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第37話:協力

 俺とセリカは【身体強化】を使って、高速で移動していた。

 遠く離れた場所で爆発音が続いている。空を見れば、煙が上がっていて大体の距離が分かった。


 校舎の方に戻ってくると、残っている生徒はほとんどいない。ケクロスが山の方を荒らしている間に、避難したのだろう。……俺としては戦いやすくなって好都合だ。


 ケクロスは俺を狙って追ってきている。……理由は正直よくわからないが。

 このまま逃げ切ることは多分できない。


 殺すか、殺されるか。


「セリカ、こっちだ」


 第三棟を抜けて、第一棟の校舎前――そこにアンナとエストは並んで待っていた。


「アウル君なら生きていると思っていました。……どうします、逃げますか?」


「いや、あいつは俺を狙ってるって言ってた。多分逃げられない」


「でもあんなのとどう戦えばいいわけ!?」


 二人もあの魔王――ケクロスが理不尽なほどの力を持っていることを理解していた。よく見れば第一棟の校舎の入り口は半壊していて、その衝撃がどれほどのものだったか、物語っている。


「俺が戦う。一対一なら、アイツと戦っても勝てるかもしれない」


「僕たちは邪魔ですか?」


「直接戦うとしたら、すまないが邪魔だな」


「そうよね。……でもアウルでもどうやって」


「でも、俺一人でも自信はない。さっき見たケクロスの【身体強化】はかなり強い。弱くはないはずのセリカの攻撃がまったく効いてなかったからな」


「じゃあ援軍を待つってことかしら?」


「いや、そんなに時間はないし……」


 勇者学院が魔王の襲来でこんなことになった――その事実がきちんと連絡されれば、遅れて勇者や王国の騎士団が援軍に駆け付けてくれるかもしれない。だけど、それにはどうしても時間がかかる。


 魔王ケクロスが来て三十分も経たない間に勇者学院はこの有様だ。俺がこの学院の敷地に出て逃げれば街には甚大な被害が出ることは間違いない。


 それに、このまま逃げ回って援軍が来たとしても――。


「今の勇者や騎士団であいつをどうにかできるとは思えない」


 これが正直なところだった。


「じゃあもう何もせずにアウルが殺されるのを待つだけってこと!? そんなの無理だわ!」


「落ち着いてくれ、アンナ。……策が無いわけじゃないよ」


「その策に僕たちが必要だと……そういうことですか?」


「さすがエストだ、察しがいいな」


「僕たちを探しに戻ってきた時点でそうじゃないかと思っていたんですよ。それで、内容を聞かせてもらいますか?」


「ああ、手短に話すから、一回で聞き取ってくれよ。……三人には、俺に魔力を送ってほしい」


 俺は土の地面に図を描きながら説明した。

 人が人に魔力を送る魔法は存在する。――だが、その伝達効率は悪く、使い物にならない。これは無詠唱でも同じで、せいぜい一パーセント渡せればいい方だ。


 だけど、俺には秘策があった。


「これを使う」


 俺は首からネックレスを外し、手の平に乗せた。


「ネックレスかしら?」


「ネックレスですね」


「私と同じ……」


「このネックレスは魔力を吸い取り、貯めておける機能がある。意識的にこのネックレスに魔力を流し込めば、ほぼ百パーセントの状態でここに流せる。貯まった魔力を俺が引き出せば、間接的に魔力を送ることが出来るんだ」


「なるほど……こんなものがあったんですね」


「見つけたのはたまたまだったけどな。……それで、貯めた魔力をどういう風に使うかなんだけど、それについても考えていることがある」


 俺は太陽を指差した。


「あいつの力を借りようと思う」


「どういうことでしょう」


「三人分の魔力があれば、太陽の高エネルギーを無理やり集めて、一点を攻撃できる」


「あの光が魔王を倒すだけの力があるんですか……?」


 そうか、この世界の人々は太陽のエネルギー量を知らないんだよな。なら、この反応になるのも無理はない。


「安心してくれ。そこに関しては大丈夫だ」


「わかりました。……他に手もなさそうですし、僕はアウル君に賭けてみますよ」


「私も賭けるわ!」


「アウルに助けてもらったんだし、私だって」


「みんな、ありがとう。……じゃあ、早速頼む。魔力が指を伝って流れるイメージでこのネックレスに指を」


 俺の手の平に乗せたネックレスに、三人の指が触れる。

 ネックレスを通じて、三人の魔力が流れ込んでくるのがわかる。


「さて……そろそろお出ましかな」


 三人の魔力を俺に集めていると、ケクロスが近づいてくるのがわかった。煙が上がる位置がだんだんと近づいているからだ。轟音も聞こえるようになってきた。


「よし、これだけあれば十分だ。……これ以上取ったら三人がぶっ倒れそうだしな」


「アウル君、もし良かったらこれを使ってください」


「……これは真剣か?」


「壊れた倉庫の隙間から取ってきました。役に立てばいいのですが」


「十分だよ、助かった。エスト!」


 そして、俺は三人に背を向け、ケクロスを目指して走った。

 太陽の光を一点に集めての攻撃――その破壊力はとてつもないことは想像できる。だけど、念には念を入れて、できるだけ近くから攻撃したかった。


 外したら洒落にならないから、どこを狙うべきかとそのタイミングを正確に測る。


「ふむ、諦めて出て来たか」


「残念だけど、諦めた気はない」


「剣一本用意したところで何が出来るのだ。フハハハハハハ!」


 勝手に吠えてろよ。地面を這いつくばるのはそっちなんだからな!


「うおおおおおおお!!!!」


 俺は【身体強化】をフルに使って、猛スピードで駆け出した。


 ケクロスの話つ【闇球】【闇柱】【闇礫】……その他様々な魔法を全て剣で捌いて、突っ込んでいく――。


「な、なに!? 剣だけで魔法を……!」


「くらえ――!」


 アレスに教えてもらった奥義を、俺なりに何度も改良した技。奥義――【六色剣】。炎・水・土・風・光・闇……その全ての属性を組み合わせたオリジナルの奥義だ。


 それをケクロスに一閃。

 だが――手応えはない。


「ふっ……ふふっ……この程度の技で魔王の【身体強化】を破るつもりだったとは……お遊びはこれで終わりだ、アウル・シーウェル」


「こっちも、お遊びは終わりのつもりだよ」


 準備は整った。これだけの近距離……絶対に外すわけがない。

 刹那、太陽から光速で熱エネルギーが発射され、ケクロスの左胸を貫いた――。


「な、なんだ……と……」


 神々と魔王は同種の存在なら、急所の場所も同じだ。

 ケクロスはぐったりと動かなくなった。


 一応手を触れて、脈を確認してみる。――止まっていた。

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