第24話:英雄の子
放課後は、昼休みに決めた通り俺の家の庭で魔法を教えることになった。……ということで、まずはアレスとリーシャに報告して許しをもらわないとな。
「あら、また新しいお友達?」
俺の帰りに気づいたリーシャが、居間から出てきた。
「まあそんな感じだよ。ちょっとみんなで庭を使いたいから、紹介しておこうと思って」
俺が説明していると、アンナとエストがなぜか驚いていた。
「もしかしてだけど……」
「え、英雄リーシャ様ですか!?」
「あら、私のこと知ってるの?」
「そりゃあ中等学院では必ず習いますから……アウル君のファミリーネームを見てまさかとは思ってましたけど……」
もしかしてアレスとリーシャって本当に有名人なの? 王都を守る門番が知ってた時も驚いたけど、一般の学院生でも知ってるくらいの知名度なんだ……。
でもセリカは知らなかったよな?
「え、英雄様……だったんですか!?」
「やっぱりセリカは初耳か」
「私は中等学院には通ってなかったし……その、世間知らずだから」
「いやいや、俺も最近知ったばかりだからな。そういう人もいるって」
「アウル君……普通の村人レベルでも名前を聞けば驚くくらいの方ですよ」
「中等学院で詳しく学ぶってだけで名前くらいは普通知ってるわよ?」
え、そうなの? ……でもセリカは知らなかったっていうし。うーん、知らない人もいるってことじゃないのかな。
「ちょっと待って、つまり……アウルは英雄の息子ってことじゃない!?」
「そうですよ! なんで黙ってたんですか!?」
アンナとエストが俺に詰め寄ってくる。……なんか俺がやらかしちゃったみたいじゃん。
「落ち着けって! 俺が英雄の息子だとしても俺は俺だし、色眼鏡で見られたくないってのがあったんだよ」
「確かに最初から分かってたら近づかなかったかも……」
「僕はもっと私欲のためにアウル君に近づいたかもしれないですね」
「だろ? まあそんな感じで、言うべきときじゃなかったから言わなかっただけだ」
「でも、アウル君が強い理由がちょっと分かった気がします」
「そうよね、小さい時からきっと英才教育を受けてきたんでしょ?」
「それはまぁ、そうだな。詠唱なんてしたことないし、入学式の日までそんなものがあることすら知らなかったくらいだ。……でも、父さんと母さんが教えてくれたのは基本的なことだけだぞ? それをちょっと応用してみたりはしてるけどな」
【賢者】のリーシャが教えてくれた魔法自体はほとんどない。イメージのやり方と魔法の考え方が主だった。【剣士】のアレスが教えてくれたのは、実戦で使える剣技。基本をなにより大事にしていたし、奥義だって応用が利く汎用的なものばかりだった。
英才教育かと問われるとちょっと違う気がする。基本をしっかりと極めれば、三人だってまだまだ伸びしろはあるのだ。
「アウルが言った通りで、私とアレスは特別なことなんてほとんど教えていないわ。誰でもしっかり順序立てて訓練すれば身に着けられるもの。だけど、こんなに早く身に着けたのは天賦の才だと思うわ。……もう今じゃアウルと戦っても私たちでは勝てないもの」
「伝説の賢者様が勝てない相手……!? アウルって想像以上にすごいのね」
「魔法だけではなく、伝説の剣士アレス様すら超えるなんて、もう敵なしじゃないですか?」
「みんなちょっと褒めすぎだって。確かに少しくらい才能に恵まれたところがあったかもしれない。だけど、要は理解するまでのスピードの問題が大きいんだよ。みんなだって頑張ればすぐに追いつけるはずだよ」
「にわかには信じられませんが……それを目標にしましょう」
エスト、アンナ、セリカは一同にして俺の言葉を信じてくれていない。本当に頑張ればなんとかなるくらいの実力なんだけどなぁ。この学院に合格できた時点で、ある程度の才能を認められている。使いにくい詠唱魔法を工夫して使いこなしてきたんだ、無詠唱を覚えたら俺より強くなるんじゃないかとも思う。その間に俺はもっと先に進むけどさ。
「母さん、それで庭を使いたいんだけどいいかな?」
「もちろん構わないわよ。アレスが帰ったら伝えておくけどいいわよね?」
「あれ? 今父さんいないの?」
「今日は朝から出かけてるのよ。夕方には帰るって言ってたからもうすぐ帰ってくるはずよ」
朝から夕方まで外に? 何してるんだろう。買い物なら俺かリーシャに頼めばいいんだし、わざわざアレスが行くとなると……わからないな。
まあ、俺の師匠でもあるわけだし危なくなることはないと思う。帰ってきたら聞いてみよう。
「じゃあ玄関を出て庭までいくぞ。俺についてきてくれ」