第34話:二回目の魔法実技
朝礼の鐘が鳴ってしばらくしてからマルグレット先生が教室に入ってきた。いつもなら鐘が鳴る前に教室に来ているのに、なぜか今日は遅れて入ってきた。……たまにはそういうこともあるのかな。
「今日は急用が入ってしまったから、授業は自習になる。……すまない。研究室にはいるから、何かあったら訪ねてくれたら対応するよ。自習の内容は問わないけど、午前の授業は僕が予告した通り【身体強化】と、時間がもしあれば【氷柱】【黒炎】の練習をしてほしい。それじゃあ、終礼を終わるね」
マルグレット先生は早口でそれだけを説明すると、すぐに教室を出て行ってしまった。
ちなみに、研究室というのは各教師に与えられる専用の個室のことだ。第一棟が学院生が授業を受ける校舎、第二棟は食堂や事務関連、第三棟には各教師の研究室が入っているという具合だ。
授業は教師の最優先業務だから、自習にするなんて普通はありえないのにどういうことだろう……。
困惑していたのは皆同じようだった。
「実技も自分たちで勝手にするってことでいいんだよね?」
「午後の時間は何したらいいんだろ……」
「と、とりあえず午前の授業よね」
そんな混乱の中、俺たちは自習をするべく全員で校庭に行った。
まずやるべきことは【身体強化】を全員が使えるようにすること。
既に半数の十三人が使える状態だから、そう時間はかからなかった。
「こんなにすぐ全員が出来るようになるなんて……!」
「マルグレット先生がいなくてもできるんだ!」
「っていうか、実技に関してはいてもいなくてもやってること変わらないんじゃない?」
「確かに変わらねえ!」
自分たちだけで【身体強化】を使えるようになったことで、いつの間にか担任教師がいない不安は解消されていた。先生にとっては複雑な気持ちだろうな。
「じゃあ、次は【氷柱】と【黒炎】の自主練習だよね!」
「そうだった! 俺たちならできるぞ!」
自習の時間はかなり盛り上がってきた。さて、頃合いだな。
「みんな聞いてくれ」
俺が一声掛けると、クラスの全員が俺に注目した。俺たち主導で【身体強化】が使えるようになったこと、剣の腕が上がったことから期待をかけているのだろう。
そして、今回もその期待は裏切らない。
「【氷柱】と【黒炎】、みんな無詠唱で使ってみたくないか?」
「む、無詠唱!?」
「【身体強化】以外の無詠唱はかなり難しいって聞くけど……」
「でもアウル組が教えてくれるならできるかも!」
また出た、アウル組。
やれやれ、こうなったら悪ノリしてやるか。
「アウル組の言う通りにやれば、必ず無詠唱でこの二つの魔法を使えるようになるぞ。……どうだ、俺たちに賭けてみないか?」
「私、賭けてみるわ!」
「どうせ先生いないんだし、俺も!」
「私もお願い!」
結局、全員が希望してきたのだった。
「よし、じゃあ始めるか。ここにいる奴なら、【身体強化】で無詠唱魔法にはイメージが大切だってことはわかったと思う。【氷柱】も【黒炎】もまったく同じだ。イメージさえできれば無詠唱で発動できるようになる。問題はそのイメージをどうやって固めるかだけど……秘策があるんだ」
アンナとエストが用意してくれた紙芝居の一ページ目を皆に見せる。
「今から話す物語を聞けば、簡単にイメージが出来上がると思う。じゃあ、始めるぞ」
◇
「なるほどなぁ、川太郎みたいにイメージをつければいいのか!」
「私でも頑張ればできるかも!」
「話も面白かった!」
二本の紙芝居を聞かせたことで、狙い通りイメージづくりの役に立てたらしい。
ここからは俺たち四人で分担して、うまくいかない生徒たちへのフォローを行う。
意外にも自力でできてしまう生徒がたくさんいたので、俺たちの仕事は少ない。
「できたああああ!」
「うそ!? できちゃった!」
「お、俺が無詠唱魔法だと!?」
次々と上がる喜びの声。その分だけ俺の目標に近づいていると思うと、俺も嬉しくなる。
こうして、午前の授業の間に全員が【氷柱】と【黒炎】の無詠唱魔法を使えるようになった。
「やりましたね、アウル君」
「恐るべしカミシバイ効果だわ……まさかこの短時間で全員ができるようになるなんて!」
「この目で見てもまだ疑っちゃうくらい凄いと思う! ほんとに!」
「なにはともあれ、大成功で良かったよ。さて、着替えたら食堂に行こうか」
◇
昼休みになり、食堂で美味しい昼食をいただいていた時に、事件は起こった。
カーン、カーン、カーン………カーン、カーン、カーン……カーン、カーン、カーン……。
時間割の節目ごとに鳴る鐘が、不自然に何度も音を鳴らした。
「あれ? もう昼休み終わりなのか?」
「いえ、まだ十二時半ですし早すぎますよ」
「でも鐘がなってるし……どういうこと?」
「しかもなんかこの鐘、回数多くない?」
「俺ちょっと外に出て様子を見に行ってくるよ」
「僕もご一緒します」
「私もいくわ」
「もちろん私も」
食堂の席を立った刹那、ドオオオオォォォォンッという轟音と地響きが俺たちを襲った。