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第28話:放課後の特訓④

 全員がこの短期間で【氷柱】を使えるようになった。俺が考えた紙芝居作戦は有効だったらしい。でも、俺はそれだけじゃないと思っている。


 この三人が優秀だったからだ。

 頭が良く、教えたことをすぐに吸収するエスト。

 魔法が苦手で剣だけで合格したと自称するが、変な癖がないおかげで素直に吸収するアンナ。

 詳しくはわからないが『勇者になる明確な目的』を持つセリカ。


 他の生徒たちは俺が見た限りこの三人より覚えが悪い。この三人だから即興の紙芝居でも習得できた。……だけど、同じものを見せても全員が習得できるとは思えないのだ。

 でも、アイデア自体は悪くない。なら、やるべきことは――。


「この中で一番絵が上手い人と、一番文章が上手い人でこれを元に紙芝居を作ってくれないか? 俺の力量じゃ時間をかけたから良い物を作れるって感じでもないと思うんだ」


「絵ですか……文章なら僕は少し自信がありますよ」


「お絵描きは好きだからしてもいいわよ?」


「私にはあんまり期待しないでほしいかな」


「となると……文章をエスト、絵をアンナに任せるって形でいいか? ただあんまり時間が無いんだよな」


 明日の午後に実技の授業があったはずだ。今は午後五時くらいだし、今から取り掛かっても文章はともかく絵が間に合わない。それに、【氷柱】が完成しても【黒炎】の方が絶対に完成できない。


「時間は十分にありますよ?」


 エストが不思議そうな顔をして言ってきた。


「でも次の授業は明日だろ?」


「いいえ、明日の実技は剣技の方です。終礼でマルグレット先生が時間割の変更をすると言っていたかと。明後日とその次は休日ですから、その間に進めれば問題ないのでは?」


「そうだったのか! てっきり明日も魔法の実技をやるんだと思ってたよ……」


「まあ、机に突っ伏して完全にブッチしてましたからね……。僕が声を掛けるまで微動だにしませんでしたし」


「睡眠学習ってやつだよ……」


 さすがにちょっと苦しいか。


「じゃあ月曜日までに【黒炎】の方と合わせて完成させてくるって方向で頼む。【黒炎】の原稿は明日までに用意しておくよ」


「わかりました。任せてください」


「私の方も張り切ってやらせてもらうわ。さっきのお礼も兼ねてね」


「これで次の魔法実技の方はなんとかなりそうだけど、明日の剣技の方どうしようかな……」


 多分、授業の内容としては魔法を使わない純粋な剣技の上達を図るものだと思う。でも同じレベルの者同士でチンタラ頑張っても時間だけ食いそうだ。


 俺としては魔法実技で計画したように、一年生で終わらせる部分をさっさと終わらせて、実戦形式の打ち合いや体力強化に時間を使いたい。


 現状では剣の技を教えられそうなのはエストとアンナだ。


「ちなみに僕は人に教えられるほどの自信はないですからね?」


「剣に関しては私に任せなさい! アウルと私の二人ならあっという間にみんなを達人にできるわ!」


 アンナがかなり頼もしく見える。さすがに奥義は使えないだろうけど、剣だけで合格したということはかなりの自信があるはず。俺とアンナで二人を教えれば明日はなんとかなるか?


「じゃあまずはアンナ、俺と剣の打ち合いをしてくれ。アンナができることを確かめておきたいんだ」


「わかったわ。魔法は禁止ってルールでいい?」


「もちろんだ。今回は【身体強化】もなしでいくよ」


 俺は二本の木刀を持ってきて、一本をアンナに渡した。


「用意はいい?」


「いつでも大丈夫だぞ」


 俺が答えると、アンナは勢いよく地を蹴って俺の懐に斬りかかってきた。――なるほど、実践的で良い感じだ。


 だけど、


「アンナ、基本がなってないよ」


 剣を振ることに夢中になりすぎて、足元が疎かになっている。ここには石ころが転がっている。実戦を想定して、アレスが路面の状況を悪くしていた。


 ――ビタンッ!


 アンナは勢いよく石に躓いて、転んでしまった。俺は彼女に剣を向けて、試合を終了した。


「まさかこんなに足元が悪いなんて……」


「アンナは基礎練習をあんまりやってこなかったんじゃないか?」


「……恥ずかしながら」


「天才タイプだとそうなりがちだけど、基礎を固めないことにはどこかで天井が見えるときがくると思う。限界を感じたことはないか?」


 アンナはハッと目を見開いた。


「なんでそこまでわかるの……? 最近ずっとスランプで、どうしても上手くなれなくて……。でも、入学試験では勝てたからこれ以上強くなる必要はないのかも? って舞い上がってたわ」


「はっきり言って、基礎ができていないアンナに剣を教えることは任せられないよ」


「そうね。……アウルが正しいと思うわ」


「悪いな、その気にさせたのに突き放すようなことを言って」


「ううん、今まで基礎を意識してこなかった自分が悪いもの」


 ……さて、そうなると俺が三人を基礎の部分から教えなくちゃいけないのか? 魔法も同時進行でやらなくちゃいけないとなると、ちょっと無理がある気がする。


 何かないか、何か良い方法が。


「――おっと、アウルの友達がまた増えてるな。良いことだ」


「父さん?」


 アレスが家に帰ってきていたらしい。そういえば、アレスって世界最強と言われたほどの剣士だったよな……?

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