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第3話:奥義継承

 リーシャの魔法の特訓が終わって、昼食を摂った。

 午後からはアレスによる剣の特訓が始まる。こっちの方はやることは毎日ほぼ一緒で、実践形式で直すべきところを指摘してもらう感じだ。


 だけど、今日はどうやら何かが違うらしい。


「えっと……父さんもう一回言ってもらっていいかな?」


「うむ、今日からはアウルに奥義を授けるぞ」


 ……聞き間違いじゃなかった。本当に世界最強の剣士の父さんが俺に奥義を授けると言っている。


「待ってよ、でも俺はまだ五歳だよ? まだそういうのは早いんじゃない?」


「何を言ってるんだ。奥義に年齢など関係ないぞ。俺だって奥義を教えてもらったのは二十歳くらいだった。五歳も二十歳も大して変わらないだろ?」


 そりゃ寿命が長い神様的にはそんなに違わないんだろうけど、人間にとっては大きな違いだよ! 人間の十五歳はこの世界なら成人しちゃうから!


「奥義って父さんが前に熊を退治した時の魔法みたいな剣技のことだよね?」


「その通りだ。剣の奥義は繊細な魔力コントロールが要求される。魔力を使う剣技を邪道だというやつもいるが、俺はこれこそが真の剣技だと思っているよ。……まあ、そういうしょうもないことは覚えてから決めればいいんだ。実戦では大いに役に立つ」


 俺って魔法が得意なのかな?

 母さんはめちゃくちゃ褒めてくれてたけど、父さんは見てないはずだし……まあ細かいことはいいか。


 魔力を使う剣技が正しいとも間違ってるとも思わないけど、それが役に立つなら覚えていて損はないはずだ。


「わかった、やれるだけのことはやってみるよ」


「さすが俺の息子だ、そうこなくっちゃな。よーし、じゃあまずはいつものように剣を構えてみろ。俺が奥義ってものを見せてやるから、しっかり盗めよ――ってい!」


 そう言って、いきなり俺に斬りかかってくる。訓練用の木刀だから、いつもなら当たっても痛いで済むけど、今日は一味違った。


 剣が炎を纏って襲い掛かってくる。


「熱っ……!」


 熱気がこの炎が偽物じゃないことを語っていた。触ればただでは済まない。――剣で、受け止めるしかない。


 俺はアレスの剣を自分の剣で受け止め、跳ね返す。いつもよりもアレスの剣が重たかった。……もしかすると、これも剣技の効果ということか。


「どうした? いつものようにアウルの方からかかってきていいんだぞ!」


 上機嫌な様子で炎の剣をブンブン振り回すアレス。

 その魔力の動き、剣筋、姿勢、体重移動……その全てを注意深く観察した。

 ――そして、十回ほどの剣の打ち合いを終えた頃に見えた。


 俺にもできるという確信があった。


「父さん、今度は俺の方から反撃させてもらうよ!」


 俺はさっきのアレスの動きを思い出し、正確にトレースする。

 火の魔法を剣に纏わせ、いつもより鋭く踏み込み、一気に攻め込む!


「うおおおおおおおおおお!!!!」


 雄叫びを上げて、アレスに斬りかかる。

 キンッと音がした次の瞬間には、アレスが両手を上げていた。


 確か両手を上げるのは降参の合図……だけどなんで? たった一撃しか当ててないはずなんだけど。


「どうしたの、父さん? まだまだこれからだよね!」


「……そうしたいのはやまやまなんだが、木刀が折れちまったから一旦中止にさせてくれ」


 アレスは額から汗を垂らして、顔を青くしていた。

 剣を振ることしか見えていなかった俺は、アレスの剣が折れていることに気づいていなかったのだ。


「あ……ごめん。折っちゃったんだ」


 俺は足元に落ちていた無残な木刀を拾い上げた。俺が斬った後の断面は研磨した後みたいに滑らかで、触るとツルツルしていた。


「父さん、上手く再現できてたかな?」


「は、初めてにしちゃあ上出来じゃないか? もうちょっと伸びしろはあると思うが、火以外の属性も使えるようになればこれだけで大抵の魔物は倒せるようになるぞ」


「そっか……やっぱり奥義って凄いよ。……これって名前とかはあるの?」


「俺が使ったのは【炎剣】だが、使う属性によって【水剣】だったり【風剣】とかもあるな」


「ちょっと試してみてもいい?」


「ん? 試すって何をだ?」


「今の時点で全属性できるか試してみたいんだ」


「やってみるのは一向に構わないがさすがにアウルでも全属性は無理だろうよ……」


 アレスがやってみてもいいと言ってくれたので、試してみる。

 壊れた剣を地面に置いて、自分の木刀を両手でしっかり握りしめる。


 この世界に存在する魔法の属性は六種類。

 火・水・土・風・光・闇。無属性を属性に含めるかどうかは議論がわかれるが、今回は含めないことにする。


 俺はさっきのイメージをもう一度思い出して、火を水に置き換えてみる。ただ単に水をイメージするのではなく、水属性を纏った剣を振っている姿をイメージする。この奥義は、魔法との複合技だ。リーシャに教えてもらった基礎を忠実に守れば、できるはずだ。


 刹那、木刀に流れる水を纏った。蒼く透き通る綺麗な水だ。


「そ、そんな馬鹿な……! 【炎剣】を覚えてすぐに【水剣】まで使えるようになってしまったのか!」


「基本は同じだからちょっと工夫するだけでできたよ、父さん。これでコツがわかったから……」


 次に、俺は土・風・光・闇属性をそれぞれ試してみた。

 そのどれもがうまくいって、父さんは口が塞がらないくらい驚いていた。


「とりあえず使えるようになったけど……まだまだこれから地道に身体に染み込ませないとね」


「あ、ああ……それはそうだが、明日からはまた新しい奥義を教えるよ」


「明日も新しい奥義を!? どんなの!?」


「そ、それは明日になってのお楽しみだ。……今日のところはこの辺で終わりにして、体力強化の方をやってくるといい」


「わかった! じゃあノルマが終わったら自由にしていいんだよね?」


「もちろんだ。自由な時間も大切だしな」


 今日はいつもより早く剣の練習が終わったので、自由時間がいつもより多くなりそうだ。やっと魔法の使い方がわかったので、やってみたいこともあった。

 上手くいったら、二人とも喜ぶだろうな!


 ◇


 アウルに体力強化を命じたアレスは、その場に崩れ落ちた。


「……アウルは次元が違う」


 アレスは『初めてにしては上出来』なんて言い方をしたが、これは嘘だ。手放しに誉めてしまうとアウルの成長に良くないかと思われてとっさについた嘘だった。


 天才とか秀才とか、そんな言葉では表せないほどの才能を持っている。アレスが習得に一月を要した【炎剣】をたった十回ほどの剣の打ち合いで完璧に習得してしまった。


 それだけじゃなく、自らの頭で考えて残りの五属性全てに応用してみせた。

 明日以降教える奥義も、その全てを覚えるだろう。


 同時にリーシャから教えられる魔法も使いこなせるようになり、来年にはオリジナルの魔法や剣技を生み出してしまうかもしれない。


 再来年――七歳になる頃には完全にアレスとリーシャの実力を超えるようになる。

 もちろん、それは喜ぶべきことだ。


 しかし、それほどの力を手にした先に何をするのだろうか。アレスには思い当たることがあった。

 今はまだ知らないが、アウルもこの村に住んでいれば絶対にいつか気づく。


「正義感溢れるアイツなら言うことは一つか。……自重させないとな。リーシャとも相談するか」


 アレスは一人でそう呟くと立ち上がった。

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