第26話:放課後の特訓②
「じゃあ、紙芝居を始めるぞ。絵は全部で十枚。タイトルは、『氷柱の奇跡』――」
昔、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。辺境の田舎では、川から水が引かれていません。そのため、洗濯は川でしかできませんでした。
今日もお爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川で洗濯をしていました。いつものように川で洗濯をしていると、揺れている何かを見つけます。
『揺れている何か』は、お婆さんの手元まで流れてきました。お婆さんは、それを拾い上げると大変驚きました。
「あらっ、子供さね!」
川を流れてきたのは人間の子供だったのです。まだ言葉も知らない赤子でした。お婆さんは洗濯を中止して、すぐに家に帰りました。子供はいたって元気で、おぎゃーおぎゃーと鳴いています。
お婆さんは子供を抱いたりあやしたりして、必死に面倒を見ました。お乳が出ないお婆さんは、近所に住む若いお母さんから分けてもらいました。
夕方になると柴刈りからお爺さんが帰ってきました。お爺さんは普段とは何か様子が違うことに気が付きます。
「ば、婆さんや、その子は?」
「お爺さん、そのことでお話があります」
お婆さんは、この子供が川から流れてきたこと、この子を育ててやりたいということを話しました。子宝に恵まれなかったお爺さんは、二つ返事で賛成し、子供を育てていくことになります。この子は、川から流れてきたので川太郎と名付けられます。
二人の苦労の甲斐あって、子供はすくすく育ちました。
川太郎には魔法の才能が有りました。誰にも教わることなく、本だけを読んで魔法を身に着けたのです。そんな川太郎も、大人になるときが来ました。
大人になった川太郎には二つの選択肢がありました。一つ目の選択肢は、このまま田舎に残って自分を育ててくれたお爺さんとお婆さんの仕事を継ぐことです。川太郎はそれでも構わないと思っていました。
二つ目の選択肢は田舎を出て、魔法を生かせる何かをするということでした。しかし、具体的に魔法でどんなことができるのか、どんなことをするべきなのかがわかりません。
川太郎は、村の長老を訪ねました。人生相談をしたいという川太郎の願いを快く引き受けた長老は、この村の外の話を始めます。
「僕はどうすればいいんでしょうか」
「そうじゃな、例えばじゃが……」
長老は、村の外にはこの村の何百、何千倍も広い世界があり、その中には魔法を生かせる場所がきっとあると教えました。また、長老が知っている世界についても教えてくれました。
この世界の転覆を狙う赤鬼の住む島――赤鬼島の存在について触れました。赤鬼たちは人間の女の子供を拉致して、酷いことをしたのだと教えました。
このことを聞いた川太郎は、自分がやるべきこと、やりたいことに初めて気が付きます。
「僕は、赤鬼をこの世界から駆逐します。絶対に許せません」
こうして、赤鬼を倒すため川太郎は田舎を出ることになりました。やるべきことは決まっています。赤鬼島の場所を調べること。次に、赤鬼を駆逐するための方法とそのための力を身に着けることでした。
川太郎は、様々な村や街を訪れて冒険をします。根が優しい川太郎は、困った人がいるのを見つければ助けてあげていました。
「僕は要領が悪いのかな。……でも放っておけないし」
冒険は寄り道の連続だったので、なかなか赤鬼島の存在を特定できませんでした。
ですが、冒険の途中で川太郎に魅了された人たちが、次々に行動を共にすることになります。知らず知らずのうちに仲間が増えた川太郎は、人間的にも成長していきました。
冒険を始めた数年が経った頃。ついに赤鬼島の情報を入手した一行は、攻め入ることを決断しました。川太郎は十分に仲間を強化していたので、全員無事に帰れるだろうと思っていました。
……ですが、現実は残酷です。
川太郎の仲間は次々と赤鬼に傷つけられました。このままだと全滅してしまう――本気でそう思いました。
そんなピンチの中で、川太郎は【氷柱】の魔法を使えばみんなを助けて、赤鬼を倒せるのだと気づきます。たまたま仲間が使っていた氷の魔法がとてもよく効いていたので気が付きました。
川太郎はイメージします。無数の氷の柱が赤鬼に刺さることを。氷はより冷たく、より硬く。冒険の途中で一面が氷の国を訪れた時のことを思い出します。
しっかりとしたイメージを使って作られた氷の柱は、赤鬼を駆逐しました。
川太郎が何年もかけて旅をしたことは、無駄ではありませんでした。もし最初の頃に一人で赤鬼島を襲撃したとしたら、あえなく死んでしまっていたことでしょう。
その後、平和になった世界で川太郎は英雄となり、幸せになりましたとさ。
おしまい。