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第5話:村はずれの廃墟

 俺は十五歳になり、成人した。……とは言っても、まだこれから何をするのかは決めかねている。アレスとリーシャ――俺の両親は成人後の人生は自分で決めるものだと繰り返し言っていた。


 でも、やりたいことがまだ見つからない。

 もしかすると、俺は一生この村で生活するのかもしれない。両親も村の人たちも大好きだし、俺はそれでもいいと思っている。


 俺は神王様に今後どうすればいいか、人生相談をしに家まで伺った。

 この村で一番の長老に聞けば、何かヒントになるかもしれない。


「アウルではないか。こんなところまでわざわざ来るとはのう」


 俺の家から神王様の自宅まではかなり距離が離れている。ここまで来たことはほとんどなかった。俺が一人で訪れたということに、少し驚いているように見える。


「今日はちょっと相談があって……神王様の知恵を貸してほしいんです」


「わしに相談となぁ。役に立てるかわからんが、いいじゃろう。聞いてみようかの」


 俺は客間に案内され、机を挟んで向かい合わせに座った。


「実は俺、今後の方針を決めかねていて。自由にしていいと言われてもどうすればいいか……」


「成人したばかりの頃はそれが普通じゃと思うがのう。ゆっくり決めればよかろう」


「それはそうなんですけど……」


「目標がないと今どうすればいいか決められないというのもわからぬではないが」


 神王様は短い言葉のやり取りで、俺の悩みを見抜いていた。

 俺は七歳の時にアレスとリーシャから全ての教えを身に着けた。それからは自己流で色々なことに挑戦してきたが、何のためにそれをやっているのかわからなくなっていたのだ。


 最近は、俺はなんのために転生してきたのか――と、ある種哲学的なことばかり考えていた。


「悩んでおるなら……あそこに行ってみるかの?」


「あそこって?」


「立ち入りを禁じておった場所じゃ。……そろそろアウルも知るべき頃なのかもしれん」


 俺は六歳くらいから自由に村の中を歩くことが許されていた。ただ、自由に歩いて良い場所には一つだけ例外があって、神王様の家から少し離れた高台には絶対に近づいてはいけないと言われてきた。


 俺はそれを忠実に守り、今まで禁じられた場所に入ったことはなかった。

 外から見た感じだと高い木ばかりが生えている場所で、別段面白そうな場所でもなかったので、興味がなかったという方が正しいかもしれない。


「でも立ち入り禁止ってことは何か理由があるんですよね?」


「それも含めて話すつもりじゃ。……行きたくないなら無理強いはせんが、アレスとリーシャの二人も成人したら話すと言っておった。近いうちにどのみち知ることになるじゃろう」


 俺が成人するまでは立ち入り禁止なのに、成人したら話すっていうのはどういうことなんだろう? 危険な場所ってわけではないのかな。


 もしそこに行くことで何かが見えてくるなら、行かないという手はない。


「……わかりました。神王様、よろしくお願いします」


「うむ、ついてくるのじゃ」


 神王様の後をついて、高台まで上っていく。まったく手入れがされてなくて、荒れ放題になっていた。

 そして、高台の頂点に着いた。


「……これって、家?」


 雑草が伸びきった高台の頂点には、七戸の家が点在していた。

 どの家も雨風に晒されボロボロになっているが、確かにここに神々が住んでいたのだろうという生活感が残っていた。


 ゴーストタウンのような気味悪さがある家々を見て、神王様ははぁ、とため息を漏らす。


「……ここには遠い昔、七人の神々が住んでおった」


「引っ越したってことですか?」


「そうとも言えんことはないが、彼らはこの村を出て、下界――人間界に降りたのじゃ。そして、今も七人の神々は生きておる。……元気にな」


「七人が一斉にですか?」


「そうじゃ。わしらは最後まで止めたのじゃが、最後には強硬しよったな」


「……それは寂しいですね。でも住む場所は違えど元気に生きててほっとしました」


 俺がそう言った次の瞬間、神王様は顔をしかめた。


「その元気なのが問題なんじゃよ。七人の神々は、今や下界の人間たちを苦しめておる」


「神様って確か基本的には人間を傍観して、時には助ける存在ですよね? ……なのになんで」


「理由はわからぬ。……じゃが、確かに七人の神々は魔王となり、魔物を率いて人間を襲っているのが現状じゃ」


 神様が人間を襲うなんて、平和なこの村では考えられないことだ。ただ一人の人間である俺を、みんな温かく育ててくれた。神王様から直接聞いてもにわかには信じられない。


「わしら神々も数百年前から人間たちに力を与え、魔王に対抗しようとしたのじゃ。……じゃが、奴らの方が上手じゃった。力及ばず多数の犠牲を出し、人口を減らし続けておる」


