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第7話:治癒魔法

 二人の後をついていくこと十五分。商業地から離れて閑静な住宅街を歩いていると――新居に着いた。


「で、でけえ……」


 俺が勇者学院に通う三年間のためだけだから、もっと狭い家を想像していたけど、二人が用意していた新居は想像を遥かに超える豪邸だった。


 広めの庭もついていて、よくこんな場所が空いてたなと感心する。


「アウルを勇者学院に入れたいと言ったら大騒ぎになってなあ。国王自らここを用意してくれたんだ」


「どんなことしたらその流れになるわけ!?」


「昔ちょっとヤンチャしてたからなあ。まあ、その繋がりだよ」


「昔を思い出すわねぇ。あの頃は私たちも若かったわ」


「そこ、詳しくお願い! 英雄とかの説明も!」


「そういえばまだアウルには話してなかったな。……まあ、まずは家の中に入るぞ」


 アレスはポケットから鍵を取り出して、扉を開けた。

 新居の中はほとんど空っぽで、備え付けの家具がいくつか設置されているだけだった。


 靴を脱いだらそのままの足で居間に移動して、腰を下ろす。


「まあ、簡潔に言えば俺とリーシャは昔ヤンチャしてて、国を救ったら英雄になってたってことだな」


「簡潔にまとめすぎだよ! もうちょっと詳しく」


 大体事情は把握できたけど、肝心なことが何もわからない。


「二十年くらい前、魔物が大量発生したことがあったのよ。まあ、魔王の仕業なんだけど。……それで、このままだと人間が絶滅しちゃうから、私とアレスで下界に降りて加勢したってわけ。その時は目の前のことでいっぱいいっぱいだったんだけど、いつの間にか功績を上げてて、英雄として祭り上げられちゃったのよ」


 あまりに簡単そうに言うから大したことがないみたいに聞こえるけど、それって人間からしたらめちゃくちゃ感謝してるんじゃないか?

 ……絶滅の危機を救ったとなれば、門番があれだけ恐縮するのも理解できる。


 世界最強の剣士だとか、世界最強の魔法使いと自称してたけど、見栄を張ってたんじゃなかったんだ……。


「はぁ、色々とツッコミたいけど事情はわかったよ。……それで、一つ聞いておきたいんだけど」


 アレスとリーシャが英雄だということまではわかった。

 だとすれば、俺はただの一般人なんだろうか。


「俺って英雄の子みたいな扱いにならないよね?」


 親は親、子供は子供と分けて考えてくれるのか? 世間は。日本みたいな家系を重んじる国だと英雄の子供ってだけで注目されそうなんだけど……ここは異世界だし、そんな常識はないと思いたい。


「あー、確かにアウルは俺の子だしな。そりゃそこそこ注目浴びるんじゃないか?」


「やっぱり……」


「でも心配するな。勇者学院は庶民も貴族も分け隔てなく公正な試験をすることで有名だ。コネで受かったなんて誰も思わないぞ」


 そんな心配してないよっ!

 ……今さらどうなることでもないし、もうしょうがないか。

 俺は俺だ。


「さてと」


 俺は腰を上げる。


「どこかいくの?」


「ちょっと勇者学院を見てこようと思ってね。当日道に迷ったら大変だし」


「晩ご飯までには帰ってくるのよ?」


「大丈夫、それまでには帰るよ。じゃあ行ってきます」


 ◇


 忘れないように新居の場所をしっかりと覚えてから、地図を頼りに勇者学院に向かって歩みを進める。

 新居から目的地までは約五百メートルほどだ。近すぎず遠すぎず、ちょうど良い立地だと思う。


 五分ほどで学院の門まで辿り着いた。外からでも校舎がよく見える。

 この世界にしては大きい四階建ての大きな校舎が三棟ほどあり、大きな校庭と、様々な施設が並んでいる。校庭では在校生と思われる生徒たちが授業を受けているところだった。


「俺もここに入学するのか」


 まだ試験すら受けていないのに、入学した後のことを考えた。

 思えば、同年代と会話したことが一度もないんだよな。

 コミュ障じゃないとは思うんだけど、ちょっと緊張してくる。


「そろそろ行くか」


 目的は達成したので、踵を返す。

 もう少し王都を散歩したら家に帰ろう。


「……ん?」


 来た道を戻っていたら、女の子の泣く声が聞こえてきた。

 路地を曲がると、まだ幼い女の子が転んで怪我をしていたようだった。

 

「大丈夫か? 怪我は……ここだな」


 膝の部分を酷く擦りむいて流血していた。放っておいても治るけど、痛いだろうしなんとかしてあげたい。


 この世界には、治癒魔法が存在する。いわゆる『おまじない』と違って、こんな時に怪我をする前の状態に戻すことができる。

 俺はリーシャから治癒魔法も教わっていた。攻撃系の魔法に比べれば極めたとは言い難いけど、このくらいの怪我なら簡単に治せる。


「うう……ぐすっ。……おにいちゃん、だあれ?」


「俺の名前はアウル。今から怪我を治してあげるよ」


「ほんとう?」


「本当だとも」


 俺は彼女の傷を見つめて、イメージする。怪我をする前の状態、治るまでの細胞の過程、治った後の状態。正確かつ素早く魔法を掛けた。


「どう? まだ痛い?」


「痛くないよ! アウルおにいちゃんありがとう!」


「どういたしまして。今度は怪我しないようにね」


 怪我が治ると、少女は笑顔を取り戻して走っていった。


 ◇


「アウル……あの人は凄いわ」


 アウルが少女の怪我を治す一部始終を見ていた女がいた。

 腰まで伸びる長く麗しい金髪。透き通るような碧眼。それに加えスレンダーな体躯なのに胸だけは大きい。……いかにも西洋の美少女という見た目をした彼女は、勇者学院の入学試験を明後日に控えた受験生だ。


 彼女は隠れていたのではなく、偶然見てしまっただけだ。学院の下見をしに来たら、同年代と思われる少年が華麗に女の子の怪我を治していた。

 今まで見たことがないくらいスムーズで無駄のない魔法に、彼女は衝撃を受けた。


 アウルは絶対に合格する。……それも、主席争いをするのは確実。それくらいアウルの魔法は凄かった。


「こんな人たちと枠を奪い合うのね……頑張らないと」

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