第8話:入学試験
二日が経ち、入学試験当日になった。俺は受験票をしっかりと持っていることを確認して、靴を履いた。
「アウルならきっと合格できるわ」
「実力を出せさえすれば大丈夫だ」
アレスとリーシャは玄関で二人揃って励ましの言葉をくれた。
「ありがとう、じゃあ行ってきます」
家を出てから勇者学院までは五分。特に何事もなく試験会場に着くかと思われた。
「――やめてください! 忙しいんです」
「下級貴族の女が俺に反抗するってのか? グダグダ言わずに俺の女にならねえと酷い目に遭わせるぞ!」
勇者学院の門の前で、男女が口論していた。
……口論と言っても、男の方が口説いているだけで、少女は明らかに嫌がっている。
「嫌がってるだろ? 放してやれよ」
「んだとてめえ。……見慣れねえ顔だな、庶民か。いいか、俺様は伯爵家の次男だ! こいつは男爵家の娘。……つまり、俺の命令には逆らえないのだ!」
俺は嘆息して、
「……なかなか可哀想な奴だな」
多分こいつはアレだ。親から愛されてこなかったんだろうな。だからこんな風に性格が歪むんだろう。可哀想だけど、これ以上罪を重ねないようにしてあげるのが優しさかな。
きっと将来、真実の愛を知った時に今日のことを後悔してしまう。
俺はチラッと少女を見る。
「君は受験生なんだよね?」
「そうです!」
「ならよし」
俺は体力強化で鍛えた脚力を作って、素早く少女を抱き上げ、学院の門をくぐった。
「ええ!? お、お姫様抱っこ……」
「残念だが、勇者学院では庶民も貴族も関係ない。そういうのは他所でやってくれ」
俺は毅然とした態度で男に言い放つ。
男は悔しそうに青筋をピクピクさせて、
「思いあがりやがって……! 覚えていやがれ!」
捨て台詞を聞き流して、少女を下ろした。
「あ、ありがとうございます……アウル君。かっこよかったです……」
金髪の美少女は、照れているのか顔を赤く染めて、上目遣いで俺を見つめた。
「あれ? 前に会ったことあったっけ?」
なんでこの子は俺の名前を知ってるんだろう。……下界に降りたことは一度もないはずなんだけど。
「あ、いえ……その! そんな感じの顔をしてたので! 私、セリカって言います。合格したら仲良くしてもらえると嬉しい……なんて」
下界の人間は顔を見ただけで名前がわかるのか、凄いな。
……やっぱりコミュニケーション能力の違いなんだろうか?
「何を言ってるんだ?」
「……ごめんなさい、初対面なのに失礼ですよね」
「合格しなくても仲良くすればいいだろ? 面倒な条件をつけてどうする」
下界の人間は試験に合格しないと仲良くしないといけないのか? さすがにそれはないと思うんだよな。
「やっぱりアウル君って優しい……うん、よろしくお願いします!」
一瞬、眩い笑顔にドキッとした。……可愛い。セリカは本当に可愛い。
◇
試験会場に着くと、ブロックごとに並んで試験官から試験の概要を聞く。さっきの男も受験生だったようで、隣のブロックに並んでいた。
ちなみに俺はAブロックで、セリカはKブロック。試験中は顔を合わせることは無さそうだ。
試験官の説明が始まった。
禿面の中年おっさんが台の上に立って、拡声魔道具を使って声を響かせる。
「えー、今年もたくさんの受験生が集まったことを学院一同喜ばしく思っている。えー、全員合格させてやりたいくらいの気持ちだが、そうもいかないというのが辛いところだ。えー、してからに選抜試験を行うことになった。全員、実力を出し切ってくれることを期待している」
このおっさん、『えー』が多いな。日本にもこういうおっさんはいっぱいいたけど、この禿はそれを思い出す。ちゃんと聞き取れるからいいけどさ。
それから試験は全部で三つ試験まであることが説明され、ブロックごとに誘導されて各試験会場に向かった。
三つの試験はそれぞれ基礎試験、一次試験、二次試験だ。
基礎試験は魔力の総量を判定し、一次試験は魔法と剣技、二次試験は総合力を見るのだという。
ちなみに、学力試験は無かった。数学とかならまだしも、下界の歴史に関してはかなり知識が浅いのでこれはありがたい。
入学してから大変だろうけど。
さて、まずは基礎試験だ。
気合を入れなおして頑張ろう。