「人間の代わりに神様が直接戦うとかはできないんですか?」


「それができたらやっておるのじゃが……全能神様の決めた掟には逆らえんのじゃ」


 全能神……この神々の村を含む全ての神を統べる存在だ。神様は全能神の決めたことには絶対に逆らえない。ここを出ていった神々も同じはずだ。……なのに、全能神は何もしない。不自然だ。人間にとって理不尽すぎる。


「全能神様はどうして助けてくれないんですか?」


「神同士が戦えば下界が滅びる……その一点張りじゃ」


 確かに、神々同士で戦うことになればただでは済まないと思う。世界はボロボロになってしまうかもしれない。……だけど!


「放っておけば一緒じゃないですか!」


「……アウルの言う通りじゃ」


 神様は人間に手を貸すだけで、直接戦うことはできない。

 人間は神様の力を借りても魔王たちに遠く及ばない。どうすれば……。


 と、その時。俺がやるべきことが見えた気がした。


「神王様、俺なら魔王にも勝てるのかな」


 神王様ははぁ、と息を吐いた。


「そう言うと思っておったのじゃ。わしもアレスもリーシャもな。アウルの性格なら自分が戦うと言い出す……十年前からわかっておった」


「それで、俺ならできるかな?」


「今の時点じゃ勝ち目は薄いじゃろう。あと数年……やるべきことをやり、腕っぷし以外の強さを身に着ければ可能性はあるがの」


「そ、それにはどうすればいいか教えてください!」


「アレスとリーシャに直接聞くのじゃ。これはあの二人で考えたことなんじゃからの」


「……わかりました。今日ここに連れてきてくれて、ありがとうございました!」


 俺は相談に乗ってくれた神王様に礼を言い、急いで家まで戻った。

 アレスとリーシャに事情を話し、どうすれば魔王を倒せるようになるのか、問いただした。


「母さん、父さん! 教えてほしい。俺がこれからどうすれば、魔王を倒せるのか!」


 二人は顔を突き合わせ、アレスが代表して答える。


「下界にある勇者学院で三年間を過ごすんだ。……その間に必要な力を自分で探して身に着ければ、打ち倒すこともできるだろう」


「勇者学院?」


 聞いたことが無い学校だ。……っていうか、下界の事情をほとんど知らない。俺の疑問にリーシャが答えてくれた。


「魔王討伐のための勇者を専門に養成する学校よ。そこで知識を身に着け、仲間を集めて、必要な力を身につければきっと勝てるわ」


 ……なんか、俺騙されてないよね?

 三年間も学校に入って学ぶなんて無駄なんじゃないかと思うんだけど……。


「それにだな、アウル」


 今度はアレスが真剣な顔で俺を見つめる。


「お前は人並みの生活というものを知らないだろう。……それを知った上で、自分の将来を決めた方がいい。親心としてはそんな感じだ」


「……父さん」


 二人は十年も前から俺の将来を考え、答えを用意してくれていた。俺がさっき思い付きで決めたのとは、わけが違う。

 ……こんな俺を十五年も育ててくれた両親が俺に言うことなのだ。


 それに応えるのが親孝行ってやつなのかな。


「……わかった! 俺、勇者学院に入学するよ!」


 俺が宣言すると、二人はホッと息を吐いた。


「となれば入学試験の手続きをしておかないとな……おっと、手違いで申し込んだアウルの受験票が出てきたぞ?」


「神王様に頼んで下界への門を開けてもらわないと……あら、前に頼んでおいたから明日には出られるわね!」


 ……な、なんという用意の良さだ。

 なんか俺レールに乗せられてないよね? 自分で選んだんだよね?


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