっとマシだ。

「準備は良いか?」

 男は頷いた。それを見て、拷問官がスイッチを入れる。

 箱に上部に設置されたヒーターがオレンジ色にともった。何かあるとは思ったが、今度は熱責めか。肌が焦げる程度は我慢しようと男は思っていた。今までの拷問に比べたずいぶん優しいので、男は思わず頬を緩めた。

 次の瞬間、男は悲鳴を上げた。

「はっはっは。もうちょっと我慢したまえよ」

 拷問官が愉快そうに笑う。ガラスの箱は、見る間に赤く染まっていった。

 熱から逃れようと、ネズミが男の腹を掘っているのである。血と臓物の臭いが、離れていても鼻をついた。生臭い、ムッとした脂の臭いと、糞便の臭いも混じる。この悪臭は慣れると快感である。大きく深呼吸をした。

 しばらく、男は悲鳴を上げていたが、そのうちうんともすんとも鳴かなくなった。

 生命の輝きが消えた肉塊を見下ろし、深くため息をつくと、拷問官は机の上の電話から受話器を取り上げた。

「おい、来てくれ。また死んでしまった……ああそれと、掃除を頼む」

 今日は何人の捕虜を殺したかは忘れてしまったが、まだ使いたい器具はたくさんあった。


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