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第23話:座学の授業

 昼休みが終わって、午後一時。鐘の音を合図に、午後の授業が始まった。

 今日の時間割は午前が実技の授業で、午後が座学の授業だ。この時間割は逆になることもあって、明日のは午前が座学だったりする。


 各クラスごとに校庭を使える時間帯が決まっているから、それに合わせた時間割になっているらしい。勇者学院内の特進クラスであるSクラスは校庭の使用権が優遇されていて、毎日実技の授業があるという環境だ。――これもエストのお話。本当詳しいな、アイツ。


「じゃあ、午後の授業を始めるよ。今日は理論の話をしようと思う。『魔法理論』の教科書の二ページの『重要部分』を……セリカさん、読んでもらえるかな?」


「はい」


 魔法理論の教科書は分厚い。他の教科書が二百ページくらいなのに対して、これは五百ページほどある。それだけ大切だってことらしいんだけど、感覚で覚えた方が早いモノも書いてあるから無駄が多いな。


 セリカが指名された二ページは基礎中の基礎だ。


「魔法は魔力を使った超常現象を起こす技術であり、その技術の使用には正確なイメージ力が必要になる。……ただし、そのイメージ力は現代では詠唱をすることで、効率的に再現することができるようになっている。以下は詠唱文の一例である」


「そこまで。ありがとう、セリカさん」


 マルグレット先生は、黒板に詠唱文を書き始めた。アレスやリーシャはイメージ力が大切だと言って詠唱なんて一節も教えてくれなかった。……だけど、下界では詠唱が最重要項目になってしまっている部分がある。その証拠に座学の授業もこんな風に詠唱文の説明から始まっている。


「正確なイメージさえ作ることができれば、無詠唱で魔法を使うことができる。……でも、実際にはそれが難しいから、人類は詠唱することでそのイメージを文字として後世に残してきたんだ。そのおかげで僕たちはたった二行や三行の呪文唱えるだけで魔法を使うことが出来ている……こんな風にね」


 マルグレット先生は短い呪文を唱えて、手の平に【炎球】を出した。基礎の火魔法だが、これを使えないことには話にならないってレベルのものだ。


 あれ? 何かやけに短かったような気がしたんだけど気のせいかな。それとも省略する方法でもあるのか?


「ここまでで何か質問はあるかな?」


 俺はスッと手を上げた。


「詠唱魔法って無詠唱に比べて威力が落ちますよね。それについて説明してもらえませんか」


 少し気になっていたことだった。エストは魔力試験で赤色が出るほどの魔力があるのにも関わらず魔法の威力が妙に弱かったのだ。


「……実は、詠唱魔法は先人たちのイメージを受け継ぐ上で、少しずつ効果を落としているという現実があるんだ。言葉は常に変化するから、百年前に込められたイメージと今とでは少し違う。……それが積み重なってこうなってしまったんだ。……だとしても呪文を覚えると効率がいいし、そうして勉強していくべきだとされているよ」


「そうなんですか。……ありがとうございました」


 呪文を覚えるのが効率的だとはまったく思えないんだけどな。詠唱がダサいってのはともかく、呪文を詠唱する時間は生死を分けるんじゃないか?

 実戦経験がないからなんとも言えないけど、魔物は詠唱を終えるまで待ってくれるほど優しいのかな? どうもそうは思えない。


 呪文を唱えるだけで完璧な魔法が使えるわけがない。そう分かっていても楽だから使ってしまう――人間の性ってやつなのかな。それを教育にまで持ってくるところを見ると、まともにイメージ力を育んできた者が残っていないのかもしれない。


「二ページの内容は、勇者学院の学院生ならみんな知っていることだと思う。三ページ以降も基本的な魔法の呪文だけが並んでいるから、そうだね、三十ページくらいまで進んでみようか」


 俺は手元の教科書をめくっていき、三十ページを確認する。

 うげ……。呪文呪文呪文呪文……この羅列が永遠に続いている。こんなの覚えなくても魔法使えるから! っていうか呪文をいくら覚えても新しい魔法とか作れないって……。


 はぁ、溜息しか出ない。


「剣士志望の人でもこの教科書の五十ページくらいまでの魔法は使えるようになっておくとかなり便利だから、一年生の間にここまで進みたいと思っている。二年生になったら専門に分かれちゃうから、この先を勉強するのは魔法を極めたい人だけだね。この授業では一日二個までの魔法しか紹介しないから、みんな少しずつ覚えていこうね」


 こんなの授業ごとに二個覚えるってただの苦行だよ。もう誰か止めてあげて……。

 こうして、初回の授業は基本のおさらいと、新しい呪文を二つ紹介された。授業が終わった後はクタクタだ。……何回音読させるんだよ。


「アウル君、お疲れですか?」


 机に突っ伏したままになっている俺。前の席に座っていたエストに声を掛けられた。


「まあな。あまりにも実の無い授業すぎて疲れたよ」


「無詠唱で魔法が使えるアウル君だとそうなるんでしょうね」


「エストは俺が特別だと思うか?」


「もちろんそう思っていますよ。無詠唱であんなに高度な魔法を使える人は聞いたことがありません」


「あんなの、誰でもできるんだよ。本当に難しいのはその先にある。――こうなったら、エスト含めて三人にも無詠唱をマスターしてもらって授業に抗議を入れてもらうしかないな」


 エストは、嫌みの無い笑みを浮かべた。


「無詠唱魔法が使えるようになったらと思うとワクワクしますね。ぜひ教えてほしいものです」


「明日の分の予習が終わったらみっちり教えるから、覚悟しておけよ」


「あっ、予習の件も忘れていなかったんですね。さすがです」

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