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第29話:放課後の特訓⑤

「いやーどうも。アウルの父のアレス・シーウェルだ。今後とも息子と仲良くしてくれると嬉しいぞ」


 軽いノリで俺と友達に挨拶するアレス。


「二十年前の騒動で大活躍したもう一人の英雄――世界最強の剣士……!」


「あわわわわっ! アウルのお父様……! アレス様にお会いできるなんて剣士を目指すものとして感激です!」


 セリカはいつも顔を合わせている相手なので特に反応はないが、エストとアンナはリーシャに会った時と同じくらい恐縮していた。


「まあ、その世界最強の剣士も今や十五歳の息子に劣るけどな。会っただけで感激してくれるのはありがたいね」


 何年も前に俺はアレスを完全に超えてしまった。……だけど、それは奥義も含めたことであって、純粋な剣の実力は拮抗している。俺のライバル的な存在だ。……そうだ、これしかない。


「父さん!」


「ん、どうした? 大声出して」


「実は、事情があってこの三人を基礎から鍛えたいんだ……かなり急ぎで。そのために父さんの力を貸してほしい!」


「ん……事情が呑み込めないな。詳しく話を聞かせてくれ」


 俺は授業がつまらないこと、やりたいことがあること、そのために三人を強くしないと先に進めないということを話した。


「はははははっ! アウルらしくていい感じだ! よーし、そういうことなら俺もちょこっと手伝ってやるかな」


「本当に助かるよ」


「ちなみに訓練方法は何か考えてあるか?」


「いや、それはまだ。急遽決まったようなもんだから」


「それなら、俺に良い考えがある。手っ取り早く基礎から教えたいなら、やることは一つだぜ」


 アレスから案を出してくれるなんて、まさかの展開だった。……いや、必然か。そもそも俺に一から剣を教えてくれたのは彼だ。俺が即興で考えたことなんかより、遥かに良い方法が思いついて当たり前だ。

 学ぶことと、教えることは違う能力だ。アレスには俺の何倍もノウハウがある。


「ずばり、俺とアウルで模擬戦をするんだ」


「模擬戦? そんなことでいいの?」


「俺は再三教えて来ただろ? 『見て盗め』ってな」


 そういえば、アレスは七歳くらいまでずっとそれを言っていた。一見は百文に如かずってことわざがあるように、彼は理屈で教えるんじゃなく実戦形式で常に教えてくれた。


 見て盗み、工夫して技を破る経験は、地力を養う。大雑把なことは俺とアレスの模擬戦で覚えさせ、細かいところは実戦形式で教える。今日は急いで強くする必要があるから、模擬戦を見せるって結論に至ったのか――。


 アレスがそこまで考えて出したアイデアなのかはわからないけど、これは良い方法だと思った。


「じゃあ、早速頼むよ。木刀は――持ってきてるんだね」


「こんなこともあろうかと思ってな」


「本当は?」


「アウルの友達をしごいてやろうと思ってた」


「まったく……父さんらしいね」


「褒めてるんだよな? ……よーし、じゃあ行くぞ」


 俺とアレスの模擬戦を、三人は夢中で見ているのが伝わってきた。こうして見られながら戦うって経験はなかなかできない。そういう意味でも、模擬戦を見せるというのは正解だった。


 天才肌のアンナでも追うのに苦労するほどのスピードでの剣の打ち合い。三人は時折「おおお……」と声を漏らしていた。


 一戦目が終わった。時間にして一分もかかっていないが、かなり密度が高かったと思う。


「どうだ? 何か分かったことはあったか?」


 俺の問いに、三人がそれぞれ答える。


「とにかく技の読みあいが凄いと思いましたよ。……これは経験なんでしょうけどね。しかも絶対に姿勢を崩さない……もう芸術の域だと思いました」


「剣を振る速度は私と同じくらいなのに、明らかに手数が多いかったことに驚いたわ。メンタル的な部分もあるのかなって」


「基本技しか使ってないのに、まるで別の技みたいに見えて……とにかく凄かった!」


「おっ、そこに気づいたか。セリカ」


 エストとアンナ、剣に自信のある二人に比べればあまり自信がないセリカだからこそ根本的なところに気づいたのかもしれない。


「授業では基本技しか使わないから、あえてそれだけにしてたんだ」


「嘘でしょ!? 全然気づかなかったわ!」


「僕も気づけませんでした。……てっきりオリジナルの技かと」


「でもよく俺に合わせてくれたよね、父さん」


「剣を打ち合えば考えてることくらいわかる――と言いたいところだが、まあそこまではわからん。長年一緒に暮らしてきたからビビっときたって感じだな」


「十分それでも凄いよ……」


「じゃあ、あと何試合かやるか?」


「そうだね。でも今日はあんまり時間が無いし――あと五回ってところかな」


「よしわかった! 最後まで付き合おう」


 そして、また俺とアレスの模擬戦が始まる――。

 全ての試合が終わった頃には、みんなクタクタになっていた。俺とアレスが身体的に疲れているのに対して、三人は精神的に疲れている。


 剣の打ち合いは全ての情報が詰まっている。それを逃すまいと集中して観察していたら疲れるのも当たり前だ。時間の都合で今日は終わりにしたけど、どちらにせよこれが限界だったかもしれない。


 三人とは土曜日と日曜日――休日も集まって剣と魔法の練習をすることを約束して、今日のところは解散した。

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