第4話:魔道具の創造
さて、体力強化のノルマが終わった。まだ時間は昼の三時くらい。夕食とお風呂を除けば、寝るまでは完全に自由時間だ! いつもより自由時間が三時間くらい多い。
魔法の基礎を覚えて、剣の奥義を覚えた。毎日二回の体力強化もちゃんとこなしたし、めちゃくちゃ充実している気がする。
さて、前から考えていたことをやってみるか。
俺はリーシャの本棚に保管してあった一冊の本を自分の部屋に持ち込んでいた。文字を覚えてからは、暇潰しに本を読んでいた。
さすがにリーシャは賢者なので、初心者用の魔法教本がなかった。だから今日の朝に直接教えてもらうまで俺は魔法を使えなかったのだ。
……でも、魔法を使ってやりたいことがあったから、知識だけは集めていた。
正確にはこれは『魔法』じゃなくて『創造』という別の種類らしいけど、魔力を使うからあまり魔法と変わらない気がする。
さっき教わった【炎剣】も魔力コントロールが大切だったし、形が違うだけで、極めてしまえば剣・魔法・創造に本質的な違いはないのかもしれない。
「……そろそろ始めようかな」
俺は部屋の隅に置いてあった大きな木箱を持ってきた。俺の背丈くらいある大きなものだ。この日のために材料を集めて作っていた。
俺は木箱をジッと見つめて、イメージしていく。
この箱の使い方を。魔力を流し込んだときに起動する魔法の結果を。丁寧に、丁寧にイメージすること一時間。
「よし、できたぞ!」
俺は嬉しさのあまり飛び上がって喜んだ。
これでアレスやリーシャの苦労がかなり抑えられるはずだ!
今からサプライズプレゼントしてみよう。
俺は大きな木箱を持って、リーシャのいる庭に出てきた。干してある洗濯物を取り込むのに必死な様子。
「母さん、ちょっと見てほしいんだけど」
「どうしたの? ……って、それは?」
リーシャは早速俺が持ってきた木箱に注目した。まあこれだけ大きかったらさすがにびっくりするよな。使ってみたらもっとビックリするだろうけど。
「今日の洗濯物ってある?」
「後で川に洗濯に行こうと思ってたからあるはずだけど……それがどうかしたの?」
「よかった! その洗濯物にこの木箱を使ってほしいんだ。きっと役に立つはずだよ」
「なんだかよくわからないけど、とりあえず持ってくるわね」
そう言って、リーシャは大量の洗濯物を取りに家の中に入っていった。
数分後、大量の洗濯物を腕に抱えて戻ってきた。
「じゃあ、洗濯物をこの木箱に入れるよ」
俺は次々と木箱の中に服や下着などを入れていく。
大きな木箱なので、大量の洗濯物の全てが入った。
「洗濯物を入れたら、蓋を閉じてここの印に手をかざして」
「こう、でいいのかしら?」
リーシャが印に手を当てた瞬間、彼女の魔力を使って木箱の中に魔法が展開する。
水魔法と風魔法を組み合わせて、木箱の中で水が踊っている。
汚れを落とすための最適な動きで回し続け、およそ一分ほどで止まった。
「まだ手をかざしておいて」
「え、ええ」
リーシャは困惑しながらも俺の指示に従う。
今度は木箱の中で脱水処理が行われているのだ。脱水処理はすぐに終わり、次は火魔法を使ったヒーターが起動する。これには工夫がしてあって、太陽に照らされた状態と同じになるよう工夫してある。
目に見えない紫外線などを再現するのには苦労した。
こうして、合計三分ほどで全工程が終了した。
「もう蓋を開けて大丈夫だよ」
俺が言うと、リーシャが恐る恐ると言った感じで慎重に蓋を開ける。
――すると、そこには綺麗になって乾燥まで終わった洗濯物が入っていた。
「う、嘘!? 洗濯が終わってる!?」
驚くのも無理はない。
この世界の生活水準は昔話の世界くらいのレベルなのだ。当然、洗濯機や冷蔵庫、掃除機……諸々の便利なものなんてないから、感動したことだろう。
日本でも三分で洗濯が完了する洗濯機なんて無かった。魔法を組み合わせたことで実現できたのだ。
「これがあれば毎日の洗濯が楽になるでしょ? 雨の日でもちゃんと乾くし、干す必要もない。これを使ってくれたら嬉しいな」
「アウル本当にありがとうっ! 誰も見たことが無い魔道具をこの歳で作っちゃうなんて、創造の才能もあったのね! 凄いわ!」
うん、喜んでもらえて良かった。洗濯のために川に移動するだけでもちょっと時間がかかる。この辺は効率的にして、もっと時間を有意義に使ってほしい。
サプライズは成功かな?
「今日はご馳走を作るから、お母さん用意してくるわね?」
「ほんと! わかった、待ってる!」
ご馳走なんて珍しい! 今日は何から何まで充実してたなあ。
◇
アウルにご馳走を作ると言って庭を離れたリーシャは、一人で考え事をしていた。
卓越した剣の才能に、魔法の才能。それだけじゃなく、創造の才能までも持っていることが今日わかってしまった。歴史上ここまでの天才は見たことが無い。
これだけの才能があって、アウルの性格を考えれば……将来どうなるかは想像がついた。
もしかすると、アレスもそろそろ気づいているかもしれない。
村の神々に協力してもらって隠しているが、いつかはバレてしまうし、成人してからの進路はアウルが決める。もし下界に降りることになれば……その時は話さざるをえないのだ。
それなら、バレることを前提でアウルが成人した後の進路をある程度今のうちから決めてしまおう。……もっともらしい理由をつけて、数年間でもいいから時間を稼ぐ。その間にアウル自身が将来を決めたのなら、親としてはもう口を出せない。
親にできるのは、将来を示してあげることだけ。
「アレスにも相談してみようかしら」
そんなことを考えながら台所に向かっていると、アレスと目が合った。
彼も何か考え事をしているらしく、無精髭を指で弄って固まっていた。
「アレス、ちょっとアウルのことで相談があるんだけど」
「リーシャ……実は俺もだ」
二人は夕食を作り始めるまでの間、アウルの将来のことで話し合った。
この話は彼らの寝室でも夜通し行われ、明け方になった頃、ようやく話がまとまった。
アレスもこれなら納得できそうな理由だった。
このことは、アウルが下界に降りたいと言ってから話すことに決まった。