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第25話:放課後の特訓①

 玄関を出て、建物の隙間を通っていく。隙間と言っても人が並んで二人くらい広いから、窮屈な感じはない。通路を通って建物の裏に着く。

 ここがいつも俺とセリカで使っている庭だ。青々とした芝生が広がっていて、隣の家との敷居の前には金属製のタイルが敷いてある。


 このタイルが俺が改造して魔道具化したものだ。高温に耐えるので、炎魔法を使っても溶けることが無い。魔法の開発のために用意したものだ。


「住宅街のど真ん中にこんなに広い庭があったなんて……ちょっと衝撃だわ」


「僕の家もそこそこ広いと思ってたんですけどこれはもう格が違いますね」


「アウルの家って改めて見ると凄いよね……」


 三者三様の呟きがあった。毎日見ているセリカの目から見ても凄いらしい。俺が育った神々の村ではもっと広い庭があったけど、確かに地価が高いらしい王都でこれだけの面積を確保できるってのは冷静に考えると凄い。


「じゃあ早速、授業の予習をするぞ。次の授業はどんなことをやるんだっけ」


「【身体強化】の習得がかなり早いので、もし時間があれば今日の座学の授業で教わった【氷柱】と【黒炎】の練習をすると聞きましたよ」


「ああ、あの恥ずかしい詠唱か……」


「そんなに恥ずかしいですかね。かっこいいと思いますよ、僕は」


「最初はちょっと恥ずかしかったけど、慣れると気にならないわね」


「そもそも無詠唱で高度な魔法を使うって発想がなかったから恥ずかしくはないかな」


 うーん、そんなもんなのか。

 俺も最初からこの世界で生きていたら、ダサくて恥ずかしいとは思わなかったのかな? 遠い世界――日本で生きていた頃の記憶では、漫画とかラノベに影響された痛い子が自信満々で叫んで寒い空気になるイメージがあるから、抵抗があるのかもしれない。


「ダサいかダサくないかはともかく、やっぱり無詠唱ができるなら、それに越したことはないって感じだよな?」


「それに関しては異論はありません。僕たち人間は無詠唱で魔法を扱うのが難しいから詠唱を使っているというのが実情ですので」


「それは当然そうよ! たまに無詠唱でちょっとした魔法を使える人とか素直に尊敬しちゃうしね」


「詠唱魔法は威力が落ちるって話を聞いたら、ちょっと考え方が変わったかも」


「なるほどな。……じゃあ、例えばの話なんだけどさ。【氷柱】と【黒炎】の魔法を無詠唱でできるなら詠唱は覚える必要が無いし、授業でやる必要も無いよな?」


「アウル君の言う通りですが、さすがにクラス全員に無詠唱で使えるようにするというのは難しいかと」


 エストは俺の考えを見抜いていた。クラス全員に無詠唱魔法を使わせることで授業を潰してしまおうという狙いを。


「今日ずっと魔法のイメージのことを考えてちょっと気づいたことがあったんだ。ちょっと待っててくれ。取りに行きたいものがあるんだ」


 俺は三人を庭で待たせたまま、建物の方に帰ってある物を鞄から取り出した。それを手にもって、すぐに皆の待つ庭に戻る。


「見せたいものって、それなわけ?」


「ただのノートですか。確か今日の座学の授業で使っていたノートですね」


「あっ、もしかしてアウルの考えてることって」


 セリカは目星をつけたらしい。多分、その予想で合っている。


「そう、これだよ」


 俺はノートの一ページを開いて、板書を写したページを見せる。

 板書の部分にはまったく意味はない。指で右下を示す。


「落書きですか?」


「味がある絵を描くのね」


「呪文の説明なんて意味が無さ過ぎて話半分に聞いてたんだよ。それで、暇だからノートに落書きしてた。でも、これがヒントになった。魔法のイメージは自分で見つけないといけないけど、その手掛かりくらいなら絵で示してしまえば楽なんじゃないかってね」


「確かに理屈は通りますね。ただ、一枚の絵で魔法を発動できるほどの強固なイメージを養えるなら既にされていてもおかしくないのでは?」


「それは俺も思ってたんだ。だから、ちょっと工夫する。……具体的には、紙芝居をしようと思うんだ」


「カミシバイ……聞いたことがありませんね」


「カミシバイって何かしら?」


「私も聞いたことない。どういうものなの? アウル」


 エストとアンナの『カミシバイ』、イントネーションがなんかおかしい気がする。あれ? もしかして紙芝居をご存じでない?


 そういえばアレスとリーシャから絵本すら読み聞かせをしてもらったことがないな。……この世界の本で絵が中心のものをそういえば見たことが無い。

 教科書に難解な図はいっぱい載ってるけどね。


「紙芝居っていうのは、何枚……時には何十枚って量の絵を描いて、ストーリー仕立てにして読み聞かせするものなんだ。ストーリーと絵があれば、魔法の感覚がなんとなく掴めるんじゃないかと思ってね」


「なんとなくわかるようなわからないような……そんな感じがしますね」


「でもそれちょっと気になるわ。一回どんなものなのか作って見せてくれない?」


「私もアウルのカミシバイ気になる!」


「じゃあ急いでちゃちゃっと絵を描いてみるよ。【氷柱】の魔法の紙芝居だけど、本当に急いで書くから絵のクオリティは責めないでくれよ?」


 俺は予防線を張ってから、ノートの空いているページに一枚一枚絵を描いていく。ストーリーも大まかなものを決めて、二十分かけて完成させた。


 出来栄えは正直アレな感じだけど、今回の説明に使うくらいなら十分だろう。

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