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第31話:生徒と教師

 セリカとアンナ、エストがS組のメンバーに剣を教えている中、俺とマルグレット先生は模擬戦を始めようとしていた。何人かの生徒は俺たちの方が気になるようで、ちらほら視線を感じる。


「いつでもいいですよ」


「わかった。――じゃあ始めさせてもらうよ」


 マルグレット先生は勢いよく踏み込んで、一気に攻める作戦らしい。俺はこの時点で、勝ちのパターンが見えていた。はっきり言おう、瞬殺も可能だ。

 だけど、それでは充実した試合にならない。少しくらいは打ち合いをして、自分に何が足りないのか自分で気づかせる――そのくらいのサービスはしてあげよう。


 俺は全ての攻撃を捌ききって、後ろに後退する。

 マルグレット先生はそのまま勢いを落とさずに剣を振るってきた。今度は剣を使わずに動きを予測して、左右に身を動かして回避する。


 良くも悪くも動きが正直すぎる。

 当然俺が全ての剣を意識的に避けていることは、彼もわかっているはずだ。圧倒的な力量の違い。――それを理解した上で、諦めずに剣を振るってくる。


 その頑張りは素晴らしい。――だけど、そろそろ終わらせてもらう。


「終わりです」


 俺はマルグレット先生の背後を取り、肩にポンっと優しく叩いた。

 ――これで、試合終了だ。


 ずっと剣を振るっていた先生の疲れは凄まじいようで、終わった直後にその場にへたり込んだ。


「ありがとうございました」


「本当に、本当に感謝する……アウル君。本当に、上には上がいるんだということがわかったよ」


 マルグレット先生は悔しそうな顔をしている。でも、同時に何かを成し遂げたような満足感も混じっているように見えた。


「さて、あっちの様子を見に行ってみるか」


 俺がマルグレット先生と模擬戦をしている間にも、三人は働いてくれていた。一対一の実戦形式を順番に行い、順番待ちの生徒は試合を見ているという具合だ。


 これだけ人数が多いと、『見て盗め』戦略しかやりようがないというのが正直なところである。


 実践を終えた生徒は、そのほとんどが短期間で実力を伸ばしていた。全体の技術レベルが確実に上がっていた。途中からは俺も手伝うことで、一人が担当する人数は五人ほどになる。そのおかげで、何度も何度も試合をすることで、劇的にみんなが上手くなっていった。


 そして午後の授業終了を前に、全員に丸太斬りの挑戦をさせた。

 その結果は――。


「おおおおお! お、俺にもできたぞおおおお!!!!」


「ほ、本当にできるようになるんだ!」


「次の時間には私もできるようになるかな!?」


「俺も出来る気がしてきた!」


 最後に挑戦した生徒が、なんと一年生の目標である三センチの傷をつけることに成功したのだった。

 一人でも成功する生徒が出れば、二人目、三人目はすぐに出てくる。あと二回ほどの授業でマスターさせることができそうだ。


「セリカ、アンナ、エスト、本当にお疲れ様。ずっと動き回ってて疲れただろ?」


「そうですね。……さすがに疲れました」


「でもあれだけの試合数をこなすと、あやふやなところの理解が深まった気がするわ」


「剣技はそんなに得意じゃなかったのに、ちょっと最後楽しかったかも」


「今日はこのまままっすぐ帰って身体を休めてくれ。【黒炎】の習得は明日に回すよ」


 こんな状態ではろくに集中できないだろう。肝心のイメージが、疲れのせいで阻害されてしまうと効率が悪い。休む時は休んで、元気になってから教えればいい。


 幸いにも明日からは休日なんだからな。

